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本編

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 『あーあ。なんで騎士なんかになっちゃったの?』

 体がふわふわ浮いている感覚の中、私の頭の中では声が響いた。
 うるさい。私の勝手でしょ?

『ん~まあそうなんだけどさ?もっとこう!っていう手もあったのに、なんであえて騎士なのかな~って思ってさ』

 なるほど。冒険者になるのも魅力的だったかもしれない。そこは少しばかり後悔するところだね。

『でしょ?君の性格上冒険者の方がお似合いだと思うんだけどな~』

 まぁ、それはそれこれはこれ!的な感じでよろしく!

『え、なんか違くない?』

 だってしょうがないじゃん?流れに身を任せたらこうなったんだからさ。

『はぁー。あれから見てたから、君が少しだけでも変わったように思った僕は間違っていたのかな~』

 な!あんた見てたの!?

『うん!バッチリ見てた!君のお風呂の時までちゃんと!』

 ‥‥‥1発殴っておこうか?

『え、何かした?僕。何かしたの!?あ、トイレは見なかったよ?フン!』

 チッ!無自覚の奴を殴っても気が晴れないじゃん。!覗いたんでしょ?てか、何トイレをなかっただけで褒めてみたいなオーラ出してんの?

『え、違うの?』

 え、違くないの?‥‥‥と、とにかく!なんでお風呂姿なんて見たの?

『ん?それは君の姿がちゃんと変なところなく変化させれたか見たかったからだよ?いや~!これまで人の体を退させたことなんてなかったから、ちょっと心配だんだんだよね~!あ、でもなんの問題もなかったよ!』

 ちょ、ちょっと待て~い!今退って言った?退って言った!?

『うん。言ったけど?』

 ‥‥‥胸がなくなったのってそのせいだったりする?

『‥‥‥‥‥』

 無言は肯定として受け止めることも出来ますが、そう考えてよろしいのですか?

『‥‥‥‥‥』

 よし。肯定として受け止めます。

『‥‥怒った?』

 ‥‥‥別に?

『嘘だ!怒ってる!絶対に怒ってる!』

 そう思いたけば思えば?私はしーらない!

『え、ちょ!君に嫌われたら僕が困‥‥!‥‥ん‥‥‥て』

 え、なんて?ちゃんと言ってよ。聞こえないよ?

『時‥‥‥‥‥‥みた‥』

 だからちゃんと言ってってば!

『また会おうね』

 おい!そこだけハッキリ言うなよ!この‥‥この‥‥‥。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「この自称神様がぁぁぁあ!」

 私は飛び起きて目が覚めた。周りを見るとレクターはまだ寝ており、荷馬車のカーテンの隙間から少しだけ外が見えたが、まだ朝霧が濃い様子だった。
 それでも目が覚めてしまっていたので、外の空気を吸おうと思ったで外に出てみた。すると。

「うわぁー!すっごい!レクター!起きて起きて!」

 私は今見える外の景色をレクターに見せたかったので、まだ眠っているレクターを揺すり起こして外を見るように促した。

「ん~なんだよ~。まだ朝霧で何も見えねぇ~よ」

「バカ!もっとちゃんと見ろ!王宮が見えてるんだよ!ほら!」

 私が指さす方向を目を擦りながら見たレクターは、だんだん目が覚めてきたのか顔が明るくなってきた。

「うをぉぉ!マジだ!城だ!」

「な!見えただろ!?」

「やっぱでけぇー!」

「初めての王都なら興奮するのも普通だが、まだこんな時間なんだ。もう少し声の大きさを落とした方がいいぞ?」

 まだ朝霧がある中で、馬に乗った人が前の方からやってきた。

「あ、サレス団長!おはようございます!」

「ああ。おはよう」

 私達はピシッと敬礼をして挨拶をした。
 多分、昨日の夜はサレスが夜の警備担当だったのだろう。昨日は『もう少しで王都だから、今夜は休まず進むぞ』と言っていた。

「お疲れ様です」

「ああ。でも夜は襲撃もなかったから、ただ馬に乗って寝ただけだったがな」

 お、oh‥‥馬に乗って寝る‥ですか。流石です。サレス団長。いくら私が乗馬を習っていてもそんな事はできません。そんな事私には真似できません。

「これからすぐ入国するが、まだ寝てて大丈夫だぞ?」

「あ、なら俺は寝ます。それでは」

 そう言ってレクターは荷馬車の中へと引っ込んで行った。すぐに寝息が聞こえてきたので、やはり早く起こしすぎたのだろう。

「お前はどうする?」

「え、俺ですか?‥‥‥‥馬って他にいますか?」

 もう目が覚めてしまった私は、また寝るのは嫌だったのでそうサレスに聞いてみた。
 私の言葉に少しだけ目を見張ったサレスは、近くにいた仲間の騎士に何か呟いた。すると、その騎士が馬から手を差し伸べてきた。

「‥‥えっと~」

「馬に乗れんだろ?大丈夫だ。そいつは信用できる奴だ。決してお前を振り落とさない」

 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけどな~。1人で乗れますって意味で言ったんだけどな~。

「‥‥私ではご不満ですか?」

「え、いや、そんな事は」

 私が考えていると、手を差し伸べてきた騎士が困った表情で私を見てきた。
 ‥‥これは観念するしかないか。馬はまた今度乗ろう。

「お、オネガイシマス」

「はい」

 人を前に乗せたことがある私だが、自分が前に乗ったことの無い私だ。初体験のそれは、見知らぬ騎士と‥‥‥とっても不安でしょうがない。それに、1番辛いのは。
 ‥‥‥会話がないのだ。

「‥‥‥」

 サレスは前を歩いているが、こちらを見て話してはくれない。レクターもいないので話す相手もいない。正直いって大好きな馬に乗っているのに、息が詰まってしょうがない。

「え~と、え~と‥‥‥こ、この馬の名前はなんですか!?」

 やっと出た言葉はそんな事だった。でも、馬の名前が知りたかったのは本当なので後悔はしていない。

「この馬はランビックといいます。とてもいい子なのですが、私がいないと、私以外の人を乗せようとはしないのがたまに傷です」

「な、なるほど~」

 会話終了。
 どうしよう!てか、何故サレスは自分の馬に私を乗せず、他の人の馬に私を乗せようとしたのだ!私がそれほど人見知りをしないと見たのか?それは誤解だ!私はものすっごい人見知りです!

『嘘~。恋ちゃんが人見知りなわけないじゃん』

「っ!若葉わかば!?」

「ん?誰ですか?その人は」

 私は頭の中で聞こえた声があまりにも親友の若葉に似あていたので、つい周りを探してしまったが、後ろの騎士の声で正気に戻された。

「あ、い、いえ。なんでもありません」

 ‥‥若葉。もう会えないのかな‥‥‥やばい。涙でそう。なんで?こっちに来てからこんなこと一度もなかったのに!

「‥‥‥その方がどなたかは存じ上げませんが、あなたにとってその方がとても大切な方なのは分かります。お辛いでしょう」

「‥‥気休めの慰めはいりません」

 後ろの騎士は、器用に手網を片方の手で持ち変えて、もう片方の手で私の頭の上を撫でてきた。しかも、その撫で方は若葉の撫で方ととっても似ていた。
 やめて。撫でないで。泣いちゃうから。

「そのワカバさんがどうなったのかは知りませんし、聞く気もありません。それでも、内に秘めるよりは外に出してしまった方が楽なのでないのでしょうか」

「っ!‥‥‥ぅ、うぇ‥‥う」

 私は初めてこの世界で泣いてしまった。声は出さなかった。まだ夜が明けて無いのに私が泣いたら、みんな起きてきてしまう。だから声を殺して泣いた。後ろの騎士は私が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれた。
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