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傍観者

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 ミラが指導者を連れてきたことによって、村人たちは技術を授かり多くのものを学んだ。そして、リリィの働きにより魔法を使えるものが増えた。力仕事ばかりが中心であった男どもも休憩の間にちょくちょくシフェリの元に顔を出して。攻撃魔法を中心に教わっていた。村は活気に溢れ、復興は加速的に進んでいった。将来は一つの町を築けるほどに成長するかもしれないというほどに思えた。
 そして、それを眺める人影が常にあった。
 「あいつ諦めてねぇのか。状況は最悪。それにこの村をどうこうしたところでほとんど何も変わらないだろうに。」
 その人影は、テキパキと働く獅凰を見ながら呟いた。そしてにまりと口角をあげながら更に呟く。
 「こういうサクセスストーリーになりそうなものってちょっかい出したくなるんだよね。まあ、サクセスストーリーならたいして損害を与えられないんだろうけど。」
 こうしてその人影は森に消えていった。
 一方村では…
 「獅凰さん、家の建設全て終わりました。」
 家の建設は終わり。
 「獅凰~。ある程度の魔法は教えたのです~」
 魔法の教育も順調に進み。
 「し~お~う~。私何か活躍した!?私の出番なくてぐやしいよ~」
 レイラは子守りぐらいしかすることがなく、なにもしていないことに悔しさを抱いていた。
 「そう泣くなって、すぐにやることが出来るって」
 と獅凰がレイラの頭を撫で撫でしているときに、それをよだれを垂らしながら羨ましそうに見ていたシフェリの表情が一変し、険しい面持ちとなった。
 「獅凰!西からスコッピオウルフの群れが!」
 シフェリの、魔力で村の周りに張っていたセンサーがモンスターの群に反応した。そしてそれらは真っ直ぐこちらへ向かってきているという。
 「数は!ってかなんだそりゃ!」
 獅凰は状況を詳しく理解しようと努力した。
 「数は、約20!スコッピオウルフは、唾液に爆発する成分を持つ狼です!」
 「つまり?!」
 「噛まれると爆発します。」
 「程度は?」
 「腕に受けたとして、腕が吹き飛ばない程度です。しかし、大物になると体が破裂するほどらしいです。」
 「やっと私の出番だ~!」
 緊急事態だというのにのんきに尻尾を振りながら獅凰の元にレイラが駆け寄ってきた。
 「それほどのでかさのやつはいるか?」
 真剣な表情で聞きながら、グイグイと寄せてくるレイラの顔を手で押さえる。
 「いないのです!」
 獅凰はこの時点で、自分が手を出さないことに決めた。そして、村の男どもを集めた。
 「シフェリしばらくどこかで足止めできるか?」
 「やってみるのです。」
 獅凰は、時間を作り村の男どもに話しかけた。
 「村で安全に過ごしたいか?家族に安心を与えたいか?」
 男どもは頷く。
 「今はその安心が提供されているな?だが、それは自分でいうのもなんだが俺たちのお陰だ。お前らが努力で勝ち取ったものじゃない。」
 話を聞いていた男たちは、顔をうつ向けた。「自分達は何も出来ていない」と、そう感じたのだ。だから獅凰の言葉に何一つ言うことが出来なかった。
 「だけどお前らはここ数日でいろいろと学んだはずだ。頭を働かせる行動をとっただろう。さらにシフェリから攻撃魔法を取得したやつもいるだろ!だったらここがチャンスだろ!俺に村ひとつも守れないのかとバカにされたままでいいのか!頭を動かせ!体を使え!自分達のやりたいことをしろ!」
 獅凰の言葉は、男どもの士気を最大限に引き上げた。そして、レイラの士気も……
 「よっしゃいくぞー!」
 むさ苦しい男の掛け声の中に女の声が混ざっていた。モンスターのもとへかけていく、男と共にレイラも走り出そうとした。が、そのレイラの首もとをつかみ獅凰はこう言った。
 「ここはレイラの出番じゃない。」
 その後、獅凰は前方に走る男たちに叫んだ。
 「俺は一切助けねぇし。知恵も貸さねぇ!ノルマはモンスターを一匹たりとも村に入れることなく誰1人かけることなく戻って来ること!以上!」
 男たちは、一瞬振り向き不安そうな表情を表に出したが、それでも前にすすんだ。
 シフェリのセンサーに、スコッピオウルフが反応した頃。村が一望できる岩山の頂上では…
 「さぁてと、お手並み拝見ですね。」
 人影は、双眼鏡を手に村付近を眺めていた。
 「お、やっと気づいた。ここで、あいつが手を出せば三流。お手本を見せつつ村の者たちに教育すれば二流。一切手を出さない、もしくは彼らの士気を上げて彼ら自身から動かすことが出来れば一流ってところかな。さてあいつは何流だ?」
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