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第3話

ザティス・ト・バーン

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 チリンチリン。
 本屋の玄関の扉が開かれたと同時に馬の嘶く声と従者らしき人を両端に従え堂々たる登場をして来た彼。
 ”ザティス・ト・バーン”
 バーン伯爵家の次男である彼は、伯爵家の当主として現在名が挙がっている。本来なら彼の兄である長男が伯爵家の当主になるはずだが、私も参加したあのパーティーの日を境に数人の従者と村はずれの小さな家に籠ったらしい。
 いわゆる家でだろう。
 なんでも、あのパーティーの日に彼が結婚相手を紹介されたらしいのだが、その日一目惚れをしたのは全く別の人だったらしく。要するに妻に迎えたいと思えない人と政略結婚などごめんだ!屋敷を出る!と出て行ったとかなんとか…一目惚れした、かの女性を探す為に領民と生活をしているだとか…所詮は噂に過ぎない。なにせ、誰も彼を見て居ないのだから。

 確か…名前…うーん、思い出せない。
 なにせ、私は彼らの事は全く興味も無く。あの日は本を読んでいた事と渡した本の事しか覚えていないから…

 そして、ザティス様はズカズカと私の前に来て悪魔の様な笑顔でこう言った。

「お待ち致しておりました。ザティス・ト・バーン次期伯爵様。」
「ふんっ。全く可愛げもない貧相な女だ。これを嫁にか?バカバカしい!」

 両の手を腰に当て上から目線でよくもまぁ、言ってくれるわ!
 確かに彼は、オレンジ色の髪に黄色の瞳。正装は、きらびやかに飾られさぞ、他のご令嬢は感嘆の声を発するだろう。しかし、私にはどうでもいい。
 それに、約束の彼の方が断然いい!!
 だが…

「…それは申し訳ありません。ですが、私も夢見る女性の1人であります。出来ればその端正な容姿でその様な御言葉と態度は今後謹んで頂いた方が、この先楽になりますと失礼ながらアドバイスをさせて頂きます。」
「なっ!?」
「それと、今回の件につきましては不肖元父が勝手にしだした事ゆえ、契約は、仕方がないと受け止めて下さい。なんでしたら、ザティス様から契約を破棄して頂いても構いませんが?如何いたしますか?」
「いや…そ、それは困る!こほんっ、わ、私が悪かった。」
「いえいえ。では契約書を書かせて頂きます。」

 私は笑顔で毒を吐き、書類を作成していく。
 なぜ、私が彼を挑発したのか?
 それは簡単である。彼は、噂によれば昔から長男と比べられる事が多かったらしく。性格が曲がってしまい押しに弱いらしい。また物事に負けるのが一番嫌いらしい。ので、私はあえて遠回しに「私は貴方が引かなければ引いてやらないでもない」と圧をかけたのだ。
 それに上手い事乗ってくれてありがたい。
 また、この婚約に関して私から引く事はあり得ない。
 なぜなら…

 向こうが勝手に喧嘩を売ってきたのだから、最上級の反撃をもってコテンパンにやり返し
 もう二度と私達に関わらせないようにする為には、私が引いてはいけないからだ。
 また、あのパーティーの日に居た約束の彼はバーン伯爵家と関わりがあったらしい。
 約束の彼を探す為にも私は彼を利用しようと考えたのだ。

 さぁ、契約書を作成し策を練り
 ーー反撃の狼煙を上げようではないか!

 あ、ちゃんと本を読む時間と母さん達に会う時間。それとハルーと話す時間。これだけは、何が何でも邪魔させないけど♪

 そうして、黙ったままのザティス様の目の前でニコニコとペンを走らせ契約書を書いていく私だった。
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