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第5章 別れの時、始まる運命

赤いキミと手

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 母様の墓の前に居た黒い影…
 何が居るのかと声をかけようとミーラは近くまで行こうとする。
 すると、黒い影は一度ゆっくりと振り返りミーラを見た。
 ミーラには暗くてよくは見えなかったが、しっかりと見据えられたように感じ、ミーラはその瞳からは逃れられないように身体がその場から動かなかった。
 何秒間かその状態で固まって居たが、ふと気がつくと黒い影は目の前から消えていた。
 何が起きたのかと驚いたミーラは、先ほどまで黒い影が居た場所に急いで駆け寄り周囲を見渡した。
 だが、やはり誰も居なかった。
 ただ、足元に月夜の光を浴びて輝くものがあった。
(あの黒い影に繋がるかもしれない。)
 そう思ったミーラは、それを拾い上げた。それは何本もあり、母様の墓の周囲を囲むように落ちていた。ミーラはそれを一つ二つと拾い上げる。
 その後のミーラは、拾い上げたものを片手に持ち母様の墓に手を合わせた。

「母様……」

 ミーラには先ほどまで母様の墓石の前に出たら何を話そうかと考えて居た事がたくさんあったはずだった。しかし、突如ミーラの前に現れたバルンハルト。そして先ほどの墓の前に立つ黒い影。
 …ラルト・アーランドの事。
 全てが急過ぎて、考える事があり過ぎて混乱して…
 結局母様の墓石に対し何一つ…話すことも出来なかった。
 ただ、母様が”大好き”と感じてくれていた”笑顔”だけを見せミーラは気持ち新たにラルトの待つ森の出口に向かって歩き出した。

(私は知らない事があり過ぎる。知らなきゃいけないことがあり過ぎる。だから…知らなきゃいけない。…だから先ずは明日の朝バルンハルトに)

 森の出口にたどり着くと月明かりの下でラルトが笑顔でミーラの帰りを待って居た。
 そしてラルトは、ミーラの右手を取り優しく握りった。ミーラは「ん?」と一瞬握られた事に戸惑ったが薄暗くなって来た道を真っ直ぐに見つめるラルトの顔がほんの少しだけ赤らんで居たのが見え

(…今だけ…今だけは、気にしないで居てあげよう。)

 となぜか胸の奥が暖かく感じながらもミーラとラルト、2人は手を繋ぎラルトの両親の待って居るだろう家へと帰って行った。
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