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5章.Dies irae
会いたい
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――もう一度、ルシに会いたい。
ミカエルは目を閉じてルシエルの波長を捉えようとした。
集中してもわからない。ルシエルがわからないようにしているのだろう。
顔を上げ、まっすぐにアズラエルを見る。
「おまえは色んな所に行ったことがあるんだよな」
突然の質問に動じることなく、アズラエルは微笑を浮かべた。
「それはもう、古今東西」
「頼みがある」
ミカエルは凛とした眼差しで彼を捉えたまま、ルシエルと再会したい旨を語った。
「探し人の情報と、移動の手伝い。二点のご依頼ということですね」
「ああ」
「依頼料の請求先は貴方で?」
「……ああ」
ミカエルは一瞬、言葉を失った。費用について、まったく頭になかったのだ。
「金ならある」
王権下でのデビル退治を辞めたとき、報酬としてたくさんの金貨をもらった。それに、今は教皇庁から報酬を得ている。
「では、後ほど請求します」
「おう」
「これをお持ちください」
アズラエルがミカエルの手のひらに乗せたのは、鉱物を紐で吊るしたネックレスだった。
「何かありましたら、こちらに触れて私の名をお呼びください」
「ツーコーと同じ感じか?」
「会話はできません。呼ばれたら参ります。それでは、幸運を」
社交辞令の声に見送られ、ミカエルは振り返ることなく歩み出す。
黙々と足を動かし続け、山頂付近まで来てほぅと息を吐きだした。
「ミカ、」
不意に聞こえた涼やかな声。ゾフィエルが手を上げやって来る。辺りを見渡し、笑みを溢した。
「見晴らしがいいな」
「おう」
眼下に望む町や田畑に草原。向こうの山々もよく見える。
「……彼はまだ戻らないか」
「……ああ」
「そうか…」
ゾフィエルは心配して来てくれたのかもしれない。
「さっき、アズラエルと会った。ルシを探してほしいって頼んだぜ」
「彼の居場所はわからないんだな」
「おう。けど、ぜってぇ見つけて、また会ってやる」
クッと口角を上げると、ゾフィエルは安心したように微笑み、頷いた。
「おまえは相変わらず忙しそうだな」
「ああ…、次はナンバラ王国へ行く。先王の血を継ぐ者が幽閉されてな。彼を助けに行くんだ」
「へえ。人助けか」
意外に思っていると、ゾフィエルは苦笑する。
「君の想像通りだ。政策のためさ。ナンバラは、サクラムとブランリスの間にある小国でな。王位を狙っている者はサクラム寄りなんだ」
ナンバラ王国は、跡継ぎ問題で大臣たちの意見が割れ、激しい内乱が起こっているらしい。
なんでも、「息子を後継に」と言い残して女王が亡くなったのだが、女王の夫なる人物が再婚した女性が野心家で、自分たちの間に生まれた子に王位を継がせようとしているのだとか。
「……ブランリスとしては、こっち寄りの王様でいてほしいってことか」
「ああ。正当なる後継者は、ブランリス王家の遠縁にあたるしな。ちなみに、彼を幽閉した父親はサクラム出身だ」
ナンバラ王国には、王ヨハエルも向かうらしい。戦場に強いサクラム王も出てくるに違いないとのこと。それはフェルナンデルやレリエルの祖父にあたる人物だ。ちなみに彼らの父親は、イファノエ帝国の皇帝である。
「言っちまえば、ブランリスとサクラムの王家同士が戦する感じだな」
「その通りだ。お二方には因縁があってな」
「因縁?」
「もともと馬が合わないらしいが、過去には女性を取り合って戦になりかけた」
「……へえ」
「それが君の母君だ」
ミカエルは目を瞬いた。
「そういうわけで、少しの間、すぐには君のところへ来られなくなる」
「おう」
「ではな」
「なぁ、」
いつものようにサラッと瞬間移動しようとしたゾフィエルを引きとめる。ミカエルは、小首を傾げて言った。
「おまえも闘うんだろ。力の融合、したほうがいいんじゃね?」
「……いいのか?」
「……おう」
ゾフィエルはかすかに笑んでミカエルを抱きしめた。
「送るぞ」
「ん、」
黄金色の波が押し寄せる。
この恍惚とした感覚は、望まない体験で知ったものより深く内側から湧き出るようだ。心地良く、穏やかに満たされていく――。
満たされれば自然と溢れ、エネルギァは彼へ向かった。ミカエルは心地良さのなか、混じり合って一つになる感覚に身を任せる。
「……行ってくる」
「ああ」
緑味を帯びた群青色の瞳と近距離で見詰め合う。
ミカエルの頬をそっと撫で、ゾフィエルは瞬間移動で消えた。
ミカエルは目を閉じてルシエルの波長を捉えようとした。
集中してもわからない。ルシエルがわからないようにしているのだろう。
顔を上げ、まっすぐにアズラエルを見る。
「おまえは色んな所に行ったことがあるんだよな」
突然の質問に動じることなく、アズラエルは微笑を浮かべた。
「それはもう、古今東西」
「頼みがある」
ミカエルは凛とした眼差しで彼を捉えたまま、ルシエルと再会したい旨を語った。
「探し人の情報と、移動の手伝い。二点のご依頼ということですね」
「ああ」
「依頼料の請求先は貴方で?」
「……ああ」
ミカエルは一瞬、言葉を失った。費用について、まったく頭になかったのだ。
「金ならある」
王権下でのデビル退治を辞めたとき、報酬としてたくさんの金貨をもらった。それに、今は教皇庁から報酬を得ている。
「では、後ほど請求します」
「おう」
「これをお持ちください」
アズラエルがミカエルの手のひらに乗せたのは、鉱物を紐で吊るしたネックレスだった。
「何かありましたら、こちらに触れて私の名をお呼びください」
「ツーコーと同じ感じか?」
「会話はできません。呼ばれたら参ります。それでは、幸運を」
社交辞令の声に見送られ、ミカエルは振り返ることなく歩み出す。
黙々と足を動かし続け、山頂付近まで来てほぅと息を吐きだした。
「ミカ、」
不意に聞こえた涼やかな声。ゾフィエルが手を上げやって来る。辺りを見渡し、笑みを溢した。
「見晴らしがいいな」
「おう」
眼下に望む町や田畑に草原。向こうの山々もよく見える。
「……彼はまだ戻らないか」
「……ああ」
「そうか…」
ゾフィエルは心配して来てくれたのかもしれない。
「さっき、アズラエルと会った。ルシを探してほしいって頼んだぜ」
「彼の居場所はわからないんだな」
「おう。けど、ぜってぇ見つけて、また会ってやる」
クッと口角を上げると、ゾフィエルは安心したように微笑み、頷いた。
「おまえは相変わらず忙しそうだな」
「ああ…、次はナンバラ王国へ行く。先王の血を継ぐ者が幽閉されてな。彼を助けに行くんだ」
「へえ。人助けか」
意外に思っていると、ゾフィエルは苦笑する。
「君の想像通りだ。政策のためさ。ナンバラは、サクラムとブランリスの間にある小国でな。王位を狙っている者はサクラム寄りなんだ」
ナンバラ王国は、跡継ぎ問題で大臣たちの意見が割れ、激しい内乱が起こっているらしい。
なんでも、「息子を後継に」と言い残して女王が亡くなったのだが、女王の夫なる人物が再婚した女性が野心家で、自分たちの間に生まれた子に王位を継がせようとしているのだとか。
「……ブランリスとしては、こっち寄りの王様でいてほしいってことか」
「ああ。正当なる後継者は、ブランリス王家の遠縁にあたるしな。ちなみに、彼を幽閉した父親はサクラム出身だ」
ナンバラ王国には、王ヨハエルも向かうらしい。戦場に強いサクラム王も出てくるに違いないとのこと。それはフェルナンデルやレリエルの祖父にあたる人物だ。ちなみに彼らの父親は、イファノエ帝国の皇帝である。
「言っちまえば、ブランリスとサクラムの王家同士が戦する感じだな」
「その通りだ。お二方には因縁があってな」
「因縁?」
「もともと馬が合わないらしいが、過去には女性を取り合って戦になりかけた」
「……へえ」
「それが君の母君だ」
ミカエルは目を瞬いた。
「そういうわけで、少しの間、すぐには君のところへ来られなくなる」
「おう」
「ではな」
「なぁ、」
いつものようにサラッと瞬間移動しようとしたゾフィエルを引きとめる。ミカエルは、小首を傾げて言った。
「おまえも闘うんだろ。力の融合、したほうがいいんじゃね?」
「……いいのか?」
「……おう」
ゾフィエルはかすかに笑んでミカエルを抱きしめた。
「送るぞ」
「ん、」
黄金色の波が押し寄せる。
この恍惚とした感覚は、望まない体験で知ったものより深く内側から湧き出るようだ。心地良く、穏やかに満たされていく――。
満たされれば自然と溢れ、エネルギァは彼へ向かった。ミカエルは心地良さのなか、混じり合って一つになる感覚に身を任せる。
「……行ってくる」
「ああ」
緑味を帯びた群青色の瞳と近距離で見詰め合う。
ミカエルの頬をそっと撫で、ゾフィエルは瞬間移動で消えた。
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