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5章.Dies irae
先輩方
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教皇領の門番は顔パスだ。ミカエルはそのままスムーズに教皇がいる宮殿へ向かった。
「やっ、ミカエル」
途中、大通りで声を掛けてきたのは、ウリエルの推薦で衛兵になったというシャムシェルだった。ピンクゴールドの髪を三つ編みにしている。ちょっとタレ目な瞳を穏やかに細める彼は、いつも楽しそうである。
聞いたときには驚いたものだが、シャムシェルはウリエルのバディだ。そして、ミカエルの先輩なのだった。
「今日は報告に?」
「はい」
「ご苦労さまだね。……何かあった? 浮かない顔だ」
笑顔が引っ込み、琥珀色に近い瞳がじっとミカエルを見詰める。
ミカエルは肩をすくめた。
「悪魔崇拝の人たちに遭遇して」
「遭遇して?」
「儀式の途中で乱入して、」
「乱入!?」
シャムシェルが身を乗りだして聞いてくるので、ミカエルは一連の出来事を語ることになった。
「それは大変だったね。君たちやその子が無事でよかった」
「はい」
頷けば、シャムシェルは腰に手を当てる。
「君たちが強いのは知っているけど。やつら、何をするかわからないんだ。次があったら乗りこむ前に連絡するんだよ。ツーコー、持ってるだろ? 赤い豹あたりが応援に駆けつけるはずさ」
通信用鉱石。通称、ツーコー。それは平たく透明な鉱物が核になっている機器で、それを持つ者と会話ができる。いつかの洞窟で衛兵が使っていた物だ。
「赤い豹?」
ミカエルが首を傾げると、シャムシェルは目を瞬いた。どうやら、赤い豹は誰もが知っているほどの有名人らしい。
「デビル関連の精鋭部隊の部隊長殿。チャムエルって名前だよ。君も会ったことがあるんじゃないかな。長い赤髪をポニーテールにしてる」
「ああ…」
何度か現場で鉢合わせになった人だ。
「彼のお兄さんは枢機卿でね、セラフィエルっていうんだけど。君も会うことがあるかもね。あの赤髪を見れば、シュイツ出身だって一目でわかる。シュイツの人は強いんだ」
そういえば、ヨハエルが先の戦でシュイツの傭兵を雇ったのどうのと、ラジエルが話していた。
シャムシェルはミカエルに並んで教皇宮殿へ向け歩き出す。ミカエルはふと気になって聞いてみた。
「ウリエル…隊長、ずっと調子が良くなさそうだけど、なんでですか」
「うーん、それは僕も気になってるところだよ。ご…隊長は何も話してくれないから」
「バディなのに?」
「……ね。ああ、それじゃあ、僕はこっちだから」
シャムシェルは軽く手を上げ、曲がり角を曲がって行った。ミカエルは通い慣れた廊下を進み、螺旋階段をぐるぐる上る。教皇のいる部屋の前には、今日も衛兵が立っていた。
すっと佇む誠実そうな青年の名前はハスディエル。シャムシェルと同じく、ウリエルの推薦で来たらしい。
「おつかれ」
「おつかれデス」
淡い草色の髪。穏やかな灰青の瞳はいつもまっすぐにミカエルを捉える。彼の空気感が、ミカエルには心地良かった。
サクッと教皇への報告を済ませ、ミカエルは部屋を出る。
「君もラファエルさんから治癒を習っているのかい?」
おもむろにハスディエルが言った。たまに二人でいるのを目撃されたのだろう。
「……まぁ。あなたも?」
「ああ。力の使い方を」
ハスディエルは治癒が得意なのだという。
「俺、あんま得意じゃないです」
「そうか。人それぞれ、向き不向きがあるからな。得意なことを伸ばせばいいんじゃないか?」
そんな話をしているうちに、螺旋階段を上がってラファエルがやって来た。
「ラファエルさん、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
ミカエルも半目でそれらしく挨拶する。ラファエルはかすかに動きを止めたあと、いつもの微笑でミカエルに言った。
「来てたんですね。ちょっといいですか?」
「はい」
ミカエルはハスディエルに目礼し、ラファエルに続いた。
「やっ、ミカエル」
途中、大通りで声を掛けてきたのは、ウリエルの推薦で衛兵になったというシャムシェルだった。ピンクゴールドの髪を三つ編みにしている。ちょっとタレ目な瞳を穏やかに細める彼は、いつも楽しそうである。
聞いたときには驚いたものだが、シャムシェルはウリエルのバディだ。そして、ミカエルの先輩なのだった。
「今日は報告に?」
「はい」
「ご苦労さまだね。……何かあった? 浮かない顔だ」
笑顔が引っ込み、琥珀色に近い瞳がじっとミカエルを見詰める。
ミカエルは肩をすくめた。
「悪魔崇拝の人たちに遭遇して」
「遭遇して?」
「儀式の途中で乱入して、」
「乱入!?」
シャムシェルが身を乗りだして聞いてくるので、ミカエルは一連の出来事を語ることになった。
「それは大変だったね。君たちやその子が無事でよかった」
「はい」
頷けば、シャムシェルは腰に手を当てる。
「君たちが強いのは知っているけど。やつら、何をするかわからないんだ。次があったら乗りこむ前に連絡するんだよ。ツーコー、持ってるだろ? 赤い豹あたりが応援に駆けつけるはずさ」
通信用鉱石。通称、ツーコー。それは平たく透明な鉱物が核になっている機器で、それを持つ者と会話ができる。いつかの洞窟で衛兵が使っていた物だ。
「赤い豹?」
ミカエルが首を傾げると、シャムシェルは目を瞬いた。どうやら、赤い豹は誰もが知っているほどの有名人らしい。
「デビル関連の精鋭部隊の部隊長殿。チャムエルって名前だよ。君も会ったことがあるんじゃないかな。長い赤髪をポニーテールにしてる」
「ああ…」
何度か現場で鉢合わせになった人だ。
「彼のお兄さんは枢機卿でね、セラフィエルっていうんだけど。君も会うことがあるかもね。あの赤髪を見れば、シュイツ出身だって一目でわかる。シュイツの人は強いんだ」
そういえば、ヨハエルが先の戦でシュイツの傭兵を雇ったのどうのと、ラジエルが話していた。
シャムシェルはミカエルに並んで教皇宮殿へ向け歩き出す。ミカエルはふと気になって聞いてみた。
「ウリエル…隊長、ずっと調子が良くなさそうだけど、なんでですか」
「うーん、それは僕も気になってるところだよ。ご…隊長は何も話してくれないから」
「バディなのに?」
「……ね。ああ、それじゃあ、僕はこっちだから」
シャムシェルは軽く手を上げ、曲がり角を曲がって行った。ミカエルは通い慣れた廊下を進み、螺旋階段をぐるぐる上る。教皇のいる部屋の前には、今日も衛兵が立っていた。
すっと佇む誠実そうな青年の名前はハスディエル。シャムシェルと同じく、ウリエルの推薦で来たらしい。
「おつかれ」
「おつかれデス」
淡い草色の髪。穏やかな灰青の瞳はいつもまっすぐにミカエルを捉える。彼の空気感が、ミカエルには心地良かった。
サクッと教皇への報告を済ませ、ミカエルは部屋を出る。
「君もラファエルさんから治癒を習っているのかい?」
おもむろにハスディエルが言った。たまに二人でいるのを目撃されたのだろう。
「……まぁ。あなたも?」
「ああ。力の使い方を」
ハスディエルは治癒が得意なのだという。
「俺、あんま得意じゃないです」
「そうか。人それぞれ、向き不向きがあるからな。得意なことを伸ばせばいいんじゃないか?」
そんな話をしているうちに、螺旋階段を上がってラファエルがやって来た。
「ラファエルさん、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
ミカエルも半目でそれらしく挨拶する。ラファエルはかすかに動きを止めたあと、いつもの微笑でミカエルに言った。
「来てたんですね。ちょっといいですか?」
「はい」
ミカエルはハスディエルに目礼し、ラファエルに続いた。
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