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4章.Tractus
ヨハネスの行方
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ミカエルはさっそく、ヨハネスらが連絡先をマヤばぁに教えていたことを伝えた。
「その方のところへ、ご案内願います」
イレーネルの付き人の男が歩み出る。ミカエルはルシエルに目をやり、男の手を取って瞬間移動した。続いてルシエルがやって来る。
一晩泊めてもらった小さな家の扉を叩くと、マヤばぁが姿を現した。ミカエルとルシエルを交互に見上げ、首を傾げる。
「なんだい、まだいたのかい」
「いや。聞きたいことがあって」
ミカエルはさっそく話し出す。
「俺らの前に訪ねてきた二人組がいただろ。そいつらの連絡先、知ってるか?」
「どうしてそんな事聞くのさ」
事情を知っているらしいマヤばぁは腰に手を当て、怪訝な顔をした。
ミカエルが口を開こうとしたとき、連れてきた男がお辞儀し、自身の身分を明かした。そうして、丁寧に話す。
「その方は、陛下の弟君であらせられます。私どもは、彼を保護したいのです」
「……言われてみれば、そうなるかねぇ。いまの女王は、カレンデウラから嫁いで来たんだったね」
「はい。陛下は彼の味方です」
「本当に味方なのかい?」
「味方です」
マヤばぁは男の顔をじーっと見た。男は後ろに下がりたいのを必死に我慢するような顔で、その場に留まり耐えている。
「……わかったよ。ちょっと待ってな」
しばらくして、マヤばぁはそう言うと、一度引っ込んで紙切れを持って来た。そこに書かれていた住所を男が手帳に写し取る。
「ご協力、ありがとうございます」
「あの子はもう、この国にはいないと思うがね」
「……はい?」
「詳しいことは知らないよ。そこ行って聞いてみな」
男は頷くと、ミカエルに手を差し伸べた。
「この町には行ったことがあります」
ミカエルは頷いて男の手を取った。ルシエルが続く。
出現した先は、海沿いの町だった。男によると、ミカエルたちが入国した港町に近いらしい。
「こちらです」
小道の多い、入り組んだ町だった。
男は表札を頼りにスタスタ歩く。彼がいなければ、目的の場所に行き着くのは一苦労だっただろう。
「ああ、ここですね」
似たような曲がり角を何度か曲がり、男が足を止めた。二階建ての建物だ。どうやらそこは、宿屋のようである。受付の女性に要件を話し、中へ入れてもらった。
階段を上がって、二階の一番奥の部屋。
男がノックすると、少しだけドアが開いた。
「……なにか?」
さすがに警戒している。男が声を落として身分を話すと、ようやくドアが開かれた。
中にいたのは、男二人だった。ヨハネスも付き人っぽい青年もいない。
「彼は?」
「その前に。あなた方は味方なのですな」
イレーネルの意志を知った男たちは、ようやくヨハネスについて話してくれた。
「ヨハネス様はイレーネル様の迷惑にならぬよう、早々にこの地を立ちました」
男たちはどうやら、ヨハネスの忠臣らしい。同行すると言ったそうだが、目立つのを避けるため、ヨハネスは二人旅を選択した。男たちはヨハネスと少し距離を取り、付かず離れずで来たようだ。
「ヨハネス様を慕う者は多いのですが、事を荒立てたくないとおっしゃりましてな。こうして逃亡しておられるわけです」
「それで、すでに国外へ?」
「はい。連絡手段はあります。今からお戻りいただいたら…、明日の昼ごろになるかと。とりあえず、ヨハネス様にお繋ぎしますな」
男は胸元に手を当てる。少しして、ミカエルたちの方を向き、頷いた。どうやら通信中らしい。声を出しているわけでもないので、どのように通信が行われているのか、ミカエルにはさっぱりだった。
ヨハネスを交えて話し合いが続く。
「ーーヨハネス様が、お戻りになると」
イレーネルの使者はホッと息を吐くように頷いた。
「それでは、城へ戻りましょう」
差し伸べられた手に手を乗せると、「お願いします」と言われ、肩をすくめて瞬間移動したミカエルだった。
城へ戻ったミカエルたちは、さっそくイレーネルを訪ねた。報告を聞いたイレーネルが胸を撫で下ろす。窓の外はすっかり橙色になっていた。
そのとき、女官がすすす…っとやって来て、イレーネルにお辞儀した。
「陛下、ブランリスの者が一名、港に到着したとのことです。じきに書簡が届くかと」
「……早かったな」
その者は、一足先にイマリゴへ来たのだろう。これからやって来る部隊が、スムーズに入国できるようにするために。イレーネルが許可すれば、その部隊はこの城にやって来る。
「ヨハネスが先か、ブランリスの部隊が先か…」
イレーネルは鮮やかに色づいた空をじっと見ていた。
「その方のところへ、ご案内願います」
イレーネルの付き人の男が歩み出る。ミカエルはルシエルに目をやり、男の手を取って瞬間移動した。続いてルシエルがやって来る。
一晩泊めてもらった小さな家の扉を叩くと、マヤばぁが姿を現した。ミカエルとルシエルを交互に見上げ、首を傾げる。
「なんだい、まだいたのかい」
「いや。聞きたいことがあって」
ミカエルはさっそく話し出す。
「俺らの前に訪ねてきた二人組がいただろ。そいつらの連絡先、知ってるか?」
「どうしてそんな事聞くのさ」
事情を知っているらしいマヤばぁは腰に手を当て、怪訝な顔をした。
ミカエルが口を開こうとしたとき、連れてきた男がお辞儀し、自身の身分を明かした。そうして、丁寧に話す。
「その方は、陛下の弟君であらせられます。私どもは、彼を保護したいのです」
「……言われてみれば、そうなるかねぇ。いまの女王は、カレンデウラから嫁いで来たんだったね」
「はい。陛下は彼の味方です」
「本当に味方なのかい?」
「味方です」
マヤばぁは男の顔をじーっと見た。男は後ろに下がりたいのを必死に我慢するような顔で、その場に留まり耐えている。
「……わかったよ。ちょっと待ってな」
しばらくして、マヤばぁはそう言うと、一度引っ込んで紙切れを持って来た。そこに書かれていた住所を男が手帳に写し取る。
「ご協力、ありがとうございます」
「あの子はもう、この国にはいないと思うがね」
「……はい?」
「詳しいことは知らないよ。そこ行って聞いてみな」
男は頷くと、ミカエルに手を差し伸べた。
「この町には行ったことがあります」
ミカエルは頷いて男の手を取った。ルシエルが続く。
出現した先は、海沿いの町だった。男によると、ミカエルたちが入国した港町に近いらしい。
「こちらです」
小道の多い、入り組んだ町だった。
男は表札を頼りにスタスタ歩く。彼がいなければ、目的の場所に行き着くのは一苦労だっただろう。
「ああ、ここですね」
似たような曲がり角を何度か曲がり、男が足を止めた。二階建ての建物だ。どうやらそこは、宿屋のようである。受付の女性に要件を話し、中へ入れてもらった。
階段を上がって、二階の一番奥の部屋。
男がノックすると、少しだけドアが開いた。
「……なにか?」
さすがに警戒している。男が声を落として身分を話すと、ようやくドアが開かれた。
中にいたのは、男二人だった。ヨハネスも付き人っぽい青年もいない。
「彼は?」
「その前に。あなた方は味方なのですな」
イレーネルの意志を知った男たちは、ようやくヨハネスについて話してくれた。
「ヨハネス様はイレーネル様の迷惑にならぬよう、早々にこの地を立ちました」
男たちはどうやら、ヨハネスの忠臣らしい。同行すると言ったそうだが、目立つのを避けるため、ヨハネスは二人旅を選択した。男たちはヨハネスと少し距離を取り、付かず離れずで来たようだ。
「ヨハネス様を慕う者は多いのですが、事を荒立てたくないとおっしゃりましてな。こうして逃亡しておられるわけです」
「それで、すでに国外へ?」
「はい。連絡手段はあります。今からお戻りいただいたら…、明日の昼ごろになるかと。とりあえず、ヨハネス様にお繋ぎしますな」
男は胸元に手を当てる。少しして、ミカエルたちの方を向き、頷いた。どうやら通信中らしい。声を出しているわけでもないので、どのように通信が行われているのか、ミカエルにはさっぱりだった。
ヨハネスを交えて話し合いが続く。
「ーーヨハネス様が、お戻りになると」
イレーネルの使者はホッと息を吐くように頷いた。
「それでは、城へ戻りましょう」
差し伸べられた手に手を乗せると、「お願いします」と言われ、肩をすくめて瞬間移動したミカエルだった。
城へ戻ったミカエルたちは、さっそくイレーネルを訪ねた。報告を聞いたイレーネルが胸を撫で下ろす。窓の外はすっかり橙色になっていた。
そのとき、女官がすすす…っとやって来て、イレーネルにお辞儀した。
「陛下、ブランリスの者が一名、港に到着したとのことです。じきに書簡が届くかと」
「……早かったな」
その者は、一足先にイマリゴへ来たのだろう。これからやって来る部隊が、スムーズに入国できるようにするために。イレーネルが許可すれば、その部隊はこの城にやって来る。
「ヨハネスが先か、ブランリスの部隊が先か…」
イレーネルは鮮やかに色づいた空をじっと見ていた。
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