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4章.Tractus

シャワールーム*

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 二人は小さな家のドアを開く。燭台に明かりを灯して進んだ。
 ここは、彼女のもとを訪れた人が泊まる、宿のようなものなのだろう。ベッドと小さなテーブルしかない狭い部屋が、幾つかあった。

「シャワールームだ」

 新たなドアを開いたミカエルは、振り返って言う。

「ここでヤろうぜ」

 するとルシエルは、小さく息を吐きだした。

「なんだよ」
「……べつに」
「立ったままでもできるだろ」

 ルシエルがなんとも言えない表情をしているので、ミカエルは首を傾げる。

「言えって」
「……君がずいぶんこ慣れた様子でね」
「仕方ねーだろ。色々体験しちまったんだから」
「聞いたけど、」

 ルシエルの視線は壁のほう。

「ルシ?」
「君は。少し見ないうちに、害悪に曝されて」
「……おう?」
「俺は必死で、自分を押さえつけているのに」
 
 彼の手が頬に伸びる。ミカエルは視線を彷徨わせ、遠慮がちに薄い唇を開いた。

「俺、唇は奪われてねえから」
「……どういう意味?」
「口付けって、好き合ってる同士がやるんだろ。ヤグニエのやつ、"俺にも良心はある" って」

 ルシエルの手がピタリと止まった。無言で見詰められ、ミカエルは戸惑う。

「言いてえことがあるなら言えって」
「……。本当にここでヤるつもり?」
「おう。港町でアレ買っといてよかったな」

 例のナカを綺麗にする物を、しっかり手に入れていた二人である。

「腹具合も落ち着いたし。今からシようぜ」

 さっそく服を脱ぎだしたミカエルに、ルシエルはため息を吐いた。

「軽いな」
「それでいいからな。変な気使うなよ」

 聖学校の脱衣所で幾度となく裸を晒しているミカエルに、躊躇はない。

「おまえも脱げって」

 ルシエルが肩をすくめて上着を脱ぎだす頃、ミカエルは自身のアヌスにナカを綺麗にする物――キレインという名称らしい粒を入れ、四つん這いになって奥まで行き届かせようとしていた。

「情緒もムードもない」
「……ああ、俺だけ準備できてもダメだったな」

 いつも相手が勝手に盛ってきたので失念していた。
 ミカエルはシャツ姿になったルシエルを見上げて言う。

「口でやるから出せよ」
「……は?」
「なんだっけ…、フェラ? イけそうになったら、ナカ突っ込んでくれ」

 ルシエルは苛立ったようにしゃがみ、ミカエルと視線を合わせた。

「俺に抱いてほしいんじゃないの」
「だから、そのための準備だろ。俺、けっこう上手いらしいぜ。すぐに大きくして出しちまう奴、多かったしな。おまえにはナカに出してもらわねえといけねぇけど…」

 話しているうちに鳶色の瞳から感情が消え、影に覆われていくようだった。
 ミカエルは口を噤む。

「……わかった。君の望み通りにしよう」
「……おう」
 
 威圧感漂う声に顎を引き、小さく頷いた。
 ルシエルは億劫そうに立ち上がり、ベルトを緩める。下履きから取り出されたそれは、ミカエルが見てきたもののようにグロテスクではなく、どこか作り物めいていた。そう感じるくらい、綺麗だった。

「ほら、咥えて高めるんじゃないの」
「ああ、」

 冷たい眼差しは見下すようだ。そんな目は見慣れたはずなのに、ツキリと胸が痛む。
 ミカエルは睫毛を伏せて舌を出し、裏筋を舐め上げ口に咥えた。

「へぇ、本当に慣れてるな」
「ん…」
「後ろの準備もしたら?」

 口に咥えながらお尻の谷間に手を伸ばす。
 いきなり指を入れたのに、普通に入った。妙薬とやらに身体を変えられてしまったからだろうか。入口が濡れているように感じ、かすかに眉根が寄った。

「口が疎かだ」
「ぅぐっ…は、ぁ…ぉえっ…っ」

 いきなり奥まで突っ込まれ、視界が滲んだ。うっすら思っていたのだが、彼のは長い。

「どうした、上手いんだろう? いつものようにやってご覧よ」

 悪夢のような日々のなかでは、見せつけるようにしたりして、ヤグニエ曰くムードを高めることを心がけていた。――早く終わってほしかったから。けれど、ルシエルにやるのは気が進まない。付き合ってもらっているのだから、早く終わらせたほうがいいだろう。そう思うのに、心が拒む。

「考え事をするなんて余裕だな。後ろを解すのを手伝ってやろう」



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