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3章.Graduale
悪魔に願いを、君にベッドを
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ミカエルは首を傾げる。
「それでデビルができんのか?」
「いや。石に蓄えられた憎しみなどの思念は、本人が望んだ相手の元へいく。それに纏わりつかれると、体調を崩したり、精神が不安定になるんだ」
小さな石にそのような感情を籠めたところで、それくらいしかできないとゾフィエルは語った。
「じゃあ、デビルはどうしたら産まれんだ?」
「もっと大きな石をもちいて、多くの負の感情を取り込ませる必要があると聞く」
「簡単にはできねえってことか」
「ああ。悪魔崇拝の団体が儀式を行うなどして、造りだすようだ」
そのような団体は、デビルを出現させることに意味を見出しているという。
「ぜんっぜんわかんねぇ」
「デビルが増えれば、悪魔が喜ぶとでも思っているのだろう」
「悪魔喜ばしてどうすんだよ」
「自分たちの願いを、叶えてもらいたいのだろうな」
ミカエルは半目になって言う。
「そもそも、悪魔なんていんの?」
「さて、」
「それを言うなら、神も同じですな」
アズラエルの言葉に、ミカエルは口を噤んだ。
神を信じるか、悪魔を信じるか。どちらも、心根は同じなのだろう。
「そういった団体の取り締まりは教会がやっている。国としては、デビル退治をやるのみだ」
ミカエルは頷いて、ふと思い出す。
「人売りはどこも取り締まってねえんだな」
「……それは悪習の一つだ。国の発展のため、多大な労働力が必要な時は確かにあった」
ミカエルが求めた答えにはなっていないと、口にしてからゾフィエルは思う。
息を吐き、改めて真っ直ぐな瞳を見詰めた。
「彼らを同じ人間と捉えられる者は、あまりに稀有なのだよ」
多くの人は、そこに問題意識を抱いたりしない。国や教会にとって悪いことがあるわけでもないので、どちらもわざわざ取り締まったりしないのだ。
「なんで、……」
ミカエルには、ゾフィエルの言葉こそ理解しがたいことだった。どう見ても、彼らは人間だったからだ。
澄んだ瞳を前に、ゾフィエルは言葉を失う。
代わりに口を開いたのは、アズラエルだった。
「人は元来、野蛮な生き物です。宗教をもってして、愛を説いている。そのお陰で、同じ宗教の者には同胞として、他人であろうと愛ある行動が取れるのです」
宗教がなかったら、自分本意な人間たちは他人に心を配ることなどできないだろう。そう語ったアズラエルの声には、どこか侮辱的な響きがあった。
「けれど、一概には言えないようですね」
そっとミカエルの頬を撫でたアズラエルの唇は、優しい微笑を浮かべていた。
コーヒーを飲んで一服した二人は、ルシエルのベッド作りに精を出す。
揶揄されたため、熱々のコーヒーをそのまま飲んだミカエルだったが、やはり火傷し、涙目でフーフーすることになった。睨んでもルシエルはくつくつ笑っていた。けれど最後には「舌出して」と言い、ミカエルが半目でベッと舌を出すと、手を翳して治癒してくれたのだった。
ベッド作りには、細めの木をそのまま使う。なめらかで手触りの良い木だ。切りだした木の長さを整え、皮を剥いてはめ込む場所を小さくカットしたりして、組み立てられるようにする。木の長さは目算。ルシエルの身長に合わせて作るベッドは、ミカエルのベッドより少し大きい気がする。
「君は器用だな」
細かいカッティングを施すミカエルを、ルシエルは座って眺める。
「おまえだってやればできるだろ。やろうとしねえだけで」
ミカエルは彼をジト目で見やった。ルシエルはやればできそうなのにやらない事が多い気がする。あとは嵌め込むだけという木を布巾で磨きながら、ルシエルは肩をすくめていた。
部品が揃ったら、組み立てだ。
物置と化していたロフトは綺麗に片付けられている。手作りのベッドには、なんとも言えない温もりがあった。ヘッド部分に用いた木は、それぞれが微妙に曲がっている。木そのものの個性を感じられるベッドである。
「上出来だろ」
ミカエルは腰に手を当て、クッと口角を上げる。
「わるくない」
ルシエルも艶やかな唇に弧を描いていた。
「それでデビルができんのか?」
「いや。石に蓄えられた憎しみなどの思念は、本人が望んだ相手の元へいく。それに纏わりつかれると、体調を崩したり、精神が不安定になるんだ」
小さな石にそのような感情を籠めたところで、それくらいしかできないとゾフィエルは語った。
「じゃあ、デビルはどうしたら産まれんだ?」
「もっと大きな石をもちいて、多くの負の感情を取り込ませる必要があると聞く」
「簡単にはできねえってことか」
「ああ。悪魔崇拝の団体が儀式を行うなどして、造りだすようだ」
そのような団体は、デビルを出現させることに意味を見出しているという。
「ぜんっぜんわかんねぇ」
「デビルが増えれば、悪魔が喜ぶとでも思っているのだろう」
「悪魔喜ばしてどうすんだよ」
「自分たちの願いを、叶えてもらいたいのだろうな」
ミカエルは半目になって言う。
「そもそも、悪魔なんていんの?」
「さて、」
「それを言うなら、神も同じですな」
アズラエルの言葉に、ミカエルは口を噤んだ。
神を信じるか、悪魔を信じるか。どちらも、心根は同じなのだろう。
「そういった団体の取り締まりは教会がやっている。国としては、デビル退治をやるのみだ」
ミカエルは頷いて、ふと思い出す。
「人売りはどこも取り締まってねえんだな」
「……それは悪習の一つだ。国の発展のため、多大な労働力が必要な時は確かにあった」
ミカエルが求めた答えにはなっていないと、口にしてからゾフィエルは思う。
息を吐き、改めて真っ直ぐな瞳を見詰めた。
「彼らを同じ人間と捉えられる者は、あまりに稀有なのだよ」
多くの人は、そこに問題意識を抱いたりしない。国や教会にとって悪いことがあるわけでもないので、どちらもわざわざ取り締まったりしないのだ。
「なんで、……」
ミカエルには、ゾフィエルの言葉こそ理解しがたいことだった。どう見ても、彼らは人間だったからだ。
澄んだ瞳を前に、ゾフィエルは言葉を失う。
代わりに口を開いたのは、アズラエルだった。
「人は元来、野蛮な生き物です。宗教をもってして、愛を説いている。そのお陰で、同じ宗教の者には同胞として、他人であろうと愛ある行動が取れるのです」
宗教がなかったら、自分本意な人間たちは他人に心を配ることなどできないだろう。そう語ったアズラエルの声には、どこか侮辱的な響きがあった。
「けれど、一概には言えないようですね」
そっとミカエルの頬を撫でたアズラエルの唇は、優しい微笑を浮かべていた。
コーヒーを飲んで一服した二人は、ルシエルのベッド作りに精を出す。
揶揄されたため、熱々のコーヒーをそのまま飲んだミカエルだったが、やはり火傷し、涙目でフーフーすることになった。睨んでもルシエルはくつくつ笑っていた。けれど最後には「舌出して」と言い、ミカエルが半目でベッと舌を出すと、手を翳して治癒してくれたのだった。
ベッド作りには、細めの木をそのまま使う。なめらかで手触りの良い木だ。切りだした木の長さを整え、皮を剥いてはめ込む場所を小さくカットしたりして、組み立てられるようにする。木の長さは目算。ルシエルの身長に合わせて作るベッドは、ミカエルのベッドより少し大きい気がする。
「君は器用だな」
細かいカッティングを施すミカエルを、ルシエルは座って眺める。
「おまえだってやればできるだろ。やろうとしねえだけで」
ミカエルは彼をジト目で見やった。ルシエルはやればできそうなのにやらない事が多い気がする。あとは嵌め込むだけという木を布巾で磨きながら、ルシエルは肩をすくめていた。
部品が揃ったら、組み立てだ。
物置と化していたロフトは綺麗に片付けられている。手作りのベッドには、なんとも言えない温もりがあった。ヘッド部分に用いた木は、それぞれが微妙に曲がっている。木そのものの個性を感じられるベッドである。
「上出来だろ」
ミカエルは腰に手を当て、クッと口角を上げる。
「わるくない」
ルシエルも艶やかな唇に弧を描いていた。
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