上 下
35 / 170
3章.Graduale

悪魔に願いを、君にベッドを

しおりを挟む
 ミカエルは首を傾げる。

「それでデビルができんのか?」
「いや。石に蓄えられた憎しみなどの思念は、本人が望んだ相手の元へいく。それにまとわりつかれると、体調を崩したり、精神が不安定になるんだ」

 小さな石にそのような感情を籠めたところで、それくらいしかできないとゾフィエルは語った。

「じゃあ、デビルはどうしたら産まれんだ?」
「もっと大きな石をもちいて、多くの負の感情を取り込ませる必要があると聞く」
「簡単にはできねえってことか」
「ああ。悪魔崇拝の団体が儀式を行うなどして、造りだすようだ」

 そのような団体は、デビルを出現させることに意味を見出しているという。

「ぜんっぜんわかんねぇ」
「デビルが増えれば、悪魔が喜ぶとでも思っているのだろう」
「悪魔喜ばしてどうすんだよ」
「自分たちの願いを、叶えてもらいたいのだろうな」

 ミカエルは半目になって言う。

「そもそも、悪魔なんていんの?」
「さて、」
「それを言うなら、神も同じですな」

 アズラエルの言葉に、ミカエルは口を噤んだ。
 神を信じるか、悪魔を信じるか。どちらも、心根は同じなのだろう。

「そういった団体の取り締まりは教会がやっている。国としては、デビル退治をやるのみだ」

 ミカエルは頷いて、ふと思い出す。

「人売りはどこも取り締まってねえんだな」
「……それは悪習の一つだ。国の発展のため、多大な労働力が必要な時は確かにあった」

 ミカエルが求めた答えにはなっていないと、口にしてからゾフィエルは思う。
 息を吐き、改めて真っ直ぐな瞳を見詰めた。

「彼らを同じ人間と捉えられる者は、あまりに稀有なのだよ」

 多くの人は、そこに問題意識を抱いたりしない。国や教会にとって悪いことがあるわけでもないので、どちらもわざわざ取り締まったりしないのだ。

「なんで、……」

 ミカエルには、ゾフィエルの言葉こそ理解しがたいことだった。どう見ても、彼らは人間だったからだ。
 澄んだ瞳を前に、ゾフィエルは言葉を失う。
 代わりに口を開いたのは、アズラエルだった。

「人は元来、野蛮な生き物です。宗教をもってして、愛を説いている。そのお陰で、同じ宗教の者には同胞として、他人であろうと愛ある行動が取れるのです」

 宗教がなかったら、自分本意な人間たちは他人に心を配ることなどできないだろう。そう語ったアズラエルの声には、どこか侮辱的な響きがあった。

「けれど、一概には言えないようですね」
 
 そっとミカエルの頬を撫でたアズラエルの唇は、優しい微笑を浮かべていた。

 コーヒーを飲んで一服した二人は、ルシエルのベッド作りに精を出す。
 揶揄やゆされたため、熱々のコーヒーをそのまま飲んだミカエルだったが、やはり火傷し、涙目でフーフーすることになった。睨んでもルシエルはくつくつ笑っていた。けれど最後には「舌出して」と言い、ミカエルが半目でベッと舌を出すと、手を翳して治癒してくれたのだった。
 ベッド作りには、細めの木をそのまま使う。なめらかで手触りの良い木だ。切りだした木の長さを整え、皮を剥いてはめ込む場所を小さくカットしたりして、組み立てられるようにする。木の長さは目算。ルシエルの身長に合わせて作るベッドは、ミカエルのベッドより少し大きい気がする。

「君は器用だな」

 細かいカッティングを施すミカエルを、ルシエルは座って眺める。

「おまえだってやればできるだろ。やろうとしねえだけで」

 ミカエルは彼をジト目で見やった。ルシエルはやればできそうなのにやらない事が多い気がする。あとは嵌め込むだけという木を布巾で磨きながら、ルシエルは肩をすくめていた。
 部品が揃ったら、組み立てだ。
 物置と化していたロフトは綺麗に片付けられている。手作りのベッドには、なんとも言えない温もりがあった。ヘッド部分に用いた木は、それぞれが微妙に曲がっている。木そのものの個性を感じられるベッドである。
 
「上出来だろ」

 ミカエルは腰に手を当て、クッと口角を上げる。

「わるくない」

 ルシエルも艶やかな唇に弧を描いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...