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後篇
新たな日常 (sideアスファー
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実習メインの生活が始まった。
俺たちはエントランスの決められた場所へ向かう。点呼は移動前に行うとかで、教室に行かなくても良いらしい。生徒でごった返しているそこは、小さなざわめきで満ちていた。
移動は魔方陣なので、生徒である俺らが野営をすることはない。一日みっちり魔物狩りをしても、夜には学園に戻って来られる。
「じゃあな」
「おー」
実習はこれまで、ジン、ラウレル、イオと四人で行動していたので、ラウレルたちと別れるのは変な感じだ。
同じグループになった委員長たちは背が高く、幻想界の住人だからか目立っている。見付けるのは、簡単だった。
「はよーっス」
「おはよう」
委員会での関わりがあるとはいえ、あまり親しいとは言えない。どことなく馴れ合うのを躊躇してしまうような雰囲気が二人にはある。
ジンも会釈しただけで、視線を下げてしまう。こいつは人見知りだから仕方がないが――。
「参ろうか」
さっそく歩き出した委員長に続く。
陣の側には、グラディオが立っていた。俺とジンに視線が注がれる。
「体調は?」
「いつも通り」
隣でジンも頷く。
身体が重いのは、もう慣れた。
「長期戦だ。無理はするなよ」
「了解」
グラディオの視線が委員長たちへ移る。
「頼む」
「ああ」
委員長たちは、幻想界の住人なので体調不良など感じない。俺らより力も強く、そのエネルギーは属性すら越えている。頼もしい存在だ。
緑の光のカーテンのようなベールが消えた後、そこは聖堂の中だった。
「おう。久し振りだなぁ」
後ろからかかった懐かしい声にぎょっとして振り返る。――まさか本当に会うことになるとは思っていなかった。思った通りのその人は、黒い隊服に身を包んでおり、少しだけ大人びて見える。
「……レンさん」
しかしにんまりと浮かんだ人をバカにするような笑みは、以前と変わらない。
「なんだ、顔色悪いな」
今は大体の奴が顔色悪いだろう。なのにレンさんは、元々不健康に見える蒼白い肌をしているからか、不調には見えない。
「レンさんは体調不良じゃないのか?」
「ばぁか。俺はそんなに力強くないから関係ねぇんだよ」
そんな事ないだろうに、羨ましいだろうと言って笑う。
それから、スッと真面目な顔をした。
「おまえらには、村人の避難を援助してもらう。ここらの魔物はだいぶ強いから、気を抜くなよ」
そう言って地図を広げ、向かう場所と出没する魔物を教えてくれる。
「ドラゴンにはアスファーとジンは構うな。セスリオとカイに任せろ。倒すべき魔物は一体じゃないからな」
俺らがドラゴン相手に闘うとなると、簡単にはいかない。魔物を減らすのは重要だが、村人の無事が第一なので、ジンと共に頷いた。
村は山の奥深くにあり、自給自足で生活しているため魔方陣がないという。通達の文により現状を知り、安全な町へ移動することになったらしい。
俺らはそこへ向かい、魔方陣を作って村人を移動させる。
「準備はいいか?」
声を追って入り口の方を見れば、光を反射する真っ黒いグラサンをかけた隊員の姿。これも懐かしい光景だ。
「おう。おまえら行くぞ」
意気揚々と歩き出したレンさんに続いて外へ出る。そこには、何人かの隊員が俺らを待っていた。
「その村は、今までよく無事だったな」
山道を歩きながら委員長が呟いた。その声を拾ったジークさんが口を開く。
「ああ。俺たちが村の存在を知ったのは、黒の結晶石の探索によるものだったのだが」
魔界には手付かずの自然が多く残っており、未開の地も少なくない。それが黒の結晶石を見付けるのを困難にしていると思う。
「今はそうした農村に住む人々を、なるべく一ヶ所に固めて護るよう進めているところだ」
昨年から魔物が減らないと思っていたが、ジークさんの話によると逆に増えているらしい。それも最近、そのペースが上がっているようだと。
「なんせ人間界にまで捜索を広げるというのだから、手が足りない」
「ジン、おまえの親父さんも行ったり来たりしてるが、今は人間界だ。会えなくて残念だったな」
「……べつに」
レンさんの言葉にジンは微かに眉根を寄せる。
「けどよ、面白い人だな、親父さん」
「レン、一応隊長だ」
どうやらゼンジさんは慕われてるようだ。あの人は強い。俺も尊敬している。ジンは実に嫌そうな顔をしているが。
「最初は驚いたっけな」
「確かに、予想外だった」
「フレンドリーだしよ」
「ああ、気さくな方だ」
「へらへらしてんのに強ぇし」
「あの雰囲気に油断したのが悪かったな」
レンさんたちのテンポの良い会話を聞いていたジンは、終いにそっぽを向いてしまった。
聞きたくないと顔に書いてある。ジンもゼンジさんを尊敬してるくせに素直じゃない。
「来たぞ!!」
その時、魔物の気配が迫り、一気に場が緊張した。
それからは闘い通しだった。全てを相手にしきれず撒いたりしながらようやく村へ辿り着く。もうすっかり辺りは夕闇だ。
「、は、なんとか無事だったな」
特に後半は、隊員の半分が違う村へ向かって道を別れたため辛かった。それでも委員長たちのお陰で怪我人もいない。
隊員の一人が描いた魔方陣が淡く光を放ち、どこかに繋がったことを示す。
「今日は帰れ。おまえらの任務は当分こんな感じになるぞ。しっかり休めよ」
他の隊員たちは村人と何か話をしている。
レンさんに促され、俺らは学園へ戻った。学舎のエントランスには、読書に没頭する保健医の姿しかない。
「それではな」
「お疲れっス」
俺は疲れた様子のない委員長たちを見送り、ジンと寮に戻った。
俺たちはエントランスの決められた場所へ向かう。点呼は移動前に行うとかで、教室に行かなくても良いらしい。生徒でごった返しているそこは、小さなざわめきで満ちていた。
移動は魔方陣なので、生徒である俺らが野営をすることはない。一日みっちり魔物狩りをしても、夜には学園に戻って来られる。
「じゃあな」
「おー」
実習はこれまで、ジン、ラウレル、イオと四人で行動していたので、ラウレルたちと別れるのは変な感じだ。
同じグループになった委員長たちは背が高く、幻想界の住人だからか目立っている。見付けるのは、簡単だった。
「はよーっス」
「おはよう」
委員会での関わりがあるとはいえ、あまり親しいとは言えない。どことなく馴れ合うのを躊躇してしまうような雰囲気が二人にはある。
ジンも会釈しただけで、視線を下げてしまう。こいつは人見知りだから仕方がないが――。
「参ろうか」
さっそく歩き出した委員長に続く。
陣の側には、グラディオが立っていた。俺とジンに視線が注がれる。
「体調は?」
「いつも通り」
隣でジンも頷く。
身体が重いのは、もう慣れた。
「長期戦だ。無理はするなよ」
「了解」
グラディオの視線が委員長たちへ移る。
「頼む」
「ああ」
委員長たちは、幻想界の住人なので体調不良など感じない。俺らより力も強く、そのエネルギーは属性すら越えている。頼もしい存在だ。
緑の光のカーテンのようなベールが消えた後、そこは聖堂の中だった。
「おう。久し振りだなぁ」
後ろからかかった懐かしい声にぎょっとして振り返る。――まさか本当に会うことになるとは思っていなかった。思った通りのその人は、黒い隊服に身を包んでおり、少しだけ大人びて見える。
「……レンさん」
しかしにんまりと浮かんだ人をバカにするような笑みは、以前と変わらない。
「なんだ、顔色悪いな」
今は大体の奴が顔色悪いだろう。なのにレンさんは、元々不健康に見える蒼白い肌をしているからか、不調には見えない。
「レンさんは体調不良じゃないのか?」
「ばぁか。俺はそんなに力強くないから関係ねぇんだよ」
そんな事ないだろうに、羨ましいだろうと言って笑う。
それから、スッと真面目な顔をした。
「おまえらには、村人の避難を援助してもらう。ここらの魔物はだいぶ強いから、気を抜くなよ」
そう言って地図を広げ、向かう場所と出没する魔物を教えてくれる。
「ドラゴンにはアスファーとジンは構うな。セスリオとカイに任せろ。倒すべき魔物は一体じゃないからな」
俺らがドラゴン相手に闘うとなると、簡単にはいかない。魔物を減らすのは重要だが、村人の無事が第一なので、ジンと共に頷いた。
村は山の奥深くにあり、自給自足で生活しているため魔方陣がないという。通達の文により現状を知り、安全な町へ移動することになったらしい。
俺らはそこへ向かい、魔方陣を作って村人を移動させる。
「準備はいいか?」
声を追って入り口の方を見れば、光を反射する真っ黒いグラサンをかけた隊員の姿。これも懐かしい光景だ。
「おう。おまえら行くぞ」
意気揚々と歩き出したレンさんに続いて外へ出る。そこには、何人かの隊員が俺らを待っていた。
「その村は、今までよく無事だったな」
山道を歩きながら委員長が呟いた。その声を拾ったジークさんが口を開く。
「ああ。俺たちが村の存在を知ったのは、黒の結晶石の探索によるものだったのだが」
魔界には手付かずの自然が多く残っており、未開の地も少なくない。それが黒の結晶石を見付けるのを困難にしていると思う。
「今はそうした農村に住む人々を、なるべく一ヶ所に固めて護るよう進めているところだ」
昨年から魔物が減らないと思っていたが、ジークさんの話によると逆に増えているらしい。それも最近、そのペースが上がっているようだと。
「なんせ人間界にまで捜索を広げるというのだから、手が足りない」
「ジン、おまえの親父さんも行ったり来たりしてるが、今は人間界だ。会えなくて残念だったな」
「……べつに」
レンさんの言葉にジンは微かに眉根を寄せる。
「けどよ、面白い人だな、親父さん」
「レン、一応隊長だ」
どうやらゼンジさんは慕われてるようだ。あの人は強い。俺も尊敬している。ジンは実に嫌そうな顔をしているが。
「最初は驚いたっけな」
「確かに、予想外だった」
「フレンドリーだしよ」
「ああ、気さくな方だ」
「へらへらしてんのに強ぇし」
「あの雰囲気に油断したのが悪かったな」
レンさんたちのテンポの良い会話を聞いていたジンは、終いにそっぽを向いてしまった。
聞きたくないと顔に書いてある。ジンもゼンジさんを尊敬してるくせに素直じゃない。
「来たぞ!!」
その時、魔物の気配が迫り、一気に場が緊張した。
それからは闘い通しだった。全てを相手にしきれず撒いたりしながらようやく村へ辿り着く。もうすっかり辺りは夕闇だ。
「、は、なんとか無事だったな」
特に後半は、隊員の半分が違う村へ向かって道を別れたため辛かった。それでも委員長たちのお陰で怪我人もいない。
隊員の一人が描いた魔方陣が淡く光を放ち、どこかに繋がったことを示す。
「今日は帰れ。おまえらの任務は当分こんな感じになるぞ。しっかり休めよ」
他の隊員たちは村人と何か話をしている。
レンさんに促され、俺らは学園へ戻った。学舎のエントランスには、読書に没頭する保健医の姿しかない。
「それではな」
「お疲れっス」
俺は疲れた様子のない委員長たちを見送り、ジンと寮に戻った。
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