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第三十二話 決闘②

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「むむむ。やはり最下級魔法では倒せないか」

 ちょっとだけ眉をしかめ、悔しがりながら、スリカ少佐が鍋をかき混ぜるような動きで腕をくるくる回し始める。
 すると、空にあった幾何学模様がぐるぐる渦巻き、そこから黒い雲が現れ、瞬く間に空全体が真っ黒な雲に覆われた。
 天候を変えられるなんて、スリカ少佐は凄いな。正直感心する。

「ならば次はこの魔法だ。『ガトリングレイン』」

 黒い雲から、ポツポツと大粒の雨が落ちてきた。
 それはただの雨ではなく、一粒一粒が大地を深く貫通する威力を持った雨だ。
 その雨が、私の体にも何百、何千と降り注ぐ。
 スリカ少佐は、薄い卵型の膜を体の外に纏い、雨を防いでいた。さっきの火球も、同じように防いだのだろう。
 まあ、私はそんなもの纏わなくても、全然効かないが。

「ぐぬぬ、厚さ70ミリの弾丸雨でも無傷だと」

 今度はさっきの攻撃よりも悔しがるスリカ少佐。
 私からはまだ一度も攻撃してないけど、そろそろデコピンでも喰らわそうかな。それも――。

「殺さない程度に、な」

 私は雨の中、穴だらけになった大地を駆け出した。
 スリカ少佐までの距離は、すぐ縮まる。

「なっ!?」

「これで、終わり」

 指が届く距離まで近づき、おでこにデコピンを喰らわせ――。

「引っかかったな」
 
 スリカ少佐が両手を前に出し、ニヤッと笑う。
 しまった、罠か!

「『アブソリュートゼロ』」

 幾何学模様が鍵をかけるように私の体を包み、そこから冷気が流れて、濡れていた体を瞬く間に冷やして、固めた。
 
「く、まさか、こんな手があったと……は……」

 全身が硬い氷でガチガチに固まり、動けなくなる。
 スリカ少佐が氷漬けの私の姿を見て、勝ち誇ったように高笑いした。

「ははは! やった、これで自分が『中佐』だ!」

 踊るように喜びながら、スキップをしながらシーナ大佐に報告しに向かう。
 その間私は、動けるようになる為、全身に力を込めていく。
 パキパキ音が鳴り、まずは手の氷にヒビが入った。
 よし、いける。
 
「大佐。自分の勝利です!」

 私が氷から出ようとしている間に、スリカ少佐が、シーナ大佐へと敬礼しながらそう報告した。
 が、シーナ大佐は首を横に振り。

「まだだ。まだクロノはギブアップしていない」

「でも、自分の中級魔法。『アブソリュートゼロ』で氷漬けになっているのですよ。あそこから脱出は、大佐でもない限り不可能です。よって、この勝負は自分の勝利です」

 そう説明し、勝ちを宣言するも、シーナ大佐は目を鋭くして、スリカ少佐を睨む。

「黙れ。余に二度も同じ事を言わせるつもりか?」

「う……」

 シーナ大佐の迫力に、スリカ少佐が口を閉じる。
 そして、何かを決意したように、シーナ大佐に背を向け――。

「それなら、クロノを完全に殺せば、自分の勝利を認めますよね」

 そう言い、右手を前に出し――。

「この魔法を使う気は無かったけど、終わりだ。『ブラックデスソード』」

 幾何学模様が右手に浮かび、黒く禍々しい剣を出した。

「この上級魔法。『ブラックデスソード』に少しでも触れられた相手は、『守護竜』だろうが必ず死ぬ」
 
 離れたシーナ大佐にも聞こえるように言いながら、ゆっくり私に近づいてくる。
 一方私は、氷から脱出する為、全身に力を込め続けていき、ついに手だけじゃなく、全身の氷にヒビが入っていた。

 あと少し――。
 
 が、脱出は間に合わず、スリカ少佐が氷漬けになっている私の前に立ち――。
 
「これで自分の……勝ち――」

 氷を貫き、ゆっくりと剣を――心臓に刺した。
 そのタイミングで、全身の氷が割れて――。

「……まだ私は、死んでない」

「なに!?」

 氷を割り、スリカ少佐が刺さった思っていた剣先を掴み、スリカ少佐ごと正面に投げ捨てた。
 スリカ少佐は背中から地面に叩きつけられるが、戦闘中だったからか、体を捻ってすぐ立ち上がる。

「殺したはずなのに、なんで生きている!?」

 震える剣先で私を指しながら、死人が生き返ったようなリアクションをするスリカ少佐。
 そんなの、私が知りたい。
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