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エンペラーゴブリン編

第二十七話 変身

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《エンペラーゴブリン》(魔物)
 ATK 35000
 DEF 35000
 SPD 35000
 MP  35000
《スキル》
 魔王の加護。帝王のオーラL v53。
ーーーーーーーーーーーー

「あれ?」

 ステータスの数字はかなり高いのだが、スキルの少なさに疑問を持った。ゴブリンの帝王で声も姿も(皮膚の色と尻尾がないことを除けば)とある宇宙の帝王と瓜二つなのに、スキルを持っていないのは何でだ?

「次はあなた達のご紹介をお願いします」

 エンペラーゴブリンから自己紹介を求められたので一旦考えるのをやめた。
 他のみんなも『めんどくさい』と口に出していたが。

「ワシはサダン。この街の領主であり王国最強【九大将】の一人だ」

「その娘。ミイナよ」

「わっ、私は旦那様とお嬢様のメイド。マカです」

 とそれぞれエンペラーゴブリンに名前を告げ、マカを除く剣を持った二人は早く戦いたいのか武器を構えた。よし俺も!

「俺はジン。こう見えて勇者だ」

 聖剣を肩に担ぎながらF◯7の主人公のようにかっこいいポーズで自己紹介をする。
 ふっ、決まった。

「まさか我々に悪名高き【九大将】とその娘。それに人間のくせに魔力の高そうなメイドが私の相手をしてくれるなんて、ホッホッホッ、これは久しぶりに楽しめそうですね」

 エンペラーゴブリンに俺の紹介は聞こえていなかったようで、サダンさんやミイナ達だけを見ていた。あれれ~。おっかしいぞ~。いつ俺は幻の4人目フォースマンになったのかな~?

「こっちの紹介はこれで終わりだ。とっとと戦ってケリをつけようかコラ」

「サダンさんの意見もごもっともですね。いいでしょう。ここにいる全員まとめてかかってきなさい」

 俺を無視して戦いを始めようとしている。なんでだ? why。俺には理解できまセーーン。
 無言で某カードゲームの創設者のようなリアクションしても他のみんなは一切気にしておらず。

「二人とも行くぞ。絶殺じゃああああ!」

「ええ、とっととぶっ殺して終わらせるわよパパ」

 物騒な暴言を吐きながら真正面からサダン、ミイナ親子がエンペラーゴブリンにタイミングを合わせて直接斬りかかった。
 エンペラーゴブリンは右手でサダンさんの剣を、左手でミイナの剣をそれぞれ受け止めた。

「ぐぅぅ。かなり重い攻撃ですね。これが【九大将】とその娘の力ですか」

 全力を出しているのだろう。歯を食いしばり、主に右手に力を込めすぎて顔色と右腕は緑から黄色っぽくなっていた。

「私も援護します。『セクスタプルフレイムアロー』」

 マカから発射された六本もの炎の矢がエンペラーゴブリンをすり抜け、ブーメランのように旋回して背中に六本全て刺さった。

「ぐぅっ!」

 痛そうに顔を顰めるエンペラーゴブリン。

「ミイナ決めるぞ」

「了解よパパ」

「「はあああああああ!」」

「ぐぎぎぎぎぎぎ……」

 二人の剣に込める力が上がり、エンペラーゴブリンの体が足から地面にめり込んでいった。
 このままだと俺の出番は無さそうだけど戦わずに済むならそれでよし。いいぞ! やってしまえ!

「調子に乗るんじゃありませんよ!」

 エンペラーゴブリンの体から黄色のオーラと衝撃波が発生し、サダンさんとミイナが吹っ飛ばされた。

「はぁはぁ……なかなかやりますね」

 100メートル走を全力で走り終えたように疲れているエンペラーゴブリンに対し。

「この程度屁でもないわ」

「パパ。次で確実に殺すわよ」

「わかってる」

「マカも引き続き援護お願いね」

「かしこまりましたお嬢様」

 こちらの戦力はまだまだ余裕のようで疲れた様子は感じられなかった。
 どうやらここまでのようだな。見た目や声、ゴブリンの帝王で【六皇】の一人ってゆーからどんだけヤベェ奴だよって思ったのが馬鹿だったぜ。ただの見掛け倒しじゃん。
 あまりにも一方的な展開で、多少恐怖を感じていた俺の気持ちにも余裕が生まれる。
 だがしかし。

「人間相手ならこのままの姿でも十分だと思いましたが、どうやらをする必要があるようですね」

 そう言うと、エンペラーゴブリンが俺達に背を向けどこかへと向かった。

「ワシらから逃げられると思うなよ」

「待ちなさい」

 サダンさん、ミイナ、マカが逃げたエンペラーゴブリンを追いかける。
 少し遅れて三人を追うが、奴の言葉に引っ掛かっていた。姿? ってことはまさか、あの姿は第一形態。

「だとしたらかなりヤベェ」

 とある漫画を思い出す。そこではエンペラーゴブリンによく似た宇宙の帝王様は変身するたびに戦闘力が桁違いに上がっていた。

「でも変身するなら俺達のいる場所でもよかったはず。なんで逃げるんだ?」

 疑問に思いながら追いかけること数秒。

「逃げると思いきやすぐ立ち止まって何がしたかったんだオラ」

「それとも逃げられないと思ってとうとう観念したのかしら」

 悪役のように追い詰めるミイナ達親子。

「ホッホッホッ。逃げたのではありませんよ。を探していたのです」

 エンペラーゴブリンが何かを蹴る。その足元には瀕死のキングゴブリンが倒れていた。
 
「もしや、ワシの相手にもならなかったそこにいる死にかけの役立たずと一緒に戦う気か?」

「違いますよ。こうするのです」

 しゃがんで瀕死のキングゴブリンに触れる。するとキングゴブリンの体がライトを浴びたように輝き、異空間に吸い込まれるようにエンペラーゴブリンの体の中へと吸い込まれた。

「きましたよ! はあああああああ!」

 その場でスクワットをするようにしゃがみ力を込めるエンペラーゴブリン。すると次の瞬間!

「はぁぁっ!」

 ゴキュゴキュっと変な音を鳴らしながら両手両足が伸びていき、頭から生えていた二本のツノも長くなる。その様子はまるで、人型ロボットがクネクネしながら無理矢理形を変えるシーンのようだった。

「なんじゃコイツ。気持ち悪っ」

「確かに動きは気持ち悪いわね」

「気持ち悪いです」

 ただただ『気持ち悪いと』見守る三人。それに対して俺は、最悪の展開が的中して悪夢を見るように全身がブルっと震えた。
 ヤベェヤベェヤベェ。
 本能が危険だと判断し、変身が完全に終わる前に聖剣で攻撃しようとしたその時。

「変身完了」

 判断が遅れて間に合わず、変身を終えたエンペラーゴブリンが腰を上げ、拳を握ったり腕を動かしたりしながら、サダンさんやミイナ達へ、出会った時より大人びた体格と余裕の表情を浮かべながら。

「さあ。第二ラウンドを始めましょうか」
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