上 下
20 / 87
エンペラーゴブリン編

第十七話 ミラクルアンハッピーボーイ

しおりを挟む

 なんて思っていたそれが死亡フラグだったのかもしれない。

「ジン。なんで……」

「ジン様。おいたわしや」

「ああ神よ」

 ミイナは両手をグッと力強く握り、マカは口を押さえ、聖女のお姉さんは祈るポーズをしながら、三人とも悲しげな表情で床に倒れる俺を見ていた。
 俺も幽体離脱して魂の状態で床に倒れた惨めな姿の自分を見る。
 どうしてこうなったのだろう。
 指輪の意思なのか、それともただただ不幸な出来事だったのかはわからないが、こうなったことの顛末てんまつを走馬灯のように振り返る。

 少し前。

「あのー。傷がないのならもう探さなくてもよいのでは?」

「それもそうね」

「ですね」

 聖女のお姉さんにそう言われ、ミイナ達はあっさりと探すのをやめた。
 チッ。
 内心舌打ちする。余計なこと言いやがって。女じゃなかったらぶん殴ってる案件だぞ。

「それで、本日はこの教会にどのような御用でしょうか。懺悔ですか? それとも入信ですか?」

 まるで天界にいる天使のように微笑みながらお姉さんが俺達に尋ねてきた。

「どっちも違うわよ。私達服を買いに来たの」

 ハッキリ教会と言ってたのにミイナは《ここは服屋》という自分の意志を曲げなかった。
 ある意味凄いけど、どう見てもここ服屋じゃないってミイナ。いい加減諦め――。

「やっぱり! そうじゃないかと思ってましたよ。売り場へ案内しますので私について来てください」

「「え!?」」

 お姉さんのまさかの返答に、俺とマカは声を揃えて驚いた。
 案内しますってどゆこと? ここマジで服屋なのか?

「ジンもマカもボケっとしてないで早くこっちに来なさい」
 
 いつの間にか教会の地下へと続く隠し扉が開いており、ミイナが扉の前で手招きして俺達を呼んだので、慌てて俺とマカはミイナのもとへ走った。

 コツ。コツ。コツ。

 蝋燭の明かりを頼りに、石で作られた地下へと続く階段を降りていく。

「こちらです」

 降りた先にあった古びた扉をお姉さんが開くとそこには、女性用の服がマネキンのような像に着せられ部屋中に飾られていた。

「マジで服屋だったああああああああ!」

「ジンうるさい」

 耳元で叫んだせいか、片耳を抑えたミイナに頭を叩かれた。
 でも叫ばずにはいられなかった。
 マジであったよ服。俺ずっとないと思っていたのに、ずっとあると信じていたミイナスゲェ!

「お嬢様。疑って申し訳ございませんでした」

 俺同様服屋じゃないと思っていたマカがミイナに頭を下げた。

「なんで謝ってるのよマカ」

「俺もすまなかったミイナ」

 俺もミイナに頭を下げた。

「ジンまでなんで!?」

 俺達にいきなり謝罪されたミイナが狼狽える。

「お嬢様を疑うなんて、私はメイド失格です。ごめんなさい」

「俺もミイナを信じていなかった。本当にすまない」

「わかったから、もう謝らないでいいわよ」

 謝罪を断るミイナ。だが俺達は止まらなかった。

「いや、俺はバカだった。まだまだ謝らせてくれミイナ」

「そうです。ごめんなさいお嬢様」

「すまなかったミイナ」

「ごめんなさいお嬢様」

「すまなかったミイナ」

 交互に謝る俺達へ。

「も~。さっきから二人してなんなのよ!」

 若干怒ったようにミイナが地団駄を踏む。
 
 そして事件は起きた。

 ミイナが地面を激しく踏んだことで衝撃波が発生し、たまたま近くの地面で眠っていたモグラがそれを地震と勘違いしてビックリしながら目覚め、時速百キロものスピードで地上を目指して掘り進めた結果。

 ボコッ。「ビィィィーーー!!」

「え――」

 チーーーン。

 俺の真下から飛び出したモグラが俺の股間に直撃した。

「うっ――なんっ……で」

 下から今まで感じたことのない強烈な痛みがすぐに襲いかかり、口から涎を垂らしながらトイレを限界まで我慢したような顔で股間を抑えたまま俺は床に倒れ、痛みから逃げるようにピクピク震える体から魂だけが飛び出た。

「ジ、ジーーーーーーーーン!」

 ミイナの叫び声が地下中に響いた。
 だが俺からの返事はない。ただの屍のようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

処理中です...