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プロローグ3 『現世との別れ』と『若返り』と『異世界行き』は突然に。

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 骸骨騎士を倒した俺は、あの可愛い少女に「一緒に魔王を倒そう」と誘うも断られ、一人寂しく魔王討伐をしたのだった。

 そして月日は経ち16年後。
 いろいろあって国王となった俺は今。

「ペッタン。ペッタン。ペッタン」

 俺の名前の印鑑を書類に押して承認する仕事をしていた。それも毎日毎日ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン!!

「あああああああああっ!!!!!」

 現状に耐えられず、とうとう溜まっていたストレスが爆発し思いっきり叫んだ。

「陛下。うるさいですよ」

 部屋の入り口付近で作業をしていた眼鏡美女に叱られ、俺は「シクシク」涙を流しながら机にうつ伏せた。

 何この拷問。俺世界救ったのに。俺国王なのにこの仕打ちはあんまりだ。

「陛下。泣いてる暇はありませんよ。手を動かしてください」

 美人秘書がゴミを見るような目で俺を見下しながら注意してきた。
 この秘書は超有能で美女なのに俺に対しては毎回こうだ。

「うぅ。少し休憩しても――」

「ダメです」

「うぅ」

 悪魔のような秘書に睨みつけられ、俺は涙を流しながら再びペッタン作業に戻ったのだった。

 3時間後。 

「陛下。そろそろ休憩にしましょうか」

「おお……ようやく」

 12時間休憩無しで作業していた俺は机に顔から倒れた。

 コンコン。

 こんな時に一体誰だ?

「どうぞ」

「失礼します」

 秘書の許可を得て入って来たのは声からしてメイドのようだ。
 そのメイドは倒れている俺のすぐ近くまで来て。

「失礼します陛下。追加の書類です」

 ドサリとメイドの手からさっきの作業量の倍はある書類の山が机に置かれた。
 それを見た俺の顔から血の気が引いていくのがわかった。

「マジで? この書類全部追加」

「そうです陛下」

「陛下。休憩は終わりです。作業に戻ってください」

 秘書が俺を見下しながら「早く作業しろ」と言わんばかりに睨みつけてきた。

 嘘だろ。またぶっ通しで12時間。いや、下手すればもっと……。
 その時、俺の中で何かがプチンと切れた。

 そして無表情のまま立ち上がり。

「オレタビニデマス。サガサナイデネ」

 ガシャンガシャンまるでロボットのようにドアを開け、全速力で城の外目指して走る。

「陛下!」

 だがすぐに秘書が追いかけてきて。

「緊急事態です! 陛下を捕まえて!」

 あちこちに声をかけながら走ってきた結果。

「うわぁああああはなせぇえええ!」

 結局城から逃げる事は出来ず。城門で取り押さえられた俺は屈強な兵士達に書類のある部屋に連行され――。

「ペッタン。ペッタン。ペッタン」

 武装した秘書に睨まれたまま、語尾がペッタンになった俺は虚な目をしながら書類に印鑑を押す作業を延々と続けた。

 20時間後。

「ペ、ペッ……タン(お、終わっ……た)」

「お疲れ様です陛下」

 寝不足で死にかけている俺に秘書が武装を解除して書類を机の上から取り。

「私はこの書類を届けてきますのでしばらく休んでください」

 そう言い残し部屋から出ていった。
 同じ時間起きてたはずなのにあんなに元気なのはなんでだ? あの秘書は不死身なのか?
 まあいい。それより眠い。寝ないと死ぬ。

 目を瞑り、32時間ぶりに夢の世界へダイブ。

『お久しぶりですジンくん。もしも~し聞こえてますか?』

 あと一歩で夢の世界へ行けるというのに、懐かしい声が頭の中に直接響いてきた。

「ペッタン、ペペタンペタンペタン?(この声は、もしかしてあの時の天使か?)」

『うふふ、そうですよ。ジンくんはずいぶん会わないうちに語尾がおかしくなりましたね』

「ペッタンペッタンペペペッタンペッタンペッタン(まる2日間書類に印鑑を押していたらこうなってしまったんだよ)」

『そうですか、それはお気の毒に……』

『ペッタン、ペッタンペペッタン?(それで、今更天使がなんのようだ?)』

『あっそうでした。ジンくん。今から言う私の言葉に驚かないでください』

 そういう天使の声は真剣そのものだった。

 一体何を告げられるんだ?

『単刀直入に伝えますね。
 ジンくん。今から死んでください』

「………………はぁ!!」

『では苦しませないように一瞬で殺しますね』

「ちょっちょっと待て、死ねってどういうことだ!?」

 死ねと言われてテンパる俺に対して天使は明るい声で。

『いいからえいっ⭐︎』



「はっここは!」

 気がつくと俺は、以前お世話になった道場のような広い空間にいた。

「ジンくーんよかった、ちゃんと死んでくれました」

「マジで俺死んで――」

 その時、俺の脳裏にあるトラウマが蘇った。

「ヒィィィ、が、が来る!?」

 聖剣を召喚して武装した俺はに対して本気で警戒する。
 そんな俺を見た天使は笑顔で。

「大丈夫ですよ。今回は特例で死んでもは現れません」

「……嘘じゃないよな」

「信じてください。でないとあの方を呼びますよ」

「ごめんなさい許してください」

 全力で土下座をして今回は死んでもに会わずに済んだ。



「それで、どうして俺を殺したんだ? ちゃんと説明してもらおうか?」

 聖剣を肩に担いだまま、極道顔負けの凄みで天使に問いかける。
 天使は俺の怖い顔を見ても笑顔のまま説明を始めた。

「実はですね――」

 天使が言うに、すぐ近くの世界で魔王が復活したらしい。
 その魔王は強く、ここから送られた勇者達が全員殺されてしまったので、死んでも蘇ることのできる勇者である俺に頼る事にしたらしい。

「それで私としては、大変不本意ながら嫌々ほんと仕方なーくジンくんを殺害してここに呼んだのですよ。よよよ」

 涙が一ミリも出ていないのに、泣いたふりをする天使。

「なるほどな。お前の言い分はわかった」

「そうですか。それはよかったです」

「でもな。
 それなら別に殺さずその世界へ送りつける事もできるだろうがああああっ!!」

「まあまあ。この水でも飲んで落ち着いて、ね」

 天使から水の入ったペットボトルをぶんどりごくごく飲む。

「プハッ。美味いなこの水。なんて水だ?」

 ラベルを見ると『若返りの水』と書いてあった。

「若返りの水? 変な名前」

「あっ、水を間違えました」

「え?」

 ドクン!

「なんだ、体が……熱い」

 シュウシュウ煙が体のあちこちから出てきた。

「なんだこの煙は。体が熱い。俺は死ぬのか……」

 5分後。

「あれ? 熱さが消えた。それになんだか体が軽い」

 熱が収まると同時に、長年俺を悩ませていた肩こりや腰痛が消えていた。

「ジンくん。ほら手鏡を貸してあげるから顔を見てみて」

「お、おう」

 天使の差し出した手鏡を見ると、そこには高校生くらいの頃の俺がいた。

「なんで!?」

「ジンくんがあの水を飲んだからです。年にして約20年分は若返ったみたいですね」

「マジで!? コレって戻るの?」

「残念ながら戻りません」

「マジか。
 でもまあいっか。年取るよりマシだし」

「そう言ってもらえると助かります」

「「あはははは」」

 天使と俺は互いに笑い合い。

「あはは――そろそろ出発してくださいね。えい!」

「あはははは……は?」

 なんの前触れなく足元に魔法陣が現れ、俺の視界から天使が消えた。
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