中学生のはなし

長坂

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部活のはなし

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 中学生の頃、僕は吹奏楽部に所属していた。ほかの友達はテニス部や陸上部に入っていく中で、吹奏楽部を選んだのだが、特に理由はない。小学生の頃の課外活動である吹奏楽を続けたまでである。強いてひとつ理由をあげるとするなら、僕がどうしようもなく運動音痴だったということぐらいだ。前述の通り、ほかの友達は運動部に入っていったので、僕らが入部した年の新しい男子部員は僕一人だった。女子17人:僕一人であった。ただ、体を動かすことが好きではなく、幼少期から女子の友達とともにままごとに興じていたので、女子とのかかわり合いに支障をきたすことは無かった。いじられることは多々あったが。



 そんなこんなで入部したはいいものの、小学校時代にはなかった困難が待ち構えていた。筋トレである。何度も言うように、体を動かさず娯楽はゲームや読書であった僕にとって、筋トレとは過酷な試練となる。たとえそれが腕立て伏せであったとしても、だ。体育での体つくり運動ではいつも苦労していた。というか体育はいつも苦労していた。授業のはなしは今後するとして、腕立て伏せや腹筋が根本から出来ず、なんならやり方すらも曖昧だったので、部長や顧問には呆れられたものである。ほかの女子が腕立て伏せを頑張っている横で、僕は音楽教師であるはずの顧問に腕立て伏せを教えられていた。今考えると甚だ恥ずかしい。



 筋トレができない僕でも、一応小学生の頃に楽器は吹けていたので、中学でも余裕だと思っていた。しかし、中学の吹奏楽部は体力がものをいうのだ。小学生でトランペットだったので、そのままトランペットを続けるのだが、なんせ基礎練習が辛い。16拍 ド を吹き続け、それが終わったら2拍休んで次の ド# といった具合で高い ソ まで吹き終わったら ファ# ファ ……と音を下げていく「ロングトーン」がとても辛かった。トランペットには音を変えるためのピストンと呼ばれるボタンがあるのだが、そのボタンは3つしかないため、多くの音を出すためには同じボタンを押したまま唇の形を変えて音を変える必要がある。それを「リップスラー」というのだが、要は口笛の応用である。その練習とは桁が違う。初期の頃は何度も何度も音の途中で息継ぎをして、水分を補給して、を繰り返していたものだ。小学生の頃もやっていたはずなのだが、4拍だけでしかも高い ド まで上がったら終わりだったので、ロングトーン=簡単、という偏見が頭でできていたのも災いした。



 技術面で苦労したのは、「タンギング」である。リコーダーで「トゥー、トゥー、トゥー、、、」とかやるあれである。もとより音楽の授業は真面目に受けていなかったので、小学生の頃も苦労したのだが、小5の頃リコーダーのタンギングが上手くできるようになってからは、トランペットでもだいぶできるようになっていた。しかし、中学に入ってからのタンギングの練習はとても難しかった。テンポ92で、延々と16分音符を吹き続けるのだ。舌を高速移動させるのはとても大変で、終わったあとはただただ口周りの筋肉が疲労していたのを覚えている。



 基礎練習が終わると、次は夏のコンクールの課題曲の練習に入る。題名は忘れてしまったが、とにかくものすごく音が高かったことは覚えている。体力がなかった僕は、合奏する際に一番低い音でハモリを作るサードを割り当てられたのだが、楽譜を見てびっくりした。なんと、サードなのに、高い ラ まで音があるのだ。しかも、一番盛り上がるところの前になんと16分音符が16個あるのだ。テンポ92で疲弊しきっていたのに、その曲はテンポ140。とてつもない速度でのタンギングを要求され、茫然としたものだ。余談だが、真ん中の音でハモリを作るセカンドは、高い ソ までしか音がなく、サードが16分音符16個を吹いているときに高い レ の全音符だったので、うらやましく思ったものだ。

 結局、3か月かけて頑張って練習し、合奏でも顧問に褒めてもらえるレベルまで上達したが、夏のコンクールは銀賞に終わってしまった。



 今まで演奏についてのことを書いてきたが、ここからは恋愛について書いていこう。中学男子で周りに女子がたくさんいれば、恋愛感情で悩むこともたくさんあった。このサイトに投稿されているハーレムのようなことはまったくもって起こらず、というか彼らは転生と努力と親切な行動をしているので、何一つやっていない僕に起こるはずもなく、女子がこちらによって来てくれることもなかったので、自分のほうから女子に話しかけに行かなければならなかった。ただ、初めに書いた通りこちらから話しかければ応対はしてくれるので、支障をきたすことはなかった。しかし、あくまでそれは部員として、友達としての関わり合い。恋愛となると状況は一変し、まったくアクションが起こせない。そのことは運動部に入っていった男友達に

「長坂は吹部で女子とのかかわりも多いだろうに、なんで彼女はいつまでたってもできないんだ?」

などとよくいじられた。そういう時、

「僕にも好きな人ぐらいいるって!」

と言ってしまい、好きな人を当てられてしまうことがあった。その当てられた女子が、同じトランペットで一番高い音で主旋律を演奏するファーストの新川さんである。その子はとにかく美人で、トランペットの高い音も美しく出すことができ、その上僕がわからないリズムなども教えてくれる親切さも兼ね備えているため、かかわりを深めていくうちに好意を抱いていったのだ。

 当てられたぐらいでめげていたら永遠に彼女なんてできないので、男友達にばれても新川さんへの思いは変わらなかった。



 冬のコンクールに向けて練習をしていたところで、僕は新川さんに告白することを決めた。告白するにあたって、場所も決めないといけないのだが、その時選んだのは忘れもしないトイレの前の流しだったのだ。朝の時間に告白するため人が来ないとでも思っていたのだろうか。それ以前にトイレの前というのは告白の場所としてどうなのだろうか。思い返せば酷い点はいくつもあるが、当時の僕は理由のない自信にあふれかえっていた。絶対成功させるべく、前日の夜に念入りにセリフを考えた。

 そして告白の日、前日に新川さんに

「朝部がおわったらトイレの前に来て。」

と伝えてあったので、彼女は終わってすぐにトイレの前に来てくれた。伝えたときに彼女が不審げな顔をしていたのを見たが、気にも留めなかった。

 そしていざ告白。

「あなたのトランペットを吹く姿勢は素敵です!小さな気遣いはいつも僕を助けてくれました!つ、ちゅきあってください!」

 噛んだのである。そう、噛んだのである。このとき、今まで理由もなくあふれかえっていた自信が初めて砕け散った。しかし、そこで焦りを見せてはならないと思い、黙って返事を待っていた。数秒の沈黙の末に、彼女は言った。

「えっと、、、長坂君とは、友達でいたいの。あと、私には別の好きな人がいるし、、、だから、ごめんなさい。」

「別の好きな人」という言葉が頭をかき乱したが、それは誰だと聞くと面倒くさいやつに思われてしまうかもしれないので、

「そっか、、、わざわざ来てくれてありがとう。その恋、応援してるね!」

 と無理やり笑顔を作り、場を離れた。といっても、本当はその場から早く逃げたかっただけだが。



 そんなこんなで、中学生初の恋は破れた。新川さんとは、ただの友達として関係を続けたが、彼氏ができた、などという噂は流れなかった。今でも時々ふと彼女は今幸せにしているのだろうかと考えては、中学生の頃の淡い恋心を思い出し寂しくなる。
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