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スイレンは疑問を口にしながらも、目の前の人が嘘を言っているようには思えないために困惑する。
考えることをやめ、コハクに視線を投げかけた。

「おーかみのにおいする。ほんとだよ」

コハクが男性の額を濡れた布でゴシゴシ拭いながら答えた。

「コハク、優しくっ……優しくね。それでその村はどっち?」

コハクに聞いたつもりだったのだが、フラフラと立ち上がった男性はコハクにお礼を言い、森の奥を指さした。

「あっちです。どうか……村の入り口へは……少し入り組んでいて、案内しますので」

乾き、パリパリになった血がこびりつく布を叩き落としていたコハクは、横目でチラリと焦る男性を見てスイレンの鞄の紐を引っ張った。

「だいじょうぶ。すぅがなおしたから。ぽーしょんあげて」

困った笑顔でスイレンは鞄を開く。

「すみません。本当は休ませてあげたいんですけど……お願いしてもいいですか?」

男性に薬草で作った疲労回復ポーションを手渡した。


ポーションのお陰か休み休みだった足が徐々に早足になっていく男性。

その男性はキアンと名を名乗り、向かう先、パノ村の村長の息子らしい。

キアンは朝方、村の者たちと山奥の森の前で、様子のおかしい風狼を見つけ追い払っていたのだが、風魔術を使ってきた為、村に居るものを石レンガでできた廃墟になっている研究所に避難させた。
だが村離れにある孤児院の裏の森が風狼の巣穴に繋がる場所だったらしく、孤児院が風狼の群れに囲まれ、逃げ遅れた子供達を司祭が探しに行き、肝心の治癒師が司祭だけだったそうで、道の分かるキアンが冒険者や商人の通る道まで助けを求めに行こうとしていたという。
途中、風魔術で飛んできた木材に頭をぶつけたが血が流れていることにも気づいていなかったそうだ。

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