毒にも薬にもなりたくないっ

19.

赤らめたままの顔で王妃は柔らかく笑んだ


「貴方は、そんなにすぐに枯れてしまうような儚いものではないわ。立っているだけで美しいのは認めるわね。ふふっ……」


「母上は……私を誇らしいと思いますか？ 立派に……なったと……思いますか」


「ええ、とても。貴方は何もしなくても愛しく思うわ。とても……とても……あぁ泣かないで、もっと此方へおいで」


そう言ってミケラウスを胸元へ寄せた王妃は、とても我が子にするようなものではない抱擁をした


執拗に胸を押し付け、その手はミケラウスの太腿から尻へ、撫で回すような動きをしている


顔色を失ったニールにはミケラウスの後ろ姿しか見えない


「母上……私はただ百合のように在りたかった……」



腰に携えていた小刀を徐に天へと掲げるミケラウス

直後、抱き合う王妃とミケラウスに閃光が走った

庭園は一瞬にして眩い光に襲われる
あちらこちらから悲鳴が聞こえてくる


ニールは、ぼやけた視界の先に
顔面を真っ赤にして倒れる王妃と返り血を浴びて佇むミケラウスを見た


視界が戻り、急いで駆け寄るが何故か衣装を運んだ王妃付きの若いメイドが王妃の存在を無視して、ミケラウスにへばりついているのが見えた


「ミケラウス様、どうか！ どうか御寵愛をっ！」


狂っている

ニールは思わず顔を顰めたが、ミケラウスは口端をあげ、そのメイドの頬を激しく掴んだ

その手は鱗で覆われている

メイドは鱗で切れる頬を気にも留めず、口付けを乞うように、そのまま首に巻き付こうとしている




「俺には愛などわからんよ。ハハハ」

そう言って、そのメイドの首元に小刀を滑らせる





鮮血を浴びたミケラウスは確かに泣いていた