上 下
95 / 118
番外編

93 こんにちは赤ちゃん 2

しおりを挟む
微妙な雰囲気のままその日の仕事は終わった。こんな日は家に帰っても「嫁」に集中出来ないし、友と呑む事にする。


「――いつも貴方は突然ですね。」

年をとっても緑の短髪の爽やかイケメンはエールを呑むと「困った人だ」と笑って言った。いや、むしろ年をとって色気が増し増しになって腹のたつことにこれまた最強になっている。

「騎士団長だろう?落ちこぼれ街道まっしぐらな可哀想な俺を慰めろ。」

俺はエールを飲み干し机の上にダンと置いた。

「慰めろって、自分でその道を蹴っといてよく言う。受けていたら貴方は今頃花形の魔術師団長だったのに。」

「だって面倒くさかったんだ!団長だぞ?忙しすぎて「嫁」との時間が減るだろうが!……だからと言って陛下の寵姫のお守りとか……ないわ。あいつ何を作ろうとしているか知ってるか?あの野郎……あっこれ機密事項だったわ。とにかく男のくせに寵愛を受けてる奴の下で働くなんて地獄だ。」

俺は机に顔を埋め嘆いた。

「……ルカ先輩の飛ばされた先って先生の所なんですか?」

俺が机に顔を埋めたまま頷くと肩を掴まれて顔をあげさせられる。

「先生には気を付けた方がいい。」

眼前に迫るイケメンにぽぅっとなって眼鏡がずれる。

「……気を付けろって、あいつ今じゃ魔法も使えない、レベル1の只のなよなよした男だぞ?ほんとにガッカリだ。」

確かワタヌキも先生の事好きだったんだっけ……。残念、今やあいつは王の寵姫だ。

「いや、あの見た目に騙されてはいけない。兎に角逆らわず、言うことを聞いて下さい。万が一にも恨まれたりしては駄目ですからね?」

俺はワタヌキの鬼気迫る勢いに取り合えず頷いた。

「……それにしても、その姿はどうにかならないんですか?かつての抱かれたい男No.2が台無しだ。」

うって変わって今度はふざけた口調でワタヌキが言うから、俺は冗談言うなとワタヌキから距離を置き耳を塞いだ。

「やーめーろー!黒歴史を堂々と話すな!あれは人生の汚点、お前だってそうだろうが!男相手に抱くだの抱かれるだの気持ち悪い!」

俺が悪寒に震え体を抱え込んでいると、ワタヌキは真剣な顔をして俺を真っ直ぐ見た。

「冗談なんかじゃない。あの頃の貴方はチャラく見せておきながら会長になった俺を人知れず何度も助けてくれた。俺にとっては頼れる先輩でしたよ。……まぁ、この俺が思わず手を出すくらいです。魅力的だったのは事実だ。……あれから若い頃何度か貴方と寝たが、男はルカ先輩だけです。」

俺は不可抗力でワタヌキとそうなった事を思い出す。その後も何度かそういう雰囲気になって寝た。俺だって男はワタヌキ以外となんて考えたくもない。……いや、先生がいた。あの人は別格で未だに俺の心を捉えて離さない罪な人。今のあいつなんかとは違う。

「……先生、会いたい。」

俺がテーブルに顎を乗せ唇をつき出してべそをかいているとワタヌキが俺の手首を掴んだ。

「今の話から何故、先生が出てくるんだ?俺だって先生は今でも大切な人ですよ。だけど貴方が先生を未だに恋しがるのは嫌でたまらない。しかも、今は一緒に仕事をしてるなんて……まだ、好きなんですか?」

焦れたように熱い眼差して言われると下半身が疼いてしまう。俺たちの関係は何なんだろう?友達ではしない、やらしい事をした事があり、でも恋人でもない。

「えっと……する?」

俺はコテンと首を傾げてワタヌキを上目使いに見た。10年ぶりか……

「する。」

わー、こいつ欲情してる。

「……これ呑んでからな。」

まだ並々と入っている二杯目のエールを目線でさすと、ワタヌキは俺からそれを奪い取り一気に飲み干してしまった。ゴクゴクとワタヌキの色気のある喉が上下してとても卑猥だ。

「……必死か。」

俺は恥ずかしくなりそこから目線をそらした。その時……

「あら、騎士団長、奇遇ですね。」

エリートちゃん改め魔術師団長がニコニコと現れた。

「どうも、この度は団長就任おめでとうございます。しかし正式な場ではなくこんな場所でお会いしてしまうとは、正式な祝辞は後程しますのでお許し下さい。」

先程までの獲物を狙う欲情した顔とは違い人好きのする爽やかな笑顔で新しい魔術師団長へすらすらと話しかけていくワタヌキ。

「ありがとうございます。せっかく偶然お会いできたのですし、この後お食事でもいかがでしょうか?」

魔術師団長が頬を染めワタヌキを誘う。

「いえ、私は彼と先約がありますので……」

チラリと俺を見るワタヌキの顔が困ったように揺らぐから、俺は気をきかせる事にした。今まで魔術師団は騎士団を下にみている風習があった。そんな中新しい魔術師団長が友好的に騎士団長のワタヌキへ誘いをかけるということは、関係がよい方向へ進む可能があるかもしれないのだ。

「俺、用事を思い出したから行くわ。」

「え、ちょっ!?」

制止しようとするワタヌキに手をヒラヒラと振り俺は店を出た。

魔術師団長一度もこちらを見なかったな。汚物は見たくないってか……。

それにしても偶然って、エリート中のエリートがこんな男臭い居酒屋に来るとか……頬を染めた魔術師団長の顔を思い出す。

……ワタヌキにもやっと春が来るかもなぁ。

10年前、奴の縁談を俺が体を使って阻止してからあいつは結婚しないでいた。あいつが結婚するって聞いたら無意識に体が動いて「俺にしとけよ」と誘惑してしまった。破談になってから、何て事をしたんだと真っ青になり、逃げて逃げまくって徹底的にあいつを避けた。最近だ、こんな風にまた気軽に酒が呑めるようになったのは……


今度は絶対に邪魔しちゃ駄目だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!

ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。 弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。 後にBLに発展します。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

処理中です...