94 / 118
番外編
92 こんにちは赤ちゃん 1
しおりを挟む※男性の妊娠表現があります。苦手な方はご注意下さい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
かつて大好きだった美しい彼女が人生の先輩のような顔をして微笑んだ。
「ルカ様、おめでとうございます。ご懐妊です。」
ご懐妊です、ご懐妊です、ご懐妊です、ごか……
俺は怯えた目で悲しそうにいつもこちらを見ていたアイスブルーの美しい瞳を思い出し、悪態をついた。
「……バッカヤローーーー!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――エリート集団の魔術師団に配属されて20年近くなるが先の戦いで団長が無くなり、面倒くさいその椅子が俺に転がり落ちようとしていた。しかし、周囲の予想を裏切り、まだ入城して5年目の超エリートちゃんが選ばれた。あのギリギリの精神状態の戦いの中、彼女は王の補佐を完璧にこなし全幅の信頼を得たんだ。
「――と言う訳で、貴方にはラインハルト様の補佐として開発実験室に明日から移動してもらいます。」
俺はずり落ちた眼鏡をかけ直し、ボサボサの髪をポリポリとかいた。俺の肩にフケがパラパラと落ちるのも気にもせず、彼女は笑顔でニコニコしている。
「ラインハルト様、って陛下の寵愛を受けてるっていう……」
この国を救い姿を消していた、これまたかつて凄く大好きだった人……。
「はい。けれど安心して下さい。出向という形なのですぐに戻しますから。」
……ウソだな。大方他の優秀な人材を放出したくなくて煙たい俺を排除しにかかったに違いない。
「……分かった。」
それはどうでもいいけど、……陛下の寵愛を受けてるって……男のクセに……先生にはガッカリた。
かつて男に追いかけ回された学生時代を思い出す。男しかいないのに抱かれたい男なんていうのに選ばれ、周囲には親衛隊なる者達を毎日とっかえひっかえしてると思わせていたあの黒歴史。
そう『黒・歴・史』
本当は男なんて大嫌いなのに。大好きだった彼女から男同士の恋愛の話を聞きたいから入学して聞かせてくれたら結婚してあげると言われ、彼女プロデュースでチャラ男にイメチェンして入学してしまったバカ過ぎる俺。
根は真面目な優等生だったのに……
そして結局卒業して約束通り彼女と結婚したが1年目にして「私、女性が好きみたい。」と言って離縁された。
それからは男も女も信じられなくなって、独り暮らしのアパートと仕事場を往復する毎日。仕事のない日は真っ暗な部屋で本ばかり見ていたら(本の中には裏切らない俺の嫁がいる)目も悪くなり、風呂も面倒くさくて(家では俺の嫁と片時も離れたくない)1週間に1度だからフケまみれになってしまった。つまり俺は輝かしい魔術師団の恥部で彼女はそんな俺を追い出したかったんだろう。
――コンコン
次の日、俺は昨日まとめていた荷物を持って、城の一室に設けられた開発実験室なる部屋の扉を叩いていた。
「……いないのか?」
そっと扉を開くと中には、当時そのままの姿の彼がいた。違うのは前髪が切り揃えられ、隠していたアイスブルーの瞳が姿をのぞかせ、美しい顔を惜しげもなく晒している事だった。彼は机に向かってその瞳をギラギラに輝かせ何かを夢中になってやっていた。
……先生。
「今日付けでこちらに配属された者だが、俺は何をしたらいい?」
それでも彼は何も言わない。どうやら夢中になりすぎて俺の声が聞こえていないらしい。
俺は徐に近付くと背後から「おい!」と声をかけた。
途端に肩に力が入りビクンとする男。
……ガッカリだ。先生はこんなに弱くなかった。
「びっ……くりしたぁ。」
そう言ってゆっくりこちらを振り返り俺を見上げた彼はアーモンドアイを見開いた。相変わらずまつ毛ながっ!?何だよその肌、その唇!?美しいってある意味暴力だ。暴力的に美しい彼が時を止め、おじさんになった俺の前にまた現れるなんて……
「おっ、前?、チャラ……ええ!?お前何があった!?」
彼はアワワワと口をあけ、かなり驚いた後、俺の両肘を握りガタガタと揺さぶった。
年上の時は本当に大好きだったけど、時を止めた彼を追い越し倍近く年をとった俺はその行動にイライラした。
先生の癖に可愛いとか、王の寵愛を受けてるとか……
「その気色悪い手を離せ。俺は何をしたらいいか説明しろ。」
俺は彼から肘を取り戻し距離を取った。
「あんなキラキラしてたのに……なんでこんな事に……キラキラって、えっ?髪の毛茶色だし………染めてたのか?……それにしても瓶ぞこ眼鏡って……オタク?まさかな。」
彼は俺の質問に答えない。イライラしてきた。
「おい、俺は何をしたらいいんだ?早く言わないとミンチにするぞ?」
俺は彼の体を拘束魔法で痛みを伴うように拘束し、宙に浮かせる。
「あだだだだ!何しやがる!離せ!」
動く足をバタバタさせ彼が喚く。
「何をしたらいいかと聞いている。」
「何を?って、無尽蔵な魔力の持ち主の助手ってチャラ男会計!?」
「……そのアダ名で2度と呼ぶな。早く説明しろ。」
そのアダ名で呼んでいいのは強くて美しかった先生だけだ。よわよわなよなよなお前じゃない。
俺は乱暴に彼を落とすと拘束魔法をといた。
「……痛ぇ……グスッ……分かった、説明する。」
彼は目の縁を真っ赤にした顔をあげ説明を始めた。……あっ、泣かしてしまった。
あの強くて美しかった先生はもう、いないんだ。
俺は目の前にいる人物に深い失望を覚えた。
0
お気に入りに追加
2,026
あなたにおすすめの小説
短編まとめ
あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。
基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。
異世界に召喚されたのでどすけべアピール頑張ります♡
桜羽根ねね
BL
タイトル通りのらぶざまハッピーエロコメです!
口が少し悪い攻めと敬語攻めに、平凡受けがふたなりに変えられたり洗脳されたり愛されたりします。
とあるプレイはマロでいただいたものを参考に書かせていただきました。送っていただいたマロ主さん、ありがとうございます。
何でも美味しく食べる方向けです!
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
クソ雑魚新人ウエイターを調教しよう
十鳥ゆげ
BL
カフェ「ピアニッシモ」の新人アルバイト・大津少年は、どんくさく、これまで様々なミスをしてきた。
一度はアイスコーヒーを常連さんの頭からぶちまけたこともある。
今ようやく言えるようになったのは「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」のみ。
そんな中、常連の柳さん、他ならぬ、大津が頭からアイスコーヒーをぶちまけた常連客がやってくる。
以前大津と柳さんは映画談義で盛り上がったので、二人でオールで映画鑑賞をしようと誘われる。
マスターの許可も取り、「合意の誘拐」として柳さんの部屋について行く大津くんであったが……?
いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい
作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。
BLなので注意!!
初投稿なので拙いです
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる