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番外編
82 悪党の恋2
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ドンッ
目が小さく鷲鼻の男が俺の肩を押す。
「卑しい身分の癖に!!身の程を知れ!」
本当ならこんなへなちょこな一撃など屁でもないが俺は「うっ!」と大袈裟に廊下に倒れた。
そこに偶然王子が通りかかった。
「何をしている!」
鷲鼻の男は逃げ出した。
「君、大丈夫かい?」
王子は俺の腕を引き立たせると体についた埃りを払った。
そして俺の顔を見て固まった。
「……ありがとう。」
俺は顔をあげ、なるべく儚げに見えるように微笑んだ。
王子の俺の腕を掴む手に力が入る。
――本当にこの顔は役に立つ。
「まさかこんな往来で襲われていた訳ではないだろう?しかしその美しさならあり得ない事もないのか?」
目の前の見目麗しい青年を放っておけずに王子が尋ねてくる。そうか、そっちにとるのか。軌道修正が必要だな。
「見ず知らずの君に話す事ではないかもしれないが……俺は貴族だが養子で出生が分からない。だから卑しい身分だといつも絡まれるんだ。」
少し俯いて話すと効果的だ。
王子の手が俺の肩に伸びようとしたその時、顔をあげ強がるように笑う。
「でも俺は養子にしてくれた母上の為にも良い領主になり領土を誰よりも繁栄させてみせる。それが一番の恩返しだと思っている。……って、俺は初めて会った君に何を話しているんだろう?……では、助けてくれてありがとう。」
カァっと赤くなり頬に手をやると踵を返してその場を去った。
――効果はすぐに次の夜会で現れた。
「――やぁ、カイン。」
王子の方から俺を見つけ話しかけてきたのだ。
「……あの時の……どうして俺の名を?」
不思議そうに王子を見ると悪戯っ子のように笑った。
「金髪で凄いイケメンを知っているか?と聞いたら誰でも知っていた。君は思ったよりも凄く有名人だよ?」
「まぁ、イケメンは認める。この顔で幼い頃から苦労したからな。」
そう言ってフンと鼻から息を吐くと王子は「ブハッ」と笑った。
「認めるか普通?……まぁ、確かにこの顔で謙遜されたら腹立たしいかもしれないな。」
「そうだろう?色々大変なんだ」と困ったように笑うと「贅沢な悩みだ。馬に蹴られてしまえ。」と言われた。
それから川の水が流れるように自然と仲良くなっていくのは簡単だった。
そしてもっと親密になる出来事が起きる。
それは何度目かの夜会の席だった。たまたま王子が俺のワインを持ってきてくれ俺が受け取ったその時――
「――卑しい身分の癖に王子を召し使いのようにこき使うとは、勘違いも甚だしい事だ。」
どこからともなく悪意のある言葉が放たれた。
その場が凍りつき、ゆっくりと俺は王子を見る。王子はしまったという顔をして俺を見た。
「……君は王子、だったのか?俺は親友のように思って……何て失礼な振る舞いを……申し訳ありませんでした。」
そう言って俺が頭を下げると、王子は周囲を見渡し俺の手を取った。
「彼は私の親友だ。彼を貶める事を私は決して許さない!」
王子は怒った顔でそう言うと俺の手を引きその場を後にした。
「――痛い!」
風の強い中バルコニーへ連れていかれ、王子があんまり強い力でそのまま腕を掴んで離さないから本気で振り払った。しかし今度は優しく2つの手で両腕を取られ顔の両横に上げられじっと見つめられる。
「俺が黙っていた事、怒っているか?」
悪い事をして叱られた子供のように俺の瞳を覗き込む王子を困ったように俺は見た。
「……怒るも何も、俺はその立場にありませんから……。」
風で髪が乱れ顔に貼り付く。
「俺の回りにはいつもおべっかを使う者達ばかりだった。お前だけなんだ俺に普通に接してくれるのは。俺はそれがとても嬉しかった。……これからも変わらずいて欲しい。……駄目か?」
うぉー!血統書付きの本気は怖ぇ!何か全部知ってたのに絆されそうになった。頑張れ俺!下町の根性見せてやれ!
「駄目も何も……君の正体?を知ったら俺、目茶苦茶おべっか使うぞ?」
俺が上目遣いにそう言うと、「お前にならおべっかを使ってもらいたい。」と王子は真面目な顔でそう言い、お互いのおでこをコツンとくっつけた。
――近い、何か近くないか?親友っていた事ないから分かんねぇけど……。
俺は少しづつ軌道がずれていっていることに全く気付いていなかったんだ。
目が小さく鷲鼻の男が俺の肩を押す。
「卑しい身分の癖に!!身の程を知れ!」
本当ならこんなへなちょこな一撃など屁でもないが俺は「うっ!」と大袈裟に廊下に倒れた。
そこに偶然王子が通りかかった。
「何をしている!」
鷲鼻の男は逃げ出した。
「君、大丈夫かい?」
王子は俺の腕を引き立たせると体についた埃りを払った。
そして俺の顔を見て固まった。
「……ありがとう。」
俺は顔をあげ、なるべく儚げに見えるように微笑んだ。
王子の俺の腕を掴む手に力が入る。
――本当にこの顔は役に立つ。
「まさかこんな往来で襲われていた訳ではないだろう?しかしその美しさならあり得ない事もないのか?」
目の前の見目麗しい青年を放っておけずに王子が尋ねてくる。そうか、そっちにとるのか。軌道修正が必要だな。
「見ず知らずの君に話す事ではないかもしれないが……俺は貴族だが養子で出生が分からない。だから卑しい身分だといつも絡まれるんだ。」
少し俯いて話すと効果的だ。
王子の手が俺の肩に伸びようとしたその時、顔をあげ強がるように笑う。
「でも俺は養子にしてくれた母上の為にも良い領主になり領土を誰よりも繁栄させてみせる。それが一番の恩返しだと思っている。……って、俺は初めて会った君に何を話しているんだろう?……では、助けてくれてありがとう。」
カァっと赤くなり頬に手をやると踵を返してその場を去った。
――効果はすぐに次の夜会で現れた。
「――やぁ、カイン。」
王子の方から俺を見つけ話しかけてきたのだ。
「……あの時の……どうして俺の名を?」
不思議そうに王子を見ると悪戯っ子のように笑った。
「金髪で凄いイケメンを知っているか?と聞いたら誰でも知っていた。君は思ったよりも凄く有名人だよ?」
「まぁ、イケメンは認める。この顔で幼い頃から苦労したからな。」
そう言ってフンと鼻から息を吐くと王子は「ブハッ」と笑った。
「認めるか普通?……まぁ、確かにこの顔で謙遜されたら腹立たしいかもしれないな。」
「そうだろう?色々大変なんだ」と困ったように笑うと「贅沢な悩みだ。馬に蹴られてしまえ。」と言われた。
それから川の水が流れるように自然と仲良くなっていくのは簡単だった。
そしてもっと親密になる出来事が起きる。
それは何度目かの夜会の席だった。たまたま王子が俺のワインを持ってきてくれ俺が受け取ったその時――
「――卑しい身分の癖に王子を召し使いのようにこき使うとは、勘違いも甚だしい事だ。」
どこからともなく悪意のある言葉が放たれた。
その場が凍りつき、ゆっくりと俺は王子を見る。王子はしまったという顔をして俺を見た。
「……君は王子、だったのか?俺は親友のように思って……何て失礼な振る舞いを……申し訳ありませんでした。」
そう言って俺が頭を下げると、王子は周囲を見渡し俺の手を取った。
「彼は私の親友だ。彼を貶める事を私は決して許さない!」
王子は怒った顔でそう言うと俺の手を引きその場を後にした。
「――痛い!」
風の強い中バルコニーへ連れていかれ、王子があんまり強い力でそのまま腕を掴んで離さないから本気で振り払った。しかし今度は優しく2つの手で両腕を取られ顔の両横に上げられじっと見つめられる。
「俺が黙っていた事、怒っているか?」
悪い事をして叱られた子供のように俺の瞳を覗き込む王子を困ったように俺は見た。
「……怒るも何も、俺はその立場にありませんから……。」
風で髪が乱れ顔に貼り付く。
「俺の回りにはいつもおべっかを使う者達ばかりだった。お前だけなんだ俺に普通に接してくれるのは。俺はそれがとても嬉しかった。……これからも変わらずいて欲しい。……駄目か?」
うぉー!血統書付きの本気は怖ぇ!何か全部知ってたのに絆されそうになった。頑張れ俺!下町の根性見せてやれ!
「駄目も何も……君の正体?を知ったら俺、目茶苦茶おべっか使うぞ?」
俺が上目遣いにそう言うと、「お前にならおべっかを使ってもらいたい。」と王子は真面目な顔でそう言い、お互いのおでこをコツンとくっつけた。
――近い、何か近くないか?親友っていた事ないから分かんねぇけど……。
俺は少しづつ軌道がずれていっていることに全く気付いていなかったんだ。
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