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番外編

77 月が綺麗ですね

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side   後輩の男

初めて会った時、見上げる時首が痛くなるからムカつくと言われて脛を的確に蹴られた。

子供ような顔をしておよそ子供とは言えぬ三白眼に尊大な態度。

他人を見下し、患者にまで冷たいあの人が大嫌いだった。なのに俺の教育係になるなんて⁉もちろん何も教えてくれない。それどころかパシリにされる始末。大事な手術前に消え、代わりに執刀させられそうになり泣きながら探したりもした。

呼び出し音を何度も鳴らし幸運な事に音を拾ってその音のなる方へ近付くとベンチで寝ていた時は本気で殺意を覚えた。

叩き起こしてやろうと近付くとそこにはまだあどけない少年が医者のコスプレをして寝ていた。

「……んっ。」

少年のあどけない口から声が漏れるとまだ何も写さない瞳が開きフワリと笑った。

急に突風が吹き荒れ心臓を鷲掴みにされた気がした。ドドドドドと心臓が音を立て外に漏れてはいないかとヒヤヒヤもした。

瞳が色を持ちいつもの三白眼になるとあの人は「間違えた。」と言った。

誰と間違えたんだ!

しつこく問い詰め実家の犬と言われた時は嬉しいような悲しいような微妙な気持ちになった。あの人の側にいれたら幸せだった。だから彼の好きなゲームも勉強した。

そう俺は他人も患者も自分も大事にしないでも腕は確かで寝顔が天使のように可愛いこの人に不覚にも恋をしたんだ。

最初はいきなりなつき始めた年下の男に胡散臭げだったあの人も年月をかけて絆して懐に入れてもらった。酒も一緒に飲んだし、ゲームを朝までした。偏屈だけど医者の腕は確かな彼に恋人が出来ないように牽制も沢山した。一生この人を囲ってやるそう決めていたのに――

「国境なき医師団?」

あの人は晴れ晴れとした顔で来月立つと言った。ここはお前が居るから大丈夫だな。なんて勝手な事を言って――。

どうしようもなくて彼が旅立つ前日に無理やり抱いた。

「……お、前。やっぱり胡散臭いと思ってたんだよ。」

そう言って最後に「泣くほど後悔すんならやんなよな。」と笑うと行ってしまった。

その一年後あの人の後を追うべく医師団への手続きをしていた俺にあの人が死んだと訃報が入った。

絶望の中、3年してあの人の生きた証を探すべくその地へ医師として行った。

人々の一生懸命に生きている姿、苦境の中の笑顔を見てあの人は確かに生きていたんだと思い彼が死んだと聞かされてから初めて泣いた。周りの目も気にせず咽び泣いた。

この地で俺があの人の後を継いだらあの人は生きてると思った。




――それから2年。



「やっと逝ける。……あの人の所へ……」

その日、子供を庇って一人の医師が死んだ。人々は彼の無念を思い涙して悲しみに暮れたが……男の死に顔は幸せそうに微笑んでいたという――





――side   アレン


――久しぶりに遠い昔の夢を見た。

転生した時、あの人の居ないゲームの世界だと分かり絶望した。

そんな世界に愛しく心乱される人が出来た。

美しくて、優しくて、強くて、可愛くて、俺を愛してくれたライ。

でも俺は認められなかった。

あの人が居ない世界で違う人間を愛するなどあってはならないと――

そして大切なライを憎み虐げ一度あっけなく失った。

死んだ方がましのような長い絶望と後悔と恨みが続く中、始まりの村でハルに入ったライに出会った。

顔に飛んだ血を手の甲で拭いこちらを真っ直ぐ見据える三白眼にこの少年はあの人の生まれかわりかと思った。

あの人によく似た少年。

あの人がいなかったら俺はライを見つける事が出来ただろうか?

――今、自分の全てである天使の寝顔をじっと見る。するとゆっくりと何も写さない瞳が開き――

――そして、フワリと笑った。顔は全く違うのに同じように愛しく思うのは何故だろう?



俺は確かにあそこに存在して、あの人を強く愛した。

でも、アレンに生まれ変りライを強く深く愛した。

怖いくらいに幸せで、甘美な夢のような日常の合間にふと思う。

俺がここにいるなら、あの人も何処かにいるのか……それなら絶対に幸せでいて欲しい……過去となった今もそう願わずにはいられないほど強く愛した大好きだった人――
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