78 / 118
番外編
77 月が綺麗ですね
しおりを挟む
side 後輩の男
初めて会った時、見上げる時首が痛くなるからムカつくと言われて脛を的確に蹴られた。
子供ような顔をしておよそ子供とは言えぬ三白眼に尊大な態度。
他人を見下し、患者にまで冷たいあの人が大嫌いだった。なのに俺の教育係になるなんて⁉もちろん何も教えてくれない。それどころかパシリにされる始末。大事な手術前に消え、代わりに執刀させられそうになり泣きながら探したりもした。
呼び出し音を何度も鳴らし幸運な事に音を拾ってその音のなる方へ近付くとベンチで寝ていた時は本気で殺意を覚えた。
叩き起こしてやろうと近付くとそこにはまだあどけない少年が医者のコスプレをして寝ていた。
「……んっ。」
少年のあどけない口から声が漏れるとまだ何も写さない瞳が開きフワリと笑った。
急に突風が吹き荒れ心臓を鷲掴みにされた気がした。ドドドドドと心臓が音を立て外に漏れてはいないかとヒヤヒヤもした。
瞳が色を持ちいつもの三白眼になるとあの人は「間違えた。」と言った。
誰と間違えたんだ!
しつこく問い詰め実家の犬と言われた時は嬉しいような悲しいような微妙な気持ちになった。あの人の側にいれたら幸せだった。だから彼の好きなゲームも勉強した。
そう俺は他人も患者も自分も大事にしないでも腕は確かで寝顔が天使のように可愛いこの人に不覚にも恋をしたんだ。
最初はいきなりなつき始めた年下の男に胡散臭げだったあの人も年月をかけて絆して懐に入れてもらった。酒も一緒に飲んだし、ゲームを朝までした。偏屈だけど医者の腕は確かな彼に恋人が出来ないように牽制も沢山した。一生この人を囲ってやるそう決めていたのに――
「国境なき医師団?」
あの人は晴れ晴れとした顔で来月立つと言った。ここはお前が居るから大丈夫だな。なんて勝手な事を言って――。
どうしようもなくて彼が旅立つ前日に無理やり抱いた。
「……お、前。やっぱり胡散臭いと思ってたんだよ。」
そう言って最後に「泣くほど後悔すんならやんなよな。」と笑うと行ってしまった。
その一年後あの人の後を追うべく医師団への手続きをしていた俺にあの人が死んだと訃報が入った。
絶望の中、3年してあの人の生きた証を探すべくその地へ医師として行った。
人々の一生懸命に生きている姿、苦境の中の笑顔を見てあの人は確かに生きていたんだと思い彼が死んだと聞かされてから初めて泣いた。周りの目も気にせず咽び泣いた。
この地で俺があの人の後を継いだらあの人は生きてると思った。
――それから2年。
「やっと逝ける。……あの人の所へ……」
その日、子供を庇って一人の医師が死んだ。人々は彼の無念を思い涙して悲しみに暮れたが……男の死に顔は幸せそうに微笑んでいたという――
――side アレン
――久しぶりに遠い昔の夢を見た。
転生した時、あの人の居ないゲームの世界だと分かり絶望した。
そんな世界に愛しく心乱される人が出来た。
美しくて、優しくて、強くて、可愛くて、俺を愛してくれたライ。
でも俺は認められなかった。
あの人が居ない世界で違う人間を愛するなどあってはならないと――
そして大切なライを憎み虐げ一度あっけなく失った。
死んだ方がましのような長い絶望と後悔と恨みが続く中、始まりの村でハルに入ったライに出会った。
顔に飛んだ血を手の甲で拭いこちらを真っ直ぐ見据える三白眼にこの少年はあの人の生まれかわりかと思った。
あの人によく似た少年。
あの人がいなかったら俺はライを見つける事が出来ただろうか?
――今、自分の全てである天使の寝顔をじっと見る。するとゆっくりと何も写さない瞳が開き――
――そして、フワリと笑った。顔は全く違うのに同じように愛しく思うのは何故だろう?
俺は確かにあそこに存在して、あの人を強く愛した。
でも、アレンに生まれ変りライを強く深く愛した。
怖いくらいに幸せで、甘美な夢のような日常の合間にふと思う。
俺がここにいるなら、あの人も何処かにいるのか……それなら絶対に幸せでいて欲しい……過去となった今もそう願わずにはいられないほど強く愛した大好きだった人――
初めて会った時、見上げる時首が痛くなるからムカつくと言われて脛を的確に蹴られた。
子供ような顔をしておよそ子供とは言えぬ三白眼に尊大な態度。
他人を見下し、患者にまで冷たいあの人が大嫌いだった。なのに俺の教育係になるなんて⁉もちろん何も教えてくれない。それどころかパシリにされる始末。大事な手術前に消え、代わりに執刀させられそうになり泣きながら探したりもした。
呼び出し音を何度も鳴らし幸運な事に音を拾ってその音のなる方へ近付くとベンチで寝ていた時は本気で殺意を覚えた。
叩き起こしてやろうと近付くとそこにはまだあどけない少年が医者のコスプレをして寝ていた。
「……んっ。」
少年のあどけない口から声が漏れるとまだ何も写さない瞳が開きフワリと笑った。
急に突風が吹き荒れ心臓を鷲掴みにされた気がした。ドドドドドと心臓が音を立て外に漏れてはいないかとヒヤヒヤもした。
瞳が色を持ちいつもの三白眼になるとあの人は「間違えた。」と言った。
誰と間違えたんだ!
しつこく問い詰め実家の犬と言われた時は嬉しいような悲しいような微妙な気持ちになった。あの人の側にいれたら幸せだった。だから彼の好きなゲームも勉強した。
そう俺は他人も患者も自分も大事にしないでも腕は確かで寝顔が天使のように可愛いこの人に不覚にも恋をしたんだ。
最初はいきなりなつき始めた年下の男に胡散臭げだったあの人も年月をかけて絆して懐に入れてもらった。酒も一緒に飲んだし、ゲームを朝までした。偏屈だけど医者の腕は確かな彼に恋人が出来ないように牽制も沢山した。一生この人を囲ってやるそう決めていたのに――
「国境なき医師団?」
あの人は晴れ晴れとした顔で来月立つと言った。ここはお前が居るから大丈夫だな。なんて勝手な事を言って――。
どうしようもなくて彼が旅立つ前日に無理やり抱いた。
「……お、前。やっぱり胡散臭いと思ってたんだよ。」
そう言って最後に「泣くほど後悔すんならやんなよな。」と笑うと行ってしまった。
その一年後あの人の後を追うべく医師団への手続きをしていた俺にあの人が死んだと訃報が入った。
絶望の中、3年してあの人の生きた証を探すべくその地へ医師として行った。
人々の一生懸命に生きている姿、苦境の中の笑顔を見てあの人は確かに生きていたんだと思い彼が死んだと聞かされてから初めて泣いた。周りの目も気にせず咽び泣いた。
この地で俺があの人の後を継いだらあの人は生きてると思った。
――それから2年。
「やっと逝ける。……あの人の所へ……」
その日、子供を庇って一人の医師が死んだ。人々は彼の無念を思い涙して悲しみに暮れたが……男の死に顔は幸せそうに微笑んでいたという――
――side アレン
――久しぶりに遠い昔の夢を見た。
転生した時、あの人の居ないゲームの世界だと分かり絶望した。
そんな世界に愛しく心乱される人が出来た。
美しくて、優しくて、強くて、可愛くて、俺を愛してくれたライ。
でも俺は認められなかった。
あの人が居ない世界で違う人間を愛するなどあってはならないと――
そして大切なライを憎み虐げ一度あっけなく失った。
死んだ方がましのような長い絶望と後悔と恨みが続く中、始まりの村でハルに入ったライに出会った。
顔に飛んだ血を手の甲で拭いこちらを真っ直ぐ見据える三白眼にこの少年はあの人の生まれかわりかと思った。
あの人によく似た少年。
あの人がいなかったら俺はライを見つける事が出来ただろうか?
――今、自分の全てである天使の寝顔をじっと見る。するとゆっくりと何も写さない瞳が開き――
――そして、フワリと笑った。顔は全く違うのに同じように愛しく思うのは何故だろう?
俺は確かにあそこに存在して、あの人を強く愛した。
でも、アレンに生まれ変りライを強く深く愛した。
怖いくらいに幸せで、甘美な夢のような日常の合間にふと思う。
俺がここにいるなら、あの人も何処かにいるのか……それなら絶対に幸せでいて欲しい……過去となった今もそう願わずにはいられないほど強く愛した大好きだった人――
10
お気に入りに追加
2,032
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!
甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!!
※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる