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最終章

74 必要とされたくて

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それから気の抜けた俺は案の定高熱を出し、またしても生死の境を彷徨った。

エリクサーがあればすぐによくなっただろうが、生憎全て戦地へ送ってしまった為に一滴も残っていなかったのだ。

魔法も回復薬も効かない俺を毎日抱き締めてアレンは眠る。咳が止まらない時は背中を優しく撫でてくれた。そうされると胸は苦しくてしょうがないのに心は満たされて少しでも眠りにつくことが出来た。
苦しくて目が覚めるといつもアレンが俺を心配そうに見つめていた。宝石のように美しく輝く赤い瞳が不安げに揺らぎ暗い影を落とす様子にこの世にこんな綺麗な物があるのかと思った。

「……綺麗だなぁ。」

愛しいなぁ。

そんな事を思って意識を手放した俺は懐かしい夢をみたような気がする。それから死にかけたらしいが、特性ハウスで育った薬草が何とか間に合い、飲ませられた瞬間に完全復活を遂げた。

「……あれ?アレンは?」

元気になった俺はアレンを探した。いつも添い寝をしていたのに気が付いたらいないのは何でだ?

「王様はこの1週間ハル様に付きっきりでしたので、滞っている仕事を片付ける為に政務に戻られました。」

病に倒れた俺の世話をしてくれているらしい使用人は困った顔で目を反らした。

そうか。夜には来てくれるだろうか?話さないといけない事が沢山あるんだ。

――しかし俺の願いは叶わず、それからアレンに会えなくなった。

あまりに来ないから、また戦争が始まったのではと城へ行ったが、そうではないが王様はお忙しいので会えないとの一点張りだった。門番に本当に申し訳ないと頭を下げられては無理を言う事は出来なかった。

俺は何か避けられてる?って気がしてきた。まさかアレン。エリクサー代を払えなくて俺から逃げてるのか?戦争で国のお金が底をついたのか?まぁ、そこは妥協はしないが話し合いには乗るのに逃げるなんて卑怯じゃないか?

今日も門前払いを受けた俺はイラついていた。向かいから歩いてくる人物にすれ違う寸前で肩がぶつかり「チッ!」と睨み付けるくらい機嫌が悪かった。

「どうもすいません。」

お互いが悪いのに相手に謝られて途端に罪悪感に苛まれる。

「いや、俺の方こそ悪かった。」

そう言って相手を見ると、ニコニコと人の良さそうな顔をした男の手が伸びてくる。俺は眼前にそいつの手が迫るのをなす術もなく見つめる事しか出来なかった。

ニコニコとした細目が薄く開いていくと冷たい瞳が俺を映す。

「いい子だ。眠りな。」

そのまま俺は意識を失った。


――気が付いたら埃臭い古い民家の一室にいた。

「国王が夢中になってるって聞いたから、引き渡す前につまみ食いでもしようと思ってたのに、とんだ期待外れだ。」

男は人の良さそうな笑みを浮かべ俺の髪を掴み上を向かせた。

意識を失う前にかけられた気絶魔法の影響で頭がくらくらする俺は満足に男と視線を合わせる事すら出来ない状態だった。

「こんなんでも、あっちの具合は最高なのか?」

そのまま乱暴に床に押し倒されると男が覆い被さってくる。

「お前みたいなガキに勃つ気がしないが暇だから相手してやるよ。」

勃つ?床に頭をぶつけた痛みで思考がハッキリして男の言う事が理解出来てきた。

拐われた俺は誰かに引き渡される予定で、その前にこいつは暇なので勃つ気はしないが俺を相手にしてやろうと押し倒してきたと?

これはあれなのか?

貞操の、危機?

ってやつなのか?まさかこの俺を相手にしようとは。

「おい、目を覚ませ。自分で言いたくはないが俺だぞ?よく相手にしようなんて思うな?暇ならしりとりでもするか?」

もうさっきから嫌悪感が半端ないからやめて欲しい。男に体をまさぐられ気持ち悪くて吐きそうだった。

「……萎えるから喋んな。……まぁ、穴さえあれば大丈夫だろう。」

……まじかぁ。

俺は犯られるのは嫌なので反撃をする事にした。俺をまさぐる事に夢中な男の目を盗み靴の底に隠していたある物を取り出すとそっと俺の体に顔を埋める男の首にそれをあてボタンを押した。

バチバチバチ!

「!?――」

力が抜け俺に倒れこんできた男の下から抜け出し、念の為にもう一度首すじにおみまいする。

男の体がビクンビクンと跳ねた。

貴重なエリクサーを大量生産した俺はこの事が世にしれわたるのが時間の問題と考え護身用にスタンガンを作成した。使用したのは初めてだったが男はショックで身動きがとれないようだ。

「だーれの穴に突っ込むって?」

俺は男の前にスタンガンをかざしバチバチと機動させた。

「面白い事を言うから特別にこれをお前に突っ込んでやる。」

ニコリと笑い男のズボンに手をかけ引摺り下ろした。

「ひっ!!」

男が悲鳴をあげた。なんだ、まだ声が出せるのか?魔法を唱えられたら厄介だしもう一度おみまいするか。


「――やめておけ。」

男の下半身にスタンガンをあてようとした手を大きな手が包み込んできて制止される。

「お前は……また、無茶を。」

俺を後ろから抱き締めるとアレンは俺の肩に顎を乗せ安心したように「はぁ」息を吐き出した。俺はアレンの温もりにホッとしたのか強ばっていた体の力が抜けた。

「こいつ俺を犯そうとしたんだぞ?笑っちゃうよな。………ところでさ、アレン?お金ないのか?俺を避けまくちゃって全然会えねぇし、エリクサー代ちょっとはまけるから……から……だから俺から逃げないで?」

そう言って俺は唇を噛んだ。

アレンが居ないと認識したらダメだった。寂しくてダメだった。

「金ならある。……お前は小さいな。」

抱き締められ「ぞわぞわ」して愛しいが溢れてくる。そしてある事に気づきアレンに顔を見て伝えたくて拘束を緩めてもらうと反転してアレンを見上げた。

「こいつに襲われた時は気持ち悪くてぶちギレそうだったのに、アレンだと全然気持ち悪くないんだ……」「ああ、それで?」

アレンは屈み込み俺の腰を抱いて期待を込めたような蕩けそうな笑顔で俺を見ている。

「それで……えと、何か近くない?」

あまりの破壊力に目を反らしてしまう。

「顔が真っ赤だ。……クソ可愛いな。……で?」

かわ!?

「いや、だから!俺、アレンの事、大好きなんだなぁって……何か俺、恥ずかしい事言ってる?」

我に返ると更に頭に血が上り頬が熱を持つのが分かって両手で顔を隠す。

「いや、問題ない。俺の事が大好きなんだろう?何か問題あるか?」

問題は……ないのか?

「でも、家族でもないのに大好きとか、引かねぇか?」

指の隙間からアレンを見る。

俺は家族であるアレンの事が大好きなのは当たり前だけど、アレンは自分が囲っていたユノの友人にすぎない俺に大好きとか言われて気持ち悪くないのだろうか。

「問題ない。……俺も、だから問題ない。」

俺も?


大好き?って事?

ズキン……。

「……そうか。」

そうかアレンは好きなのか。心が痛むのはアレンが好きなのはハルであって俺ではないと言う事。今更俺がラインハルトだとしゃしゃり出る必要はあるんだろうか?

「うう……」

その時、足元で男が呻き声をあげた。

「もしかしたら突っ込まれている最中にアレンが来たかもしれないんだよな。」

ゾッとする「もしも」に体がまた強張る。

「生きたまま刻むか……。」

アレンの右手に禍禍しい丸い塊が集まっていく。

あっ、これあかんやつや、俺は分かる。

「――情報を聞き出してからにしましせんか?」

アレンの後ろからやんわりと制止の声がして俺はアレンが沢山の人間を連れてきていた事に気付いた。さっきアレンを制止したのは芝生頭だ。

「しば……騎士団長も助けに来てくれたのか?」

アレンよ騎士団連れてくるとは大袈裟だぞ。

「ハル様はこの国の恩人です。国王様はその頭脳が狙われる事を想定されて警護をつけておられましたがハル様のご負担にならないようにと離れて警護していたばかりに咄嗟の事で間に合わず……危険な目に合わせてしまい申し訳ありません。」

おお!芝生頭が敬語になっとる。エリクサーの力はこんな所にまで及ぶのか。

「ちょっと気持ち悪かっただけだから大丈夫だ。俺、今度は拐われないようにもっといいの作るわ。」

気にするな自衛は万全だとニコッと笑った。

「あっ、いや、私達がお護りしますので……。」

……俺、拳銃作れそうな気がするんだよな。あれ護身用にあったらいいよなぁ。て事は爆弾も作れるのか?爆弾あったらアレン助かるかな?

そんで俺の事必要って思ってくれるかな……。
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