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最終章

62 おかしい距離感

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考えに考え抜いて俺は村人にエリクサーの元の薬草の栽培方法を教え、村人全員での栽培を依頼した。

金の力は恐ろしい。

最初はこれから莫大な金を手に入れるであろう村人の心の変化を予想すると頭が痛んだ。

今は生きていくだけで精一杯の村人が金を手にした途端に人々を見下しこき使うようになり、悲劇を生むかもしれない。だからと言って対価を支払わない訳にもいかない。

考えに考え抜いて出した答えは、

『独占させない。』

独占させるとその秘密を暴こうと悲劇を生むし、特権意識が生まれる。今は独占しているその技術を俺は少しずつ広めて行くことにした。

まだその価値を知らない村人に栽培方法の箝口令をしかなかったのだ。

少しずつ豊かになっていくあの村に教えを乞いに来るよその村人。まだ人のいいあの村人達は簡単にあの薬草の栽培方法を教えるだろう。読み書きは出来ないから口頭で。そうしてある者は完璧にマスターしある者は曖昧に聞いていく。そこに質の違いが生まれる。

勿論完璧に栽培出来、対価が高いのは俺の薬草だ。次にあの村人達。そして次々と……。

エリクサーの元の薬草の栽培方法はどんどん広まっていく。そうしてあの村は決しておごらず程よく豊かになっていく。

俺はそんな未来を描いて栽培方法を村長に託したのだった。

「――随分育った。」

いつものように俺を抱き枕にしたアレンがぼそりと言ったから薬草の事かと驚いた。これはまだ俺の頭の中での秘密のはすだ。誰にも言ってないのに。

「体は薄いままだが、手足がひょろりと長くなった。」

……ああ俺の体の事ね。

エリクサーを栄養ドリンク並みに飲んでるからすこぶる調子がいいもんなぁ。どんどん成長してるらしい。激務のアレンにも栄養剤だと言って飲ませてるから目茶苦茶男前に磨きがかかって若々しい。20代中頃にしか見えねぇ。俺のエリクサーには細胞を若返らせる効能もあるみたいだな。

「髪も艶々していてさわり心地がいいな。」

なでなでされて心地よくなってくる自分に叱咤する。精神年齢は俺の方が上なのに甘やかされているようで恥ずかしくなったのだ。

「アレンこそちょっと眩しくて見ていられないほど男前になってるぞ?再婚しないのか?引く手あまただろう?」

好きな女でも見つけて幸せになって欲しい。そして俺を忘れてユノを開放してくれたらいいのにな。

「眩しい……か。」

「そうだ。俺でさえドキドキしてキュンキュンする時があるもんな。もはやその顔面は凶器だ。」

「ドキドキ、キュンキュン……」

……暫くの沈黙の後、かばっと布団を剥ぐとアレンがベッドから出て行った。

「そろそろ、あいつも15才だったな。あいつの所へ行く。」

俺はタライが頭に落ちたような衝撃を受けた。今の話の何処にそうなる要素があった!?

「駄目だ!ユノに手を出すな!」

思わず叫ぶ。

アレンは俺が抱き枕の仕事に就いてからユノの元へ行っていなかった。だから俺は少し安心していたんだ。

アレンはもうユノに手を出さないんじゃないかって。

アレンの心は癒されてなんかなかったのに。

「ではお前が俺の相手をするか?」

アレンが冷たい瞳で俺を見る。

「相手って……」

赤い瞳が俺の体を上から下へと見ていく。

ボボボ!

「!?なんでそこで赤くなるっ!」

ボボボ!

「っ!アレンこそ真っ赤じゃないか!!」

真っ赤になって見つめ合う二人。

「……もういい!」

バタンっと大きな音をたててアレンは出て行ってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ユノごめん。俺はしくじった。」

俺は次の日ユノの家へ帰ると開口一番に謝った。俺は夜だけアレンの寝所へ行き、朝になるとユノの家へ帰る生活をしている。

「何が?」

抱き枕の仕事が出来なかった事を告げる。

「でも、アレン来なかったよ?」

良かった、俺は心底ホッとした。

「そんな気にしなくていいのに。俺、アレンの事好きなんだからさ。」

ユノのわざとおどけた様子に俺が傷つく。

「ユノに手出しなんてさせない。お前は村へ必ず帰すからな。」

醜男のユノを傷物に出来るか。

「……うん。でも、でもさアレンは昔から必要以上俺に触れなかったんだ。俺が逃げる時は魔法で拘束されたし、俺の顔をただ見てるだけ。『15才になったら抱く』って言ったのも俺がこんな関係に嫌気がさして『手も出せない臆病者』って詰ったら『15才になったら犯す』って。売り言葉に買い言葉だったんじゃないかな?アレンは俺がラインハルトじゃないって分かってる気がする。」

ユノが切なそうに俺を見た。

「……そうか。」

でも、分かってるなら何故ユノを解放しないんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



息をするようにナイフとフォークを自在に操り食事をとる。

俺の食べる量に合わせた体に無理のない料理の数々が俺の胃袋に入っていく。

「美しいな。」

「へっ?」

考え事をしていた為何を言われたかよく分からなかった。無意識にフルコース食べてたわ。

「どこでマナーを覚えた?」

「えっ、あっ、本。こんなおっきな本。」

慌ててナイフとフォークを持ったまま手を上から下に丸く広げる。

イカンイカン、自然に昔とった杵柄で優雅に食事していたらしい。大体どうして俺はアレンと夕食を食べているのか、どう考えてもおかしいだろう。

「昨日の事、まだ怒っているか?」

食事をこれまた優雅に口へ運びながらアレンが何て事ないように訪ねてくる。でもなぁ、……手が震えてる。

「いや、俺が悪かったんだ。」

俺の方が大人だここは折れよう。

「別に怒っていないならいい。」

アレンの表情がぱぁっと明るく変わる。

……可愛い。俺のアレンが可愛すぎる。

民を自分の物だと言い大事にする男アレン。いち民の俺が怒ってるかも~ってご機嫌とるなんてぐう可愛だ。

「――どうだ?キュンキュンするか?」

ガッシャーン!!!!!

珍しい、給仕人が物を落としたようだ。

「えっ?何で?別にしねぇけど?」

「……そうか。」

がくりと肩を落としたアレンが無言で食事を口にしていく。相変わらずよく食べる。ラインハルトと違いどんなに食べても太らなかったアレンは今でもよく食べてるようで安心した。

「あっそれ……」

少食の俺の食事には入っていない骨付き肉!俺の大好物だったやつだ。フィンガーボールがついてるためアレンは手で食べている。

「食べるか?」

口許へ大好きな料理を出され無意識にパクリと食べてしまった。つい癖でペロッとアレンの指も舐める。あれ?これダメだったんだっけ?

でもやっぱこれ――

「――大好き。」

思わずニマニマと笑ってしまう。

グワッシャーン!!!!!!!!

何か今日は給仕人がよく物を落とすなぁ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



給仕人達は思った。お前ら付き合っちゃえよ!と。
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