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最終章

60 俺の前で死なないで

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庭師には悪い事をしたとは思ってはいる。

何故なら庭園の花を根こそぎ取り払い、ある種を植えたからだ。

その種は比較的簡単に手に入るが、成長のある段階で別の凡庸な雑草と成り果てる為、人々はそれがエリクサーの元となる薬草の種とは知らない者が多い。知っていてもどうしたら薬草に育てられるのか皆目検討がつかない。

15年前に起きたモンスタースタンピードでその薬草が僅かなりとも順調に育っていた森が消滅し、エリクサーが作れなくなったらしい。あの時、モンスター達はそこらじゅうの森や大地を破壊しつくし、元凶のロン毛金髪男が死んだ後に消滅した。被害は甚大なものだったらしい。ただ、人命は最初の貴族の領土で失われただけで奇跡的に済んだ。それは謎の結界がいたる所で発動した為であり、その事は『聖なる光の奇跡』として語り継がれちゃってるんだよぉ。それ俺、俺の結界のお陰。結界覚えててよかったなぁ。ニマニマ。

俺はその森の気候や特長を調べあげ、昔読み尽くした城の蔵書の内容と照らし併せてその薬草を栽培することにした。

まぁ、すぐには育たなかった。

でも俺天才だし?1ヶ月もしたら青々とエリクサーの元の薬草が育っちゃったけどな?

「えっ?本当にエリクサー作ったのか?」

ユノが気色悪く驚いている。

「お前が作れって言ったんだろう?これで毎日飲めるから虚弱体質ともおさらばだ。」

そして毎日エリクサーを飲んだ俺はぐんぐん元気になり、エリクサーを飲まなくても生活出きるようになった。しかし問題がある。それを知らないアレンからまだエリクサーが届くのだ。

悪いけど、アレンから送られてくるエリクサーより新鮮で何倍も効き目があるエリクサー飲んでるからいらない。

俺はあれ以来会っていないアレンに直接会いに行くことにした。今まで送られてきたエリクサーも倍にして返したいと思う。

何よりアレンに会いたかった。

また顔色が悪いんじゃないか?よく寝れてるのか?俺は心配で仕方がなかったんだ。

俺は自家製の特性エリクサーを袋に入れて城へ向かった。


――そして俺は今、ポツンと一人来賓室にいる。

いやいや、ここの警備大丈夫か?門番は俺を見た途端笑顔になって門を開けたし、使用人たちもニコニコしながらどんどん俺を奥へと案内しここへ通した。俺が極悪非道の暗殺者だったらどうするんだ?アレンの身が心配になってきた。

「はぁ……。」

特性エリクサーで元気になったとはいえ虚弱体質は治らなかったようで、俺はここへ来るまでに結構疲れてしまった。くそぅサプリメントのように毎日エリクサー飲んだら虚弱体質治るかな?

フワフワのソファにぐったりと横になっていると目の前にアレンが現れた。

「……何だ。生きていたのか。」

息を切らして、手にはエリクサーの入った綺麗な瓶を持っている。

「半分しか入っていないが、これでも飲んでその見苦しい顔色をよくしろ。」

うん、知ってたよ。エリクサーが底をついたんだよな。明らかに質の悪くなっていくエリクサーにそうなんじゃないかと思っていた。

「エリクサーはもう、いらない。」

俺はアレンを見上げた。俺の為に国中のエリクサーをかき集めてくれたんだよな?もういいんだよ。俺は魔力はなくても天才だからエリクサー作れるようになったからさ。

アレンは俺と少し目を合わせた後、堪えきれないように横を向き舌打ちをした。

「もう、エリクサーはこれだけしかない。飲まないと、お前は死ぬだろう?……死ぬのなら俺がいないところで死んでくれ。」

よく見るとアレンのエリクサーを持つ手が震えている。

「嫌だ。俺、アレンの側に居るって決めたから。」

俺は立ちあがりアレンの震える手を両手で包み込む。

「夜は、眠れてるのか?抱き枕が必要じゃないか?」

アレンはこちらを見ると俺の目線の位置が変わった事に気付いたようだ。

「……背が。」

「うん、アレンから貰ったエリクサーのお陰で元気になって成長期が訪れたんだ。すぐにアレンを追い抜くからな。」

「元気には見えないが………」

俺は持ってきたエリクサーをリポBのように飲み干し、ニカっと笑う。

「ちょっと歩いて疲れたけどこれを飲んだから大丈夫。アレンも。」

はい、一発どうぞと特性エリクサーをアレンの眼前に差し出す。

「これは……?」

いいから飲んでと無理矢理飲ませるとアレンの顔色がみるみるうちによくなっていく。うん!男前!流石俺のアレン。

「……お前は死なないのか。」

「え、俺の方が若いからアレンが先に死ぬと思――」

言い終わらないうちに抱き締められた。

俺はもう2度とこの愛しくも悲しい男を見捨てる事はしないと背中に腕を回し心に誓った。
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