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最終章

59 帰りたい

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あれから1週間に1回エリクサーが俺の元へ届けられるようになった。エリクサーを飲むと体の不調が良くなるが1週間もするとまた体が動かなくなってくる。少年の体は弱っていた上この間の風邪で致命傷を受けたようでエリクサーで生き永らえているらしい。

エリクサー。

今では年々その本数は減っていき幻の秘薬と呼ばれ滅多に手に入らない。あまりに貴重な為、国が管理している。

それが週に1回俺の元へ届けられてくる。

卑下してる訳ではないが、俺が飲んでいい薬ではないのは誰でも分かる。

おずおずと美しい装飾が施された瓶を手に取り口をつける。

これがないと生きられないとは分かっているが飲む事を躊躇し口から離した。

「――ハル、飲まないと駄目だ。」

側に居たユノが俺を諌める。

「これ、苦いんだ。」

俺は舌を出して嫌そうな顔をする。戸惑う気持ちを悟られたくなかった。

「なぁ、ハルの体をラインハルトが乗っ取ってんだろう?お前が飲まなきゃハルが死んじゃうじゃないか。それにハルはさ、医者になるくらい頭がいいんだからエリクサーを簡単に作る方法を考えたらいいんだ。将来エリクサーを沢山作るハルは生き残らなきゃ駄目なんだって!」

ユノは俺がハルの体を乗っとた事を知っても俺をハルと呼ぶ。ハルが納得してるなら、それでいいと言って。俺の気持ちなんてお見通しのユノが俺を励まそうと顔を真っ赤にして熱弁してくる。

「ふふ……確かにそうだな。」

昔はポーションにを垂らしてたくさん作ったな。

……ボボボ。

「ハル?顔が真っ赤だぞ。」

「俺は今、恥ずかしさで死ねる。」

何で俺はあんな事出来たんだ?

「ハル?……何かハルって可愛いいよな。」

ベットで悶えている俺を見てユノが俺をからかう。

「可愛いゆーな!」

そりゃお前よりは可愛いけどよ

ユノが首をコテンと傾げるとサラサラの金髪が揺れた。男の癖にサラサラって気持ち悪い。可愛そうに。

「顔色が悪いな。早くそれ飲んで元気になっちゃえよ。」

そう促され俺は少年の体を守る為だと自分に言い聞かせ、エリクサーを一気に飲み干した。

「少しは顔色が良くなった?」

ユノが今度は反対側に首をコテンしながら訝しげに俺を見る。

「エリクサー飲んでも変わらんのかい!」

「だってハルって元々顔色悪いしな。」

ユノがあははっと笑う。

ユノが笑うとホッとする。ユノがアレンを刺した時、ユノは殺されたと思った。

「ユノ、あの時お前は何でアレンを刺したんだ?」

俺の言葉を受けてユノの顔が暗くなる。

「……だって、ハルが襲われて死んじゃうと思ったんだ。」

「うん。お前はを助ける為にアレンを刺したよな?アレンを好きなのに?好きなアレンが死んでもよかったのか?」

俺は少しずつでもいいからユノのアレンへの好きという思いは刷り込みの様なものだと気付いて貰おうと話をすることにした。

「アレンが死ぬのは嫌だ!」

「うん。なのに何故刺したんだ?」

「……分からない。でも、ハルが殺されちゃうって思ったら体が動いて……今じゃハルはラインハルトが体を乗っ取ったから天才で医者で凄いやつで魔力がなくったって何でも出来るヒーローみたいになっちゃったけど、本来のハルは大人しくて、控えめで穏やかで優しくて、そんなハルはよく苛められてて俺、いつもハルを守ってたんだ。だから昔のように守らなきゃって……。」

そうだお前はいつもこの少年に優しかった。守ってくれていた。だから俺が少年の体を乗っ取ったって聞いても変わらずに俺を助けてくれようとしたんだな。何がヒーローなもんか、俺は自分の罪をお前に被せてお前をこんな地獄に落としてしまった。……けどな必ず救いだしてみせる。

「――ユノ、お前を助けに来たよ。遅くなって悪かったな。」

ユノが堪えきれないように顔をくしゃりと歪めて泣き出した。

「ハルが来てくれるって……信じてた。だから、生きてこられたんだ。」

ユノを引き寄せ抱き締める。

「俺もお前を救わなきゃって思って生きてこれた。……ユノ、村へ帰ろう?あんな枯れた大地でも一生懸命咲いていた花を覚えてるか?……あの黄色い花は何て名前だったんだろうなぁ。」

枯れた大地にたくさん咲いていた可愛い花を、よくユノは診療所に飾ってくれていた。少しでも患者の気が紛れるようにと。

「当たり前にそこにあって咲いてたから名前なんて気にした事なかった。……ハル、俺たちは遠くへ来たんだな。帰りたいな、帰れるかなぁ。」

「帰れるさ。俺が必ずユノを村へ帰してやる。」

俺は精一杯の力でユノを抱き締めた。
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