上 下
56 / 118
最終章

56 少年は空気を読まない

しおりを挟む
アレンは苦しむ俺を面白そうに眺めながらあろうことかそのままベットへ入ってきた。俺はここ限定なのか?部屋は沢山あるだろ?いやむしろユノの所へ帰してくれ。

言いたい事は沢山あったが顔色の悪いアレンを見ると何も言えなかった。面白がる顔とは裏腹にアレンは優しく俺を包み込み痛む膝を撫でた。すると不思議と痛みが和らいだ気がする。しかし暫くすると撫でる手は動きを止め腰に回ってきてしまった。

「止めるな。もっと擦っててくれ。気持ちがいいんだ。」

手当てとは良く言ったもんだな。俺はアレンの手を俺の膝に導く。

「……お前、俺が誰だか知らないのか?」

「っはあ?んなの関係ないだろう!お前、俺にしたこと忘れた訳じゃないよな?」

俺は50代にしてお漏らしをさせられたんだぞ!膝を擦るくらいしやがれ!

「……。」

アレンは大人しく俺の膝を擦り始めた。

「……細いな。」

「誰かさんのせいでな。あんまり強く抱くと骨折れるからな。」

途端に拘束が緩む。

アレンの素直な反応に笑いを堪え肩が震えた。

「……泣くな。」

「泣いてねぇ。」

笑いを堪えてんだけど。

「俺は謝罪が出来ない立場にある。……許せ。」

その日アレンは俺が眠りにつくまで膝を擦った。

「……イケメン滅びろ。」

次の日、目の前の美しい寝顔を見ながら俺は呟いた。例のごとくガッチリホールドされているので身動きがとれない。頼むから抱き枕でも買ってくれ。

途方に暮れていると控えめに扉をノックする音がした。失礼しますと入ってきた男がこの状況を見て固まる。

「……本当に寝ておられるのか。」

うん。がっつり寝てるね。

「しかし今から大事な会議が……そこのお前、お起こししろ!」

えっ?何びびってんの?大体起こせるもんなら起こしてるっつーの!

「叩いても、つねっても起きないんですよー。」

「つっつね⁉何て事を‼」

どんどん青褪める男。髭ちょびん。

「だって、おしっこ行きたくなったらどーすんの!?」

この前の二の舞はごめんだ!!だから尿意はないがそうなる前に起こそうとさっきから努力してる。

「お、おし!?何と下品な。何故このような下賎の者をお側に……」

俺だって知りたい。

「おい、離れぬか!」

髭ちょびんが近付いてきた。実力行使か?頼むぞ!

「グハァッ!!」

近付いて来た髭ちょびんが俺の頭に触れそうになった瞬間、遠くの壁に叩きつけられた。

「なぁ、誰かに話しかけてよいと言ったか?」

青白い怒りの炎を纏いながらアレンはゆっくりと身を起こした。

「誰かに触れていいと言ったか?」

「もっ申し訳ありません。」

髭ちょびんは何とか起き上がり膝を折る。小刻みに震えているのが分かる。

俺はアレンの袖を引っ張り見上げた。

殺すのか?お前、起こされたからって起こした人間を殺す様な暴君になっちまったのか?

「……会議があったな。直ぐに行く。」

張りつめた空気がなくり、アレンは静かに微笑むと安心しろとばかりに俺の頭を撫でた。

「お前、話を聞かないで人をぶっ飛ばすクセ、改めねぇといつか死人が出るぞ?」

ピシッとアレンの笑顔が固まる。

「……まぁいい。実はな、俺はこの国の王だ。」

どうだ?驚いただろう?という顔をしながら諭すように俺を撫で続けるアレン。

「いや、知ってるし。」

またまたピシッとアレンの笑顔が固まる。

「……知っていてその態度。余程の阿呆か。」

哀れむように言われて脳天がカチ割られる程の衝撃を受ける。

ガブリ!!

「っ!?」

アレンの腕に噛みついてやった。アレンの赤い瞳が驚愕で見開く。

「誰が阿呆だぁ?俺は神童と呼ばれた男だ。世界一頭がいい!!……っ!?…モゴモゴ……」

俺は言いきって口を押さえる。

「……歯が、抜けたぁ。」

アレンの野郎。どんだけ鋼の肉体なんだよ!!

永久歯が抜けた俺にはもう、絶望しかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!

ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。 弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。 後にBLに発展します。

処理中です...