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最終章

55 忘れられた少年

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アレンにぎゅうぎゅうに羽交い締めにされている。いつまでこうしていれば解放されるのか。もう丸1日はたっている。国王が1日部屋から出てこないのに誰も起こしに来ないとは。

――俺には限界がきていた。



そう、尿意だ。



のっぴきならなくなり辛うじて動かせる手を使い、つねったり叩いたりしているがアレンが起きる気配はない。

もう限界だった。

そして暖かく湿って解放されていく下半身。

俺は絶望した。

この年になってお漏らしをするとは……こんな辱しめを受ける程の悪いことを俺はしたのか!

俺は全てを呪った。

俺の絶望をつゆとも知らずにアレンはスヤスヤと眠っている。ジワジワと胸が暖かくなりながら子供のようにあどけない姿に悪魔とはこんな風にして人をタブらかすのかと思う。

「……いつまで寝てるんだ。この野郎。」

散々叫んだので掠れた声しか出ねぇ。

するとふるふると長い睫毛を揺らしながら赤い瞳が姿を現した。

「……顔色が大分いいな。」

俺は恨みも忘れ思わず呟くと、アレンの頬に触れた。昨日5年ぶりに会ったアレンは更に顔色が悪くなっていたが随分寝ていたせいか今は良くなっている。

「んっ。」

アレンは短く返事をすると瞳を閉じて自分の頬にある俺の手を握り手の平にキスを落とした。

「お前、匂うな。」

そしてゆっくりと瞼を開き、思案する顔をした後こちらを見てアレンが言った。赤い瞳が俺を射ぬく。

……固まる俺。体は15才。心の年は50代。50代の男がお漏らしを……。

そうして、アレンは俺の尊厳を踏みにじった憎むべき相手になった。

「俺はお前を絶対に許さない!!」

俺はアレンを睨み付けた。こんなに人を憎んだことはない。

「……ああ、漏らしたのか。」

アレンがハチミツのように甘い笑顔を見せる。

絶対にバカにしている。

「だ、だまれ!」

俺は真っ赤になりながら拳をアレンの胸に叩き付けた。

ポキッ……手首が折れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺は燃え尽きていた。

人間の尊厳とは……お漏らしした下半身を使用人に丁寧に洗われ綺麗になったベットに腰をおろして俺は身も心も真っ白になっていた。

そう、肌はヒリヒリする程の力で擦られ5年分の垢を落とされていたのだ。やっぱりプロはすげぇ。

折れた手首は誰か魔術師が来て治してくれた。
ついでに体の不調も良くなっている。

憎きアレンは折れた手首を抱えてうずくまる俺を置いて何処かへ行ってしまった。腐っても国王、仕事だろう。

暫くして温かいスープが運ばれてきた。有り難いこれなら飲めそうだ。それでもゆっくり咀嚼して胃に負担をかけないようにする。体の不調がよくなったとはいえ俺の胃袋は沢山の量は食べられない。

俺は満たされた体がポカポカと暖かくなり瞼が重くなって自然と眠りについた。

そんな生活が1週間程続いたある日、俺は両膝の激痛に襲われた。

「ぐぁっ。」

布団を被り呻いている俺をどうすることも出来ず使用人達は右往左往している。魔術師がヒールをかけてくれたが一向に治らない。

地獄のような時間を過ごしていると布団がめくられ額に大きな手が置かれた。

激痛に歪めた顔を向けるとアレンが無表情でこちらを見ていた。……そして何かに気付いたように口を開く。

「……お前、少し大きくなったか?」

1週間ぶりに合うアレンはまた顔色が悪くなっていた。機嫌もすこぶる悪そうだ。そして更に俺に追い討ちをかける。

「……成長痛はヒールでは治らない。」

そう言いながらフフっとアレンが笑った。

「~~~!!」

ああ、分かってたさ!適切な栄養を与えられた俺はこの1週間で急激に背が伸びた。急激な成長には痛みが伴う!ニヤニヤと笑うアレンを恨めしげに睨みながら俺は布団を被りなおした。


――国王が笑った。


その姿を目にした使用人達が驚愕に目を見張っていた事なんて俺は知らなかった。
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