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第3章

42 悪役元王子モシャと出会う

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目の前で苦戦しながらも魔物を倒していく芝生頭を見ながら10階層くらいまでなら行けるかもと思う。さすが剣術でアレンを凌ぐと言われている芝生頭だ。この国で最も難攻不落と言われているこのダンジョンでこの動きは大したものだ。俺もエンの協力の元99階層迄行ったが、最後の100階層のボスはエンが手加減できなくて殺してしまうから俺のレベルあげに貢献出来ないという理由で行かなかった。まぁ、今の俺なら簡単に踏破出きるから大事な生徒を連れてきたんだけどな。

「――その先はお前にはまだ早い。」

いつの間にか芝生頭が11階層の階段を見つけて進もうとしていた。

「大丈夫です。まだ行けます!」

熱血ぅ~。

「あっそう。」

取り合えず後ろをついていく。

「くっ!今までとレベルが違いすぎる!」

案の定やられかけている芝生頭を庇って魔物をぶん殴る。連れて来た以上生徒を死なせる訳にはいかない。そして死ぬ間際まで痛め付けると芝生頭の前に引きずって来た。

「はい、とどめさして。」

「……どうしてですか?」

「えっ?レベルあがるだろ。」

首を傾げてしまう。お前こんな危険な所に何しにきたんだよ。

「!?そんな卑怯な事してレベルをあげる事は出来ません‼」

えー⁉卑怯なの?俺、今まで卑怯な事してレベルあげてたの?エンもアレンも何も言わなかったよ?

「……じゃあ、どうすんの。これ。」

途方にくれて魔物を指差す。

「これって……先生がとどめをさせばいいじゃないですか!俺は知りませんよ!」

カッチーン!俺はカチンときたね。昔よくいわれていたあれだ。

「生き物は殺したら最後まで食べるのが常識だろうが!……じゃなくて。こいつはお前のレベルをあげるために瀕死になってるんだぞ!ここで俺が倒したって意味ない死になるじゃないか!何の為にこいつは生きて来たんだよ!最後まで責任持てよ!」

「はっ、はい!すいませんでした‼」

ズッシャッ! 

魔物は芝生頭によってとどめをさされた。それから芝生頭は吹っ切れたように俺方式でどんどんレベルをあげた。良かった~。俺、間違ってなかった。

ぐぅ~。

「腹減った。帰ろうぜ。」

丁度魔物を倒したばかりの芝生頭にぎゅうっとしがみつく。俺、嫌われものだから置いていかれたら洒落にならないからな。

「はっ、はいっ。」

俺を強く抱き締め返した芝生頭はテレポートを唱えた。

行きは顔を背けて嫌がったくせに。



「――今日はありがとうございました。1日でこんなにレベルがあがるなんて先生のお陰です。」

芝生頭がビシっと頭を下げた。最初は「お前」とか言ってたくせに現金なもんだな。

「それはいいが、死にたくなかったら絶対に1人で行くなよ。あそこは過去Sランクのパーティでも20階層まで到達していない死地のダンジョンだからな。暇な時は俺が付き合ってやるから。」

1度行ったからこいつも行けるようになってしまった。1人で行くなら卒業してから行ってくれ。俺、責任持ちたくないの。

「きゅぅ~ん。」

その時、獣の鳴き声がした。

「ん?子犬か……。どうしてこんな所に?……先生?どうして俺の後ろに隠れるんですか?」

俺は芝生頭の背に隠れて獣の様子を伺った。

獣はフリフリと尾を振りつぶらな瞳でこちらを見ている。

「よしよし。先生、まさか犬が怖いんですか?まだまだ子犬ですよ?」

持っていた干し肉をやりながら背に張り付いている俺を見て芝生頭が問いかけてくる。

「バカ野郎、逆だ逆。可愛すぎて好きすぎて触りたくない。お前、餌をやったら最後まで責任もてよ?もし、見捨てたらお前を殺す。」

俺が芝生頭の背後から殺気をちょこっと出すと子犬は怯えて茂みに逃げ帰ってしまった。

「あっ、今度見かけたら責任持って飼いますね。」

「絶対だぞ?あんな小さい獣。こんな猛獣の檻の中で一匹で生き残れるとは思えない。今日の夜は怯えて鳴くかもしれないぞ。可哀相過ぎる。」

俺がしょんぼりしていると芝生頭が俺の背をポンポンしてくれた。

「絶対保護しますから安心してください。」

「……保護したら俺にも触らせろよ?」

俺が頼むと芝生頭は嬉しそうに笑って頷いた。




――それから暇を見つけてはダンジョンへ芝生頭を連れて行った。そしてダンジョンから帰って来るとあの獣がいつも待っていて干し肉をやるのが日課になった。実はこの獣、親がいるらしく安全な自分の寝床がある事が分かり、残念ながら保護するのは諦めた。俺がモフモフに顔を埋めて癒されていると芝生頭はポツリポツリと少しずつ話してくるようになった。どうやら好きな奴を守る為に強くなりたいらしい。目茶苦茶強いライバルがいるらしいが、芝生頭より強いといったら……あいつしかいないよな。あいつ腐ってもチートな勇者だしなぁ。……ってまさか!?

「お前の好きな奴って……」

「小さくて華奢で、俺が守ってやらないと容易く手折られてしまいそうな子なんです。」

いやいやいやいや!あいつ踏みつけられても手折られるどころか、アスファルトの亀裂の間からも生えてくるような花粉症の原因にもなるブタクサのような奴じゃないか?恋とはかくも恐ろしいものなのか、俺は恋なんてしないぞと心に誓う。

「先生は『最後の疫災』のダンジョンの100階層でも笑って生きていけそうですね。」

悪戯っ子の顔で芝生頭が笑っている。

「ちょっ!おまっ!さすがに100階層はないわ~。せめて99階層だろ~。」

「……99階層ありなんだ。Sランクのパーティでも20階層までしか……」

芝生頭が真顔になったが俺は気付かずに提案をする。

「何?行っちゃう?久しぶりに行っちゃうかぁ?あいつら元気かな~?倒したらうじゃうじゃ中から爆発する奴が出てきて「申し訳ありませんでしたぁ!!」」

あっ、行かないの?面白いのにな。

「きゅぅ~ん。」

なぁ、獣、お前もそう思うよな?俺は獣のつぶらな瞳を見つめるとワシャワシャした。獣はヤーメーテー、と腹を出し降参のポーズをとると更に俺にワシャワシャを要求してきたから「嫌も嫌よも好きなうちってかぁ?この欲しがりめ!」と言いながらワシャワシャしてやった。

はぁー、癒される。
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