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第3章

38 いい顔をしたい悪役王子

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ふと手元を見てため息をつく丑三つ時。
……終わらねぇ。カッコよく山積みの書類を半分くらい持って帰って来たはいいが面白いくらいに進まない。……寝てぇ。柔らかな布団が俺を誘ってきてふらふら~っと吸い付きそうになるが、会計の顔が浮かび頭を振る。もし、全然出来てなかったらカッコつけた自分が恥ずかしい。これは男の沽券に関わる問題だ。あいつをガッカリさせたくねぇ。

そうして俺は1週間ほとんど寝ないで生徒会の仕事を手伝った。会計は目茶苦茶俺を頼りにしてくるし、後には引けなかったよね。

「――イヤミ、ほらよ。」

ポンっとイヤミの机に書類を置く。

「イヤミ?私の名前は…「ガタガタ言わないで黙って受け取れ。」………はい。」

プライドの高い俺は間違いを指摘されるのが嫌だから3回は見直した。文句のつけようはないはずだ。文句言いやがったらこいつ消していいよな?俺の殺気を察したのかイヤミは何も言わずに受け取った。これで暫くの間は急ぎの仕事はないはずだ。寝れる、今日は寝れる。俺は毎日ヒールで気力体力を戻しているとはいえ本物の睡眠には敵わない事を身をもって知った。

「先生ぇ。ありがとね~。もう俺一人でも大丈夫だよ~。マジで感謝してる。」

会計が手を合わせて俺を拝む。その頭を書類でポンっと叩く。

「その書類寄越せ。急ぎじゃないとはいえ、お前一人じゃさばけねぇだろうが。」

山積みではなくなったとはいえ、まだまだある書類を会計から奪い取る。

「やだ、先生ぇったら男前なんだからぁ。」

書類を奪い取る瞬間腕を引かれそのまま会計に抱き締められる。

「先生、しよっか?」

「?はっ?何を……」

バターン!!!!!!!

物凄い音がして扉が開く。

「あー!? ルカお前、何してたんだよ!? この俺がずーっと会いたかったんだぞ!!」

「やっやぁ。ティフォン。」

会計の腕の拘束が強くなる。扉を背にしている為姿は見えないがモジャ男が来たと分かった。

「「仕事もしないで生徒会室で逢引きなんて最低~!!」」(双子の補佐)

きゃあきゃあと同じ声が喚く。

「汚らわしい。ティ、見てはいけない。」(美人副会長)

冷静な侮蔑を含んだ声が会計を非難する。

「……俺……ルカ先輩……見損なった。」(コミュ障書記)

外国の方?

「ルカ、生徒会室でいい度胸だな。……そうだなお前、死ぬか?」(俺様会長アレン)

怒りに満ちた声でその場が一瞬にして凍りつく。この学園の絶対王者が怒っているのだ。俺を抱き締める会計が僅かに震えるのが分かった。

お前は何も悪いことしてない。

「アレンやめろ、ルカは悪くない!こいつがルカに抱きついてるんだ!お前、ルカから離れろよ!!ルカが困ってるだろ!!!」

モジャ男が脳内フェルターで俺を悪者にして剣呑な空気をぶったぎる。なかなか使えるやつだ。

「そうだ。頑張ってる生徒に俺がハグしていただけだが、何か問題があるか?」

拘束を解き俺が後ろを振り返るとアレンが驚きに満ちた顔からすぐに侮蔑を含んだ顔になりモジャ男を自身の背に隠した。

「これはこれは兄上。こんな所で何を?」

この生徒会に唯一意見が言える人物の登場に他の奴等は驚き微妙な顔をして何も言わなくなった。俺は学園中に嫌われてはいるが、面と向かって嫌がらせや過度な反抗をしてくるやつはいない。それはアレンが俺を慕っている演技を続けていたからだったり、国王が俺に頻繁に会いに来るからだったりする。

「生徒会室に顧問が居て何か問題があるか?お前達こそこの部屋は久しぶりのようだが何をしに来た?」

アレンが言葉に詰まると空気泥棒がずずいっと前に出てきた。

「俺がっ、この部屋を見たいって言ったんだ!!こいつらは優しいから見せてくれるんだ!!」

「うん、でもそれ校則違反だから。案内したお前らも一緒に停学な。」

「っ!?なっ!そんなの横暴です。」

キラキラした奴等が真っ青になっていく様は気持ちがいいな。

「何だよそれ‼俺達を苛めて楽しいのか⁉何で仲良く出来ないんだよ‼だから国王暗殺なんて考えるんだよ‼許して貰ったんだろ⁉だったらお前も他人を許せる心を持てよ‼この…ふんが!」

美人副会長に口を塞がれモジャ男がバタバタしている。

「兄上が教師の立場でありながらルカと抱き合っていた件は不問にします。ですからこちらも見逃して下さい。」

アレンが頭を垂れてお願いしているが、瞳が赤々と怒りに満ちているのが分かる。このまま引かないと学校が更地になりそうだ。

「いいだろう。用がないなら出ていけ。お前らと違ってこちらは書類の整理で忙しい。」

苦虫を潰したような顔でキラキラ達は部屋を後にしていった。モジャ男は最後までバタバタしていたが、コミュ障書記にお姫さま抱っこで連れていかれた。ぷっ!カッコ悪!

パタン。

「……ふう。びびった~‼先生ってマジで男前だねぇ。会長にあの口がきけるの先生と国王様ぐらいだろうねぇ。」

まだガタガタと震えの収まらない会計の頭をポンポンしてやる。

「何かあったら俺に言え。一人で抱え込むなよ?」

いざとなったらこの学校潰してやるからな。俺の心を知ってか知らずか会計は涙目でニコリと微笑んだ。このがんばり屋の笑顔は守らないとな、俺はそう心に決めたのだった。



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