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第3章

37 かの有名な学園にいる悪役元王子

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男男男………男男男…そして男

俺はどうしてこんなところにいるんだ?
これじゃあ生き地獄じゃねぇか。

城へ戻って直ぐ俺はこの山奥にある全寮制の男子校という名の監獄に剣術の教師として雇われ早2年が過ぎた。ここは名だたる貴族だけではなく、魔法や武芸の優れた一般市民をも受入れ、実力があれば将来は城の重役のイスも夢ではないという皆の憧れの学校だ。

「先生、そんなんじゃ分かりませーん。教えるの向いてないんじゃないんですかぁ?」

チワワのような可愛い男の子が反抗的に剣を振り回している。

おっおう、確かに剣術なんて教えられる気がしねぇ。基本の型とか知らねぇし、もうこれは感覚だろ?男ならぶったぎるしかねぇよな。チワワの生っ白い腕じゃムリムリ。

「取り合えず、毎日1000回剣を振ったらちょっとは強くなれるんじゃないか?」

「!? っはぁああ?」

1000回……あれ?デジャブ?昔誰かに似たような事を言われたような……

「まぁ、適当に頑張れ。年三回の実技のテスト悪かったら留年になるけどなぁ。」

生徒達の怒声を背に俺は背もたれになりそうな木を探し腰かけると読書をした。ここの奴等は元々優秀で特に俺が教えることもないのだ。まぁ、向き不向きはあるが剣術が苦手な奴は大抵魔法がべらぼうに優れていてそれで挽回する。つまり俺はこいつらがケガをしないようにお守りをしていたらいいらしい事に1年位したら気付いたのでそうしている。最初は悪役王子の俺がこの学園の先生に就任する事に多数の反対意見があがったが、

『自分の国の学校に通わずして王になる事はならぬ』

との国王からのお達しで当時1年生に入学したアレンの

『お兄様がやっと戻ってこられたのに離れたくありませーん!』

という鶴の一声で俺の先生就任が許可された。真実はアレンが監獄のような学園に閉じ込められる3年間、俺から目を離さない為他ならない。

鐘の音が鳴り響き授業の終わりを告げると生徒達は昼休みに入った。俺もお腹が空いたので食堂へ行き、いつものように嫌われものらしく端の方で食べていた。そう、俺は恩赦を受けたとはいえ国王暗殺未遂事件の当事者として目茶苦茶嫌われている。俺も生徒に嫌われたくないと少しでも不細工な顔を前髪を伸ばして隠しているが絶賛嫌われ中だ。まぁ、男に嫌われても平気だけどな!おっ、そろそろだな。耳栓を装着する。

「「「ぎゃーっ!!」」」

「「「ヴぉー!!」」」

いつもの歓声が鳴り響いた。初めの時は昔ビジュアル系バンドのコンサートに行った時を思い出したもんだ。そして現れたのはビジュアル系バンドではなくあいつらだった。

「きゃー!生徒会の方々よ~」

「いつ拝見しても素敵~」

「「「抱いて~」」」

チワワ達が吠える。

「「抱・か・せ・ろ~!」」

「天使だ!可愛すぎるだろ~」

野太い声も聞こえるな。

うん、冒頭に戻ろう。ここは全寮制の男子校だ。生徒ばかりか先生・事務職も男しかいねぇ。

だけどもだけど、

『抱いて』やら『抱かせろ』などが飛び交っている。

そう、この学園は男しかいない為に恋愛対象が男になり、男同士で乳クリあっている恐怖の学園だったんだ!

そして今現れたのがその学園の頂点にいる生徒会役員だ。生徒会役員は人気投票で決められ、今年の会長はもちろんアレンになった。1年生の頃からずっと1位で会長になる資格があったが3年生に譲り続け今年は3年になり満を持して会長に就いたアレンの人気は絶大だ。

アレン良かったな、人気者だな。俺は生暖かい目でその光景を見ながら昼食を掻き込んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「先生、これに印鑑お願~い♪」

「ああ、そこに置いておいてくれ。」

チャラ男の会計君が俺の仕事部屋へやって来た。チャラ男ぶってるけど意外と仕事はきっちりやってるんだよな。

「先生さぁ。生徒会の顧問で良かったね~。ほとんどする事ないっしょ?」

にこぉっと笑いしゃがむと俺の机に顎を乗せた。金の髪に耳にある魔力を抑えるピアスがシャランと揺れる。切れ長の美しい緑の瞳が長い睫毛に縁取られ、なるほど人気投票で3位に入るのも頷ける美形だ。

「そうだな。生徒会は仕事が出来るから助かっている。」

「でしょ?歴代最高ぉって言われるの分かるよね~。」

あんまりニコニコ話すもんだから可愛くて思わず頭を撫でる。

「歴代最高にはお前も入ってるぞ。」

会計は少し驚いた顔をしてからまたエヘヘと笑った。

「俺、先生好きだ「くたばれ。」」

「ぶっははは!そんな意味じゃないよぉ。俺、先生に手出す程困ってないし。」

失礼なやつだ。

会計は手をひらひらと振りながら出ていった。これから子猫ちゃん(チワワだろ)とイチャラブらしい。

リア充くたばれと思えないのはなんでだろー(笑)?

そんな以外と平和な学園に嵐がやってる来るとは王道学園を知らない俺は知るよしもなかったんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




時期外れの編入生が来ると言われたのはいつだったか、その日は突然やって来た。台風の目はまず、案内をした美人副会長に『お前、どうして嘘笑いしてるんだよ?笑いたくなかったら笑わなくていいんだぞ?』と言っていい子ちゃんの仮面に覆われていた副会長をノックダウンし、一卵性の可愛いアイドル双子補佐を『全然似てないぞ。お前ら違う人間だろ?』と言ってメロメロにし、自分に自信のないコミュ障書記には『お前はお前だろ?そのままでいいんだぞ。』と言って骨抜きにし、最後は会長アレンに『お前、一人で何抱え込んでんだよ。自分を許せ。他人を許していいんだ。』と言って、『面白いことをいうやつだ』とアレンに蜂蜜笑顔で微笑まれ真っ赤になってアレンを吹っ飛ばしたらしい。

台風の目の名をティフォンといった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




初めて異変に気付いたのは俺にネチネチと嫌みをいうイヤミ教師に生徒会関係の書類の不備を指摘された時だった。

これまでも会計が書類を持ってきていたがそれが期日ギリギリな事が増えていた。その上に不備とは今までの生徒会の仕事としてはあり得ないことだった。

イヤミが煩いのでその足で生徒会室に向かう事にする。そして部屋をあけてその惨状に驚いた。掃除も行き届いていないであろう生徒会室の1つの机に大量に重ねられた書類の山。その中に金色の髪がひょこひょこと動くのが見える。扉が開いたというのにこちらを見ようともしない。

「おい。」

「何?用事がないなら帰ってくれる?邪魔なだけだか……先生?」

冷たい瞳でこちらを見た会計がヘニャと笑った。髪の艶もくすみ、目の下には隈があり、肌も荒れている。この顔を俺は知っていた。救急に配属されて、夜勤明けに日勤を押し付けられ、次の日も日勤をした後の研修医の顔のそれだ。

「ばぁか。何頑張ってんだ。キャラじゃねぇだろ。」

「キャラ?……先生ごめんね。書類等々間に合いそうにない。」

瞳に涙をためて会計が悔しそうに俯く。

「他の奴等は……モジャ男か。」

数日前に見た寒い光景を思い出す。キラキラした生徒会の奴等がモジャ男をちやほやしていたのだ。

面白くて二度見した。

「俺が何言っても仕事しないでティフォンにベタベタしてる。お互い牽制しあってバカみたい。」

「おいおい、歴代最高じゃなかったのか?」

どかっと隣の席に座り書類を漁る。

「先生?」

「二人でやれば少しは処理出来んだろ?」

「先生って顔に似合わず言うこと男前だよねぇ。」

会計が嬉しそうににこぉっと笑う。うん、それでこそ会計だ。

「うるさい。俺からそれとったら何ものこんねぇだろうが。」

「ぶはぁっ!自分でそれ言っちゃうの。やっぱ俺、先生好きだなぁ。」

会計はぎゅうっと俺に抱きつき首に顔を埋める。首が湿ってくるのは気付かないふりをしてやって背中をポンポンしてやる。暫くそうしていると落ち着いたのか顔をあげた。

「……あれぇ?先生って色白くない?……てか、白すぎでしょ!!何で!? うわっやっば!勃つわ~。」

己の涙に濡れた首筋を見て会計は驚きながらあろうことかもっと奥を見るため俺の首回りの服を引っ張りだした。

「ぐぇ!やーめーろ!」

俺は会計を無理矢理ひっぺがすと仕事を始めた。

勃つって何だ?勃つって!? 

新人類恐い!

「いたぁい。先生何で?肌の色白いからいつも着こんでんの?」

「男のくせに生っ白い肌が嫌なんだよ。お前らすぐ馬鹿にすんだろうが。」

ましてや俺は剣術の先生だ。剣術の先生ってのはもっと日に焼けてないとダメだろ?俺は淡々と仕事をこなしながら答える。

「いやぁ、でもチワワちゃん達も色白で可愛いよぉ。あっでも先生の方が白いね。」

「焼けねぇんだ。赤くなって水脹れみたいになるからヒールで治すといつも元通りだ。」

言いながら会計にヒールをかける。

「!?うわっ何これ?気力体力マックスみたい!」

うん、顔色も良くなったな。

「俺様がヒールかけてやったんだから喋ってないで手ぇ動かせ。」

「んもう!男前ぇ~!!抱かれてもいい。……でもその首、赤い跡残したくなるよねぇ?」



「……お前、いい加減黙れよ。」


こうして会計と俺の長い戦いが幕を開けようとしていた。
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