上 下
27 / 118
第2章

27 安物買いの銭失い

しおりを挟む
バサッ!

見事に目の前の魔物が真っ二つに割れた。

「ライナスは強いな。」

感心して呟くとプイっとそっぽを向かれる。昨日みっともないところを見せたから呆れられちゃったのか?

――けどお前も大概みっともなかったけどな!

「ライナス?顔が真っ赤ですよ?熱でもあるのでは?」

「っ!大丈夫です。リリィ様、申し訳ありません。俺にはリリィ様がいるのに!!俺は俺は……最低だぁ!」

ライナスは何か葛藤があるもようだ。うんうん。若いうちは大いに悩め。いつかそれを懐かしく思う日が来るだろう。

「ライナス?それよりここから先は……」

「はい。今までとは比べ物にならないくらいのレベルの敵がいるようです。」

森の中の安全と言われていた道でここ数日旅人が消える事件が発生した。運よく逃げ帰った旅人によると大きな鳥のような魔物に引き込まれたらしい。その魔物を討伐する依頼だが、この付近ではさほど強い魔物の発見例はないので、Bランクの依頼になる。

クフフ。クエストだ、クエストっぽい。俺、ワクワクすんぞっ。

――でも、その前に、休憩しないか?

「ライナス?気のせいかしら、目の前でお茶会が始まってるような……。」

リリィがパチクリした後、目を擦っている。可愛いなおい。

「気のせいではありません。こんな場所で、気が狂ってるとしか思えない。」

えっ、アレンと魔物の森でよくやってたけど?森と言ったらピクニックだろう?

「何言ってるんだ?って顔をしているがお前がおかしいからな。……何だ?食べろと言うのか?……パク……うまい。」

アレンの大好物だったフルーツサンドだ。料理長が作ったのより俺のがうまいって言ってよく食べてたな。でもあれも演技だったのか……。

「食べるっ、食べるからそんな顔をするなっ。パク、うまっ、パク、いけるっ、パク。いくらでも食べれるな。」

……おい、一人3個までだぞ。

あっ、パクパクと口に運んでいくライナスの口許に生クリームが……

いつもの・・・・ように親指で取り去りペロリと舐めた。

「――うん、我ながらうまいな。」

何故か口をパクパクさせているリリィの口にも入れてやった。

うん?リリィは俺の指舐めないんだな?舐めていいのに、大歓迎なのに。

うん?ライナスどうして顔がどす黒いほど真赤なんだ?

うん?リリィどうしてフルーツサンドを口から落とした?勿体ないお化けが出るぞ?

俺は二人を交互に見て、そして首を傾げた。

コテン。

「ああっ。」

リリィが額に手の甲をやりフラリと倒れた。

大丈夫か?寝不足か?

ははぁーん。リリィめ、慣れてるふりして実は今日のクエスト楽しみにし過ぎて眠れなかったな?見た目通りの可愛い娘だ。あんまり見すぎたらリリィを抱き抱えているライナスに怒られるからチラッとだけ天使の寝顔を拝見……はぁ、もう1週間水無しでも生きていられる。超かわえ~。

我慢できずチラチラと見ていたらライナスが威嚇してきたので、くわばら、くわばらとお紅茶の準備に取り掛かる。

カチッ、カチッ……

石と石を合わせて火種を作る。

カチッ、カチッ……

……何てこった!最近、エンがいたから頼りっぱなしで火打石使ってなかったから俺、ヘタになってる?

「なんだ?火を起こすのか?」

俺はライナスの方を見ないで頷いた。

ショックだった。俺はアレンやエンにおんぶにだっこして結局何も出来ない男になってしまった。

カチッ、カチッ……

グスン、情けなくて涙が出てくる。

グスン、エンは俺が必要だと思ったタイミングで火をつけてくれた。アレンは俺が火打石を出そうとするとその手を握り「お兄様の手が傷付いてしまいます。」と手にちゅうしてから火をつけてくれた。

……まて?好きなふりは分かるが、ちゅうする必要あるか?あいつ、やっぱり俺の事好きだろ?

アレンの可愛い笑顔を思い出す。

グスン。

演技なんて嘘だろぅ?グスン。

「……つかないのか?」

俺はコクンと頷き、魔法でつけようと立ち上がるライナスを涙で潤んだ瞳で見つめ制した。

「自分でやる。」

ライナスはグッと何かを堪える顔をしてまた座り直した。

吐き気か?醜男の涙目はさぞや気持ち悪かったろう。殴られなくて良かった。

カチッ、カチッ……

何度してもつかない。

暫くするとため息をついてライナスが居なくなった。

呆れられちゃったな。

俺は更に惨めな気持ちになると、その手を止め、側に寝かされているリリィを見た。

可愛え~。

「なんだ?止めたのか?」

びっくーーーん!

いきなり背後からしたライナスの声にあわてふためく。

いや俺は決して邪な事は……

「ほら。これを使ってみろ。」

そう言って俺に差し出したライナスの手にはぴかぴかの火打石が。テレポートで買いに行ってくれたのか?

カチッカチッ……ボッ。

「……ついた。」

「やっぱりな、その火打石は安物だろう。安物はつけにくいんだ。」

昔、料理長からもらった火打石はとてもつけやすかった。あれは上等な代物だったんだ。お金をケチって安物を買ったからいけなかったのか。貧乏って辛いな。

「ライナス、ありがとう。」

俺の腕は鈍っちゃいなかった。その事が分かって、嬉しくて思わず笑ってしまった。

「……おい、息をしないと死ぬぞ?」

ライナスは息を止めて固まった。

揺るぎないな俺の笑顔。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中
恋愛
大陸の西の果てにあるスフィア王国。 その国の公爵家令嬢エリスは、王太子の婚約者だった。 だがある日、エリスは姦通の罪を着せられ婚約破棄されてしまう。 そんなエリスに追い打ちをかけるように、王宮からとある命が下る。 それはなんと、ヴィスタリア帝国の悪名高き第三皇子アレクシスの元に嫁げという内容だった。 結婚式も終わり、その日の初夜、エリスはアレクシスから告げられる。 「お前を抱くのはそれが果たすべき義務だからだ。俺はこの先もずっと、お前を愛するつもりはない」と。 だがその宣言とは違い、アレクシスの様子は何だか優しくて――? 【アルファポリス先行公開】

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない

佐倉海斗
BL
 王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。  一度、死んだはずだった。  それなのに、四年前に戻っていた。  どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。  ※悪役令息(主人公)が受けになります。  ※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。  ※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

超絶美形な俺がBLゲームに転生した件

抹茶ごはん
BL
同性婚が当たり前に認められている世界観のBLゲーム、『白い薔薇は愛の象徴となり得るか』略して白薔薇の攻略対象キャラである第二王子、その婚約者でありゲームでは名前も出てこないモブキャラだったミレクシア・サンダルフォンに生まれ変わった美麗は憤怒した。 何故なら第二王子は婚約者がいながらゲームの主人公にひとめぼれし、第二王子ルートだろうが他のルートだろうが勝手に婚約破棄、ゲームの主人公にアピールしまくる恋愛モンスターになるのだ。…俺はこんなに美形なのに!! 別に第二王子のことなんて好きでもなんでもないけれど、美形ゆえにプライドが高く婚約破棄を受け入れられない本作主人公が奮闘する話。 この作品はフィクションです。実際のあらゆるものと関係ありません。

処理中です...