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第2章
27 安物買いの銭失い
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バサッ!
見事に目の前の魔物が真っ二つに割れた。
「ライナスは強いな。」
感心して呟くとプイっとそっぽを向かれる。昨日みっともないところを見せたから呆れられちゃったのか?
――けどお前も大概みっともなかったけどな!
「ライナス?顔が真っ赤ですよ?熱でもあるのでは?」
「っ!大丈夫です。リリィ様、申し訳ありません。俺にはリリィ様がいるのに!!俺は俺は……最低だぁ!」
ライナスは何か葛藤があるもようだ。うんうん。若いうちは大いに悩め。いつかそれを懐かしく思う日が来るだろう。
「ライナス?それよりここから先は……」
「はい。今までとは比べ物にならないくらいのレベルの敵がいるようです。」
森の中の安全と言われていた道でここ数日旅人が消える事件が発生した。運よく逃げ帰った旅人によると大きな鳥のような魔物に引き込まれたらしい。その魔物を討伐する依頼だが、この付近ではさほど強い魔物の発見例はないので、Bランクの依頼になる。
クフフ。クエストだ、クエストっぽい。俺、ワクワクすんぞっ。
――でも、その前に、休憩しないか?
「ライナス?気のせいかしら、目の前でお茶会が始まってるような……。」
リリィがパチクリした後、目を擦っている。可愛いなおい。
「気のせいではありません。こんな場所で、気が狂ってるとしか思えない。」
えっ、アレンと魔物の森でよくやってたけど?森と言ったらピクニックだろう?
「何言ってるんだ?って顔をしているがお前がおかしいからな。……何だ?食べろと言うのか?……パク……うまい。」
アレンの大好物だったフルーツサンドだ。料理長が作ったのより俺のがうまいって言ってよく食べてたな。でもあれも演技だったのか……。
「食べるっ、食べるからそんな顔をするなっ。パク、うまっ、パク、いけるっ、パク。いくらでも食べれるな。」
……おい、一人3個までだぞ。
あっ、パクパクと口に運んでいくライナスの口許に生クリームが……
いつものように親指で取り去りペロリと舐めた。
「――うん、我ながらうまいな。」
何故か口をパクパクさせているリリィの口にも入れてやった。
うん?リリィは俺の指舐めないんだな?舐めていいのに、大歓迎なのに。
うん?ライナスどうして顔がどす黒いほど真赤なんだ?
うん?リリィどうしてフルーツサンドを口から落とした?勿体ないお化けが出るぞ?
俺は二人を交互に見て、そして首を傾げた。
コテン。
「ああっ。」
リリィが額に手の甲をやりフラリと倒れた。
大丈夫か?寝不足か?
ははぁーん。リリィめ、慣れてるふりして実は今日のクエスト楽しみにし過ぎて眠れなかったな?見た目通りの可愛い娘だ。あんまり見すぎたらリリィを抱き抱えているライナスに怒られるからチラッとだけ天使の寝顔を拝見……はぁ、もう1週間水無しでも生きていられる。超かわえ~。
我慢できずチラチラと見ていたらライナスが威嚇してきたので、くわばら、くわばらとお紅茶の準備に取り掛かる。
カチッ、カチッ……
石と石を合わせて火種を作る。
カチッ、カチッ……
……何てこった!最近、エンがいたから頼りっぱなしで火打石使ってなかったから俺、ヘタになってる?
「なんだ?火を起こすのか?」
俺はライナスの方を見ないで頷いた。
ショックだった。俺はアレンやエンにおんぶにだっこして結局何も出来ない男になってしまった。
カチッ、カチッ……
グスン、情けなくて涙が出てくる。
グスン、エンは俺が必要だと思ったタイミングで火をつけてくれた。アレンは俺が火打石を出そうとするとその手を握り「お兄様の手が傷付いてしまいます。」と手にちゅうしてから火をつけてくれた。
……まて?好きなふりは分かるが、ちゅうする必要あるか?あいつ、やっぱり俺の事好きだろ?
アレンの可愛い笑顔を思い出す。
グスン。
演技なんて嘘だろぅ?グスン。
「……つかないのか?」
俺はコクンと頷き、魔法でつけようと立ち上がるライナスを涙で潤んだ瞳で見つめ制した。
「自分でやる。」
ライナスはグッと何かを堪える顔をしてまた座り直した。
吐き気か?醜男の涙目はさぞや気持ち悪かったろう。殴られなくて良かった。
カチッ、カチッ……
何度してもつかない。
暫くするとため息をついてライナスが居なくなった。
呆れられちゃったな。
俺は更に惨めな気持ちになると、その手を止め、側に寝かされているリリィを見た。
可愛え~。
「なんだ?止めたのか?」
びっくーーーん!
いきなり背後からしたライナスの声にあわてふためく。
いや俺は決して邪な事は……
「ほら。これを使ってみろ。」
そう言って俺に差し出したライナスの手にはぴかぴかの火打石が。テレポートで買いに行ってくれたのか?
カチッカチッ……ボッ。
「……ついた。」
「やっぱりな、その火打石は安物だろう。安物はつけにくいんだ。」
昔、料理長からもらった火打石はとてもつけやすかった。あれは上等な代物だったんだ。お金をケチって安物を買ったからいけなかったのか。貧乏って辛いな。
「ライナス、ありがとう。」
俺の腕は鈍っちゃいなかった。その事が分かって、嬉しくて思わず笑ってしまった。
「……おい、息をしないと死ぬぞ?」
ライナスは息を止めて固まった。
揺るぎないな俺の笑顔。
見事に目の前の魔物が真っ二つに割れた。
「ライナスは強いな。」
感心して呟くとプイっとそっぽを向かれる。昨日みっともないところを見せたから呆れられちゃったのか?
――けどお前も大概みっともなかったけどな!
「ライナス?顔が真っ赤ですよ?熱でもあるのでは?」
「っ!大丈夫です。リリィ様、申し訳ありません。俺にはリリィ様がいるのに!!俺は俺は……最低だぁ!」
ライナスは何か葛藤があるもようだ。うんうん。若いうちは大いに悩め。いつかそれを懐かしく思う日が来るだろう。
「ライナス?それよりここから先は……」
「はい。今までとは比べ物にならないくらいのレベルの敵がいるようです。」
森の中の安全と言われていた道でここ数日旅人が消える事件が発生した。運よく逃げ帰った旅人によると大きな鳥のような魔物に引き込まれたらしい。その魔物を討伐する依頼だが、この付近ではさほど強い魔物の発見例はないので、Bランクの依頼になる。
クフフ。クエストだ、クエストっぽい。俺、ワクワクすんぞっ。
――でも、その前に、休憩しないか?
「ライナス?気のせいかしら、目の前でお茶会が始まってるような……。」
リリィがパチクリした後、目を擦っている。可愛いなおい。
「気のせいではありません。こんな場所で、気が狂ってるとしか思えない。」
えっ、アレンと魔物の森でよくやってたけど?森と言ったらピクニックだろう?
「何言ってるんだ?って顔をしているがお前がおかしいからな。……何だ?食べろと言うのか?……パク……うまい。」
アレンの大好物だったフルーツサンドだ。料理長が作ったのより俺のがうまいって言ってよく食べてたな。でもあれも演技だったのか……。
「食べるっ、食べるからそんな顔をするなっ。パク、うまっ、パク、いけるっ、パク。いくらでも食べれるな。」
……おい、一人3個までだぞ。
あっ、パクパクと口に運んでいくライナスの口許に生クリームが……
いつものように親指で取り去りペロリと舐めた。
「――うん、我ながらうまいな。」
何故か口をパクパクさせているリリィの口にも入れてやった。
うん?リリィは俺の指舐めないんだな?舐めていいのに、大歓迎なのに。
うん?ライナスどうして顔がどす黒いほど真赤なんだ?
うん?リリィどうしてフルーツサンドを口から落とした?勿体ないお化けが出るぞ?
俺は二人を交互に見て、そして首を傾げた。
コテン。
「ああっ。」
リリィが額に手の甲をやりフラリと倒れた。
大丈夫か?寝不足か?
ははぁーん。リリィめ、慣れてるふりして実は今日のクエスト楽しみにし過ぎて眠れなかったな?見た目通りの可愛い娘だ。あんまり見すぎたらリリィを抱き抱えているライナスに怒られるからチラッとだけ天使の寝顔を拝見……はぁ、もう1週間水無しでも生きていられる。超かわえ~。
我慢できずチラチラと見ていたらライナスが威嚇してきたので、くわばら、くわばらとお紅茶の準備に取り掛かる。
カチッ、カチッ……
石と石を合わせて火種を作る。
カチッ、カチッ……
……何てこった!最近、エンがいたから頼りっぱなしで火打石使ってなかったから俺、ヘタになってる?
「なんだ?火を起こすのか?」
俺はライナスの方を見ないで頷いた。
ショックだった。俺はアレンやエンにおんぶにだっこして結局何も出来ない男になってしまった。
カチッ、カチッ……
グスン、情けなくて涙が出てくる。
グスン、エンは俺が必要だと思ったタイミングで火をつけてくれた。アレンは俺が火打石を出そうとするとその手を握り「お兄様の手が傷付いてしまいます。」と手にちゅうしてから火をつけてくれた。
……まて?好きなふりは分かるが、ちゅうする必要あるか?あいつ、やっぱり俺の事好きだろ?
アレンの可愛い笑顔を思い出す。
グスン。
演技なんて嘘だろぅ?グスン。
「……つかないのか?」
俺はコクンと頷き、魔法でつけようと立ち上がるライナスを涙で潤んだ瞳で見つめ制した。
「自分でやる。」
ライナスはグッと何かを堪える顔をしてまた座り直した。
吐き気か?醜男の涙目はさぞや気持ち悪かったろう。殴られなくて良かった。
カチッ、カチッ……
何度してもつかない。
暫くするとため息をついてライナスが居なくなった。
呆れられちゃったな。
俺は更に惨めな気持ちになると、その手を止め、側に寝かされているリリィを見た。
可愛え~。
「なんだ?止めたのか?」
びっくーーーん!
いきなり背後からしたライナスの声にあわてふためく。
いや俺は決して邪な事は……
「ほら。これを使ってみろ。」
そう言って俺に差し出したライナスの手にはぴかぴかの火打石が。テレポートで買いに行ってくれたのか?
カチッカチッ……ボッ。
「……ついた。」
「やっぱりな、その火打石は安物だろう。安物はつけにくいんだ。」
昔、料理長からもらった火打石はとてもつけやすかった。あれは上等な代物だったんだ。お金をケチって安物を買ったからいけなかったのか。貧乏って辛いな。
「ライナス、ありがとう。」
俺の腕は鈍っちゃいなかった。その事が分かって、嬉しくて思わず笑ってしまった。
「……おい、息をしないと死ぬぞ?」
ライナスは息を止めて固まった。
揺るぎないな俺の笑顔。
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