上 下
20 / 118
第1章

20 モブ少女Aの激白

しおりを挟む
私の話を聞いてください。あっ、どうも、女子に圧倒的人気だった恋愛シミュレーションゲーム、「恋はドキドキハラハラ天国」、略して、恋ドキハラの世界に転生した、モブ役の少女Aです。

モブとはいえ、この世界の事は隅から隅まで、結果まで知り尽くしておりますので、一番いいポジ(主人公の友達役)を確保し、この世界を楽しんでおりました。ええ、ええ。イケメンばかりのこの世界、すんばらしいです。悪役までイケメン、美少女って毎日がハッピーでたまりません。

ちなみに私の推しメンは、隣国の王子、勇者アレン様。13才ながら、すらりと高い身長に、細マッチョの肉体美、炎を思わせる真っ赤な髪に、同じく赤いルビーのように美しい大きな瞳。常に冷静でクール。笑った所など見たこともない。学校に特別枠で入ってきたかと思えばすぐにぶっちぎりでトップの成績をたたきだし、未だ継続中。まさに、非の打ち所のないキングオブイケェメン!!


数あるイケメンの中で何故この方が推しメンかと言うと、私の記憶と違うのです。私の中で、アレン様と言えば、生まれて初めて優しくしてくれた主人公にゾッコンの大型犬。次々とこの学校で花開く才能の嵐に飲まれながらも、まだまだ発展途上中のお子様。瞳もウルルン、キュルンの上目遣いが必殺技。

実はこのアレン様は同じ会社から出ているゲーム、「ライトオブホープ」のキャラクターで、連動したら最後は王様になったアレン様と結ばれる所を見られるという特典付でした。


それがなんという事でしょう?もう出来上っちゃってるし!しかも誰もがメロメロになる主人公に見向きもしないイレギュラーぶり。学校中の女子に告白されているけどいつも徹底的に無視。


けれど悪役令嬢のサラは虎視眈々とアレン様を狙っていて、近付く少女達はことごとく意地悪をされ陰湿ないじめに合っているようですが、サラの見た目は清楚系なので誰も気付きません。


……私以外はね。ふふふ、いつかこっぴどく暴いてやろうと思って、今は情報集めの真っ最中です。



そんな彼女が、最近こそこそと赤髪のモブ男子と消えるのを何度も目撃したのです。何か匂いますよね?私は勿論こっそり後をつけました。彼等が入っていたのは、滅多に使われない実験室の奥の倉庫。若い男女かこんな場所に入るなんて、あれ・・しかないですよね?確認のため扉に耳を近付けます。はい!アウトォ!念のために会話も魔法で録音しておきましょうね。


そして事件は起こりました。私の転生人生の中で一番の思い出になるであろう重大事件が。ああ、思い出すと今でも鼻血か出そう……



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「だから、身に覚えがないんだけど?」


いつもの冷めた赤い瞳で、アレン様は泣きじゃくるサラを一瞥していました。周囲は見目麗しい二人の修羅場に何事かと興味津々です。


「ひどい!!私の事好きじゃなかったの?」


足元にサラがすがりました。なんと見苦しいのでしょうか?あんな事をしておいて、このまま二人の関係が続くようなら、校内放送であれ・・を流してやろうかと思っていた所でした。
アレン様は自分の足からサラの両手を外し、顔を覗き込みます。なんという冷めた瞳。遠くに居る私でさえ、緊張で身動きが取れません。アレン様は王者の風格が既におありでした。



「誰が、お前を好きと?調子に乗るなよ?」


おう!カッコ良すぎるぅ!その言葉は貴方しか言えません!!どこまでもついてゆきます~!



「どうして?この子・・・はどうするの?いずれこの子は国王になれるのに。」



サラがお腹を擦る。いや!アレン様の子じゃないから!モブ男子の子でしょうが!!



「もし仮にそれ・・が俺の子だとしてもそいつ・・・は国王になれない。俺には兄がいる。兄の子が国王になる。当たり前の事だろう?」




「そんなの変!アレン様のお兄様は国王様に嫌われた落ちこぼれでしょ?優秀なアレン様の方が時期国王に相応しいって、みんな言ってるわ!!」





確かに、国王にはアレン様がなるよね。うん!それは正解。アレン様の兄は最低王子だから民衆に嬲り殺しにあうのよね。


でも、モブ男子との子が国王になる事はないから!…貴方にはお仕置きが必要なようですね。私は録音した魔法を解放させようとしました。その時です。



アレン様が私のすぐ近くの柱へ吹っ飛んできたのです。



「…えっ?」



いつもなら柱に埋もれているアレン様に目がいくのですが、私はサラに近付く青年に釘付けになっていました。


金糸のような前髪が真っ青で透き通った瞳にかかり、サラリと揺れています。血管が透ける程白い肌は染みひとつない純白のドレスを想像させました。美しいという言葉はこの人の為にあるのだと私は確信しました。これ・・は人なのかも怪しいぞと。とにかく神々しいのです。周囲も突然登場した美しすぎる青年に、息も出来ずに注目していました。



「愚弟が失礼をした。私は兄のラインハルトです。国王に代わり謝罪と誠意を示しに参りました。」




どっひゃ~!? ああああ、あに~!?違う!思うてたんと違う~!!


「国王は今回の事に大変心を痛めております。我が国は必ずや貴方とそのお子を保護し、然るべき処置を取ります。どうか、ご両親にお話をさせていただきたいのですが。」




「は、はい。」



「それはよかった。さっ、貴方一人の体ではないのですから安静にしておかないと、部屋でお休み下さい。」



サラの両手をそっと彼は包み込み、見つめ合っていました。でも、誰もが彼にしか目が行きません。サラも美形なのに今やモブに見えます。次の瞬間、アレン様が少女の手を包んだ彼の手を取り、立たせていました。いつの間に復活したのでしょう?



「――あんたはいったい何をしているんですか?」



さっきまでの冷めた目とは違い、とろけそうに甘い瞳です。キラキラと熱を持ち彼を見つめていました。初めて見るアレン様に、私達は驚いていました。



「お前、大きくなったなぁ。でも、好き勝手し過ぎだ。」



めっ!と人差し指を目の前に立て、上目使いにアレン様を叱ったのです。何のご褒美ですか?その破壊力たら否や、近くにいた者達は昇天していました。



「ぐぅ…」



それを至近距離で受けたアレン様、流石です。ダメージは図りかねますが持ちこたえていました。そして周囲を殺しかねないほど威嚇しながら彼をさらっていかれました。



彼等が去った大広間は静まり返っていました。まさに嵐が去った後のようです。しばらくして、我に返った私は自分の仕事をすべく、サラの元へ向かいました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



私の話はこれで終わりです。この時の事を思い出すと興奮が収まらず拙い言葉になってしまいごめんなさい。そして最後まで聞いてくださってありがとうございました。


これから先、彼等と私が交わることはないでしょう。それでも、私はここで彼等と交わりました。どうか、これから先の彼等に祝福あれ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編まとめ

あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。 基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。

異世界に召喚されたのでどすけべアピール頑張ります♡

桜羽根ねね
BL
タイトル通りのらぶざまハッピーエロコメです! 口が少し悪い攻めと敬語攻めに、平凡受けがふたなりに変えられたり洗脳されたり愛されたりします。 とあるプレイはマロでいただいたものを参考に書かせていただきました。送っていただいたマロ主さん、ありがとうございます。 何でも美味しく食べる方向けです!

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

大学生カップルのイチャイチャ短編

NA
恋愛
大学生カップル(真面目なお姉さん×年下遊び人ワンコ系)がいちゃいちゃえっちする18Rです。 ものすごくお久しぶりのリハビリSSです。

クソ雑魚新人ウエイターを調教しよう

十鳥ゆげ
BL
カフェ「ピアニッシモ」の新人アルバイト・大津少年は、どんくさく、これまで様々なミスをしてきた。 一度はアイスコーヒーを常連さんの頭からぶちまけたこともある。 今ようやく言えるようになったのは「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」のみ。 そんな中、常連の柳さん、他ならぬ、大津が頭からアイスコーヒーをぶちまけた常連客がやってくる。 以前大津と柳さんは映画談義で盛り上がったので、二人でオールで映画鑑賞をしようと誘われる。 マスターの許可も取り、「合意の誘拐」として柳さんの部屋について行く大津くんであったが……?

いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい

作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。 BLなので注意!! 初投稿なので拙いです

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

処理中です...