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6分の1のサバイブ
これからのこと
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「だいぶ、良くなってきた……」
吸血鬼の少女、テラスとの死闘を終えた龍一は、ゴールデン・ブラッドの治療を施され、無事回復へと進んでいた。
一旦帰る事をコペルに提案されたのだが、それよりも先にしてしまわなければならない事があった。
それは、コペルの事である。彼はこの数日間にして何かしらのヒントを得ているようで、これからの部の動向を彼に決めてもらおう、もしくは話し合って皆で決めてしまおうと、龍一は考えていた。
2階の部屋を離れ、階段を降りて皆のいるリビングへと向かう。龍一が扉を開けると、全員が顔を揃えていた。
「始めるぞ、皆。」
その場の皆が真面目な表情をしている。コペルがそうさせている。
「まずは、コペル。何か報告する事があるんだろ」
「ああ、まず聞いて欲しいのは、俺が体験した事だ……」
コペルは目を瞑り、しばらく先日のタイムスリップのことを思い起こして、皆に話した。皆は始終、話に聞き入っていた。言葉の端々から、コペルの意気が伝わった。
「俺たちが離れた後、そんなことがあったのか」
「驚いたわ、過去の事も、あのゼッターの事も……」
星子と彼方は顔を見合わせた。自分たちと別れたあとにそんなことがあっていたとは思ってもみなかった。
「つまり、俺が言いたいのは、その……。ゼッターの気持ちも汲んでやりたいって事だ。戦う事は止めない。楽園も阻止する。ただ、この吸血鬼という存在そのものの真相を暴き、何かしてやれる事を探したい」
コペルはそう言った。疑問を抱いたのは武情だった。
「真相……、とは、詳しくはどういう事だ」
真相。この一言でまとめるが、問題として提起出来るほどの証拠や言葉は、今のコペルには持ち合わせていない。この吸血鬼には何かある、という事、自分の見た、正しくはリズが見せていた夢の正体、その意味についても重要な何かを秘めていると思っているだけだ。
しかし、この場には返答出来る者が1人いた。その男、龍一が口を開いた。
「物語……だ。そしてあいつらの探すものはエンディング……。それだけは俺の言える事だ」
物語。その言葉を辿っていけば、コペルには1つ心当たりがあった。
「そういえば、マックスが常に本を読んでいた。あの本と何か関係があるのかもしれない」
「とすれば、目標はマックスだな」
「しかし、どうやって会えばいいんだろう」
一同はうーん、と考え込む。しばらく経ってから、武情の口が開いた。
「カルマだ。あいつに会いに行こう」
皆は武情の方を見る。
「会えるのか?」
「ああ、貸しもあるだろうしな」
「貸し?」
武情はニヤリと口角を上げ、彼方を見つめる。
「俺か?」
「まだ教えてもらってないだろ、お前の母親の居場所を」
「あ! そういえば」
「決まりだな」
一同は立ち上がった。またひとつ前進していくのを誇らしく思った。
「龍一、これからどうする」
「そうだな……。俺と彼方はここにいることにする。まだ怪我が治ってないからな。それと武情は引き続きこの家の門番だ」
「ということは、私とコペル、2人でカルマに会いに行けばいいのね」
「そういう事だ。頼んだぜ、2人とも」
早速星子は立ち上がり、玄関へと向かう。その勢いに引っ張られるように、コペルも後に続く。
「場所はシャッター街だ。あそこにいつもいるからな」
「分かったわ。行きましょ、コペル」
「ああ、でも、ちょっと待って」
コペルは言いにくくてまだ言えていないことを、皆に伝えるべく立ち止まった。彼には言わなければならない事がある。それを伝えるべく、首に提げたネックレスの、小さなダイヤモンドをギュッと握りしめ、キッと視線を上げた。
「皆、もう分かってるかも知れないけど……。俺はまた、新しい能力が備わろうとしてる。それはつまり、2つ目の能力が自分にあるということ……。だから、俺は……」
「吸血鬼、か?」
龍一はニヤリと口角を上げてコペルを見つめていた。彼方は奥の部屋からヒラヒラと、手を振っている。武情はただ腕を組んで話を聞いている。
「俺たち、友だちだろ。何があってもな」
「龍一……」
「改めてさ、皆。これからもよろしくな。絶対にすごいこと成し遂げよう」
「うむ」
「ああ」
ニヤニヤしながら家に残る3人が拳を合わせる。
「あんた達、家にいる癖に何言ってんのよ! 私たちの方が先にすごいことやっちゃうんだから。ね、コペル」
星子が輝かしい目でコペルを見る。
「う、うん」
決まりね、と言わんばかりに星子は家を出る。
「行ってこいよ、コペル。そんで、絶対帰ってこい」
龍一はコペルをしっかりと見据える。心配すんな、仲間だろ。そう伝えたかった。
コペルはただ、うんと頷いて外へと出ていった。本当に嬉しかった。そして、この事はまた、これからの1歩への力になるだろうと、思った。
「さ、行くわよ、コペル。目指すはシャッター街ね」
「ああ、絶対見つけるんだ。ゼッターの探していた、本当の楽園を……」
一方、シャッター街。ここには吸血鬼、カルマが住み着いている。それを知っていて、テラスはここまで来た。
「カルマ……。いるんでしょ……。」
2階の窓からバサリと降り立つカルマ。テラスを一瞥して、驚きを隠せないでいた。
「お前がそこまで深手を負うとは……。」
「そんなことはいい……。楽園への入口はもうそこにある……。」
テラスはマントを翻す。そこには1人の女性が立っていた。
「この女は……」
「能力者……。人間のね。この女を使って、斑木コペルを捕らえなさい……」
テラスはそう言い残して、ずるずると足を引きずり去っていった。
後ろ姿を見送りながら、カルマは思うことがあった。
「楽園……。マックス、お前はまだそんなものを追ってるのか……。」
カルマは、テラスが置いていった女性を見つめる。心ここに在らずと言ったような顔つき。恐らくはテラスの第2の能力、フィギュアによって操られている。
何も無い。この世にほしいものはもう、何も無い。リズもゼッターもそうだった。楽園よりも、皆でしずかに暮らせればそれで良かったのに。ただ、少数の理解ある人間とだけ交わって生きて行ければ、それで良かったのに。
カルマはまた、楽園を目指す。テラスの思いも捨てきれないでいる自分がいる。あいつの夢も叶えてやりたい。そう思って、カルマは女性を連れ、シャッター街の家屋へと姿を消した。
吸血鬼の少女、テラスとの死闘を終えた龍一は、ゴールデン・ブラッドの治療を施され、無事回復へと進んでいた。
一旦帰る事をコペルに提案されたのだが、それよりも先にしてしまわなければならない事があった。
それは、コペルの事である。彼はこの数日間にして何かしらのヒントを得ているようで、これからの部の動向を彼に決めてもらおう、もしくは話し合って皆で決めてしまおうと、龍一は考えていた。
2階の部屋を離れ、階段を降りて皆のいるリビングへと向かう。龍一が扉を開けると、全員が顔を揃えていた。
「始めるぞ、皆。」
その場の皆が真面目な表情をしている。コペルがそうさせている。
「まずは、コペル。何か報告する事があるんだろ」
「ああ、まず聞いて欲しいのは、俺が体験した事だ……」
コペルは目を瞑り、しばらく先日のタイムスリップのことを思い起こして、皆に話した。皆は始終、話に聞き入っていた。言葉の端々から、コペルの意気が伝わった。
「俺たちが離れた後、そんなことがあったのか」
「驚いたわ、過去の事も、あのゼッターの事も……」
星子と彼方は顔を見合わせた。自分たちと別れたあとにそんなことがあっていたとは思ってもみなかった。
「つまり、俺が言いたいのは、その……。ゼッターの気持ちも汲んでやりたいって事だ。戦う事は止めない。楽園も阻止する。ただ、この吸血鬼という存在そのものの真相を暴き、何かしてやれる事を探したい」
コペルはそう言った。疑問を抱いたのは武情だった。
「真相……、とは、詳しくはどういう事だ」
真相。この一言でまとめるが、問題として提起出来るほどの証拠や言葉は、今のコペルには持ち合わせていない。この吸血鬼には何かある、という事、自分の見た、正しくはリズが見せていた夢の正体、その意味についても重要な何かを秘めていると思っているだけだ。
しかし、この場には返答出来る者が1人いた。その男、龍一が口を開いた。
「物語……だ。そしてあいつらの探すものはエンディング……。それだけは俺の言える事だ」
物語。その言葉を辿っていけば、コペルには1つ心当たりがあった。
「そういえば、マックスが常に本を読んでいた。あの本と何か関係があるのかもしれない」
「とすれば、目標はマックスだな」
「しかし、どうやって会えばいいんだろう」
一同はうーん、と考え込む。しばらく経ってから、武情の口が開いた。
「カルマだ。あいつに会いに行こう」
皆は武情の方を見る。
「会えるのか?」
「ああ、貸しもあるだろうしな」
「貸し?」
武情はニヤリと口角を上げ、彼方を見つめる。
「俺か?」
「まだ教えてもらってないだろ、お前の母親の居場所を」
「あ! そういえば」
「決まりだな」
一同は立ち上がった。またひとつ前進していくのを誇らしく思った。
「龍一、これからどうする」
「そうだな……。俺と彼方はここにいることにする。まだ怪我が治ってないからな。それと武情は引き続きこの家の門番だ」
「ということは、私とコペル、2人でカルマに会いに行けばいいのね」
「そういう事だ。頼んだぜ、2人とも」
早速星子は立ち上がり、玄関へと向かう。その勢いに引っ張られるように、コペルも後に続く。
「場所はシャッター街だ。あそこにいつもいるからな」
「分かったわ。行きましょ、コペル」
「ああ、でも、ちょっと待って」
コペルは言いにくくてまだ言えていないことを、皆に伝えるべく立ち止まった。彼には言わなければならない事がある。それを伝えるべく、首に提げたネックレスの、小さなダイヤモンドをギュッと握りしめ、キッと視線を上げた。
「皆、もう分かってるかも知れないけど……。俺はまた、新しい能力が備わろうとしてる。それはつまり、2つ目の能力が自分にあるということ……。だから、俺は……」
「吸血鬼、か?」
龍一はニヤリと口角を上げてコペルを見つめていた。彼方は奥の部屋からヒラヒラと、手を振っている。武情はただ腕を組んで話を聞いている。
「俺たち、友だちだろ。何があってもな」
「龍一……」
「改めてさ、皆。これからもよろしくな。絶対にすごいこと成し遂げよう」
「うむ」
「ああ」
ニヤニヤしながら家に残る3人が拳を合わせる。
「あんた達、家にいる癖に何言ってんのよ! 私たちの方が先にすごいことやっちゃうんだから。ね、コペル」
星子が輝かしい目でコペルを見る。
「う、うん」
決まりね、と言わんばかりに星子は家を出る。
「行ってこいよ、コペル。そんで、絶対帰ってこい」
龍一はコペルをしっかりと見据える。心配すんな、仲間だろ。そう伝えたかった。
コペルはただ、うんと頷いて外へと出ていった。本当に嬉しかった。そして、この事はまた、これからの1歩への力になるだろうと、思った。
「さ、行くわよ、コペル。目指すはシャッター街ね」
「ああ、絶対見つけるんだ。ゼッターの探していた、本当の楽園を……」
一方、シャッター街。ここには吸血鬼、カルマが住み着いている。それを知っていて、テラスはここまで来た。
「カルマ……。いるんでしょ……。」
2階の窓からバサリと降り立つカルマ。テラスを一瞥して、驚きを隠せないでいた。
「お前がそこまで深手を負うとは……。」
「そんなことはいい……。楽園への入口はもうそこにある……。」
テラスはマントを翻す。そこには1人の女性が立っていた。
「この女は……」
「能力者……。人間のね。この女を使って、斑木コペルを捕らえなさい……」
テラスはそう言い残して、ずるずると足を引きずり去っていった。
後ろ姿を見送りながら、カルマは思うことがあった。
「楽園……。マックス、お前はまだそんなものを追ってるのか……。」
カルマは、テラスが置いていった女性を見つめる。心ここに在らずと言ったような顔つき。恐らくはテラスの第2の能力、フィギュアによって操られている。
何も無い。この世にほしいものはもう、何も無い。リズもゼッターもそうだった。楽園よりも、皆でしずかに暮らせればそれで良かったのに。ただ、少数の理解ある人間とだけ交わって生きて行ければ、それで良かったのに。
カルマはまた、楽園を目指す。テラスの思いも捨てきれないでいる自分がいる。あいつの夢も叶えてやりたい。そう思って、カルマは女性を連れ、シャッター街の家屋へと姿を消した。
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