さよなら、先輩。

本編

1

ーーさよなら、先輩。

先輩。僕はあなたが大好きでした。
出会った頃のこと、覚えていますか？

あなたを初めて見た時、息が詰まる程の衝撃を受けた。
すごく、綺麗な人だと思った。
きっと一目惚れだったのでしょう。
でも、一緒に過ごすようになって、あなたの優しいところや素敵なところがどんどん見えてきて、いつの間にかあなたの全てを好きになっていました。

校内でも人気で、告白の絶えないあなたが、他の人の告白を断って僕と一緒にいてくれること。僕とあなたが付き合っているという噂が流れても、否定しないでいてくれたこと。



その全てがとてつもなく嬉しかった。

告白避けだと分かっていても、期待してしまう心を抑えられなかった。

幸せだった。

このまま、この日々が続いて欲しいと切に願った。

でも、あなたはもうすぐ卒業してしまう。
僕はあなたがいない学園で今までどおり笑って過ごせるか分からない……それぐらいにのめり込んでいた。

大好きだった。

すごく、すごく。

あなたの一挙一動に喜んだり、悲しんだりしてしまう。

あなたは感情が忙しいやつだな、と言って笑うけど、全てあなたのせいだった。

あなたの全てに心がざわめいて……。
こんな感情、僕は知らない。知りたくなかった。苦しい。たすけて。

―そばに、いさせて。


苦しくたってあなたの傍に居られるのなら、我慢するから、だから、どうか、このままで居させて―

毎日そう願っていた。

そんなある日の事だった。寮までの道のりの途中、いつもの様に他愛もないことを話しながら歩く帰り道。
ふと顔を上げたら、思っていた以上に近いところに、先輩の綺麗な顔があって。
目の前が先輩で埋め尽くされて。
びっくりして固まって動けなくなった僕の頬に


先輩が手を添えた、ことまでは、わかった。
その後、唇に柔らかな感触が一瞬。
直ぐに離れていってしまったけど。

――何が起きたのか、わからなかった。
先輩が何事も無かったかのように僕の斜め前を歩き始めてからようやく、我に返った僕は、理解した。



先輩に、キス、された。

そう理解した瞬間、かぁっと顔に血が上る感覚がした。