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所長の一日

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「ご苦労様、今日も宜しくね」
オペレーションセンターは、24時間交代制なので、切れ目がありません。

そのために、一日に一回は、その時にシフトに入っているメンバーだけでミーティングの時間を取っています。

そのような特別なミーティングを行う事で、切れ目のない仕事にメリハリを付けているのです。

通常は、朝9時に朝ミーティングを行っているのですが、平日は所長さんも参加しています。

オペレーションセンターは、バイトリーダさんとバイトさんが回しています。だから、IT企業の社員である所長さんがオペレーションセンターに常駐する事はありません。

だからこそ、所長さんは平日の朝9時のミーティングを大事にしています。必ずオペレータさんのミーティングに顔を出して、皆に声をかけていくのです。

所長さんのオフィスの机の上には、その日に働くオペレーターさんの一覧表が置いてあって、必ず目を通してから朝のミーティングに来るそうです。

所長さん曰く、オペレーターさんが頑張っているから、僕達も安心してATMの管理を出来るんだそうです。その所長さんの下に、銀行員OBの副所長さんや、小田切さんのような技術支援の人達が私たちの電話オペレーションを支えて下さるのです。

ロマンスグレーな所長さん、自宅はオペレーションセンターから電車で一駅なのですが、重さ3トンの大型SUVで毎日通勤しています。

ずいぶん前から腰を悪くしているので通勤電車が大の苦手なのだそうです。それに、以前タクシーに乗っていた時に、後ろから衝突されてひどい目にあった経験から、前後左右どこから車が突っ込んで来ても耐えられる車に乗り換えたそうです、凄いですね。

その代わり、戦車みたいな車なので燃費がものすごーく悪いんだ、と嘆いています。

「じゃあ所長さんは普段何しているのかしら?」

岩寺裕子さんはリーダーの小田さんに聞きました。

「実は、日本中を飛び歩いているそうよ?」

リーダーの小田さんは先ほど受け取った資料に目を通しながら答えてくれます。

「えー?だって毎日会社にいらっしゃるんじゃあ無いですか?」

「実はATMの売り込みも所長さんの仕事なの……」

「えー!所長さんATMをコンビニに売り歩いているのですか?」

「うーん。違うわよ裕子ちゃん。銀行に売り込みに行くのよ。ATMのサービスを銀行と直接契約を結んだりするらしいの」

「えー、小田さん私意味がわからないです。だってどの銀行もコンビニATMでお金が下ろせますよね?」

「大手銀行はそうだけど、地方銀行や信用金庫はまだ直接契約していない銀行があるんだそうよ。その場合は大手銀行のATMで地方銀行のカードを使っている様に、手数料が余計にかかるの」

「えー、そうなんですかー。私って都市銀行のカードしか持ってないから気にした事なかったです」

「都市部ではもう不便しないものね。だから気がつかないけど、コンビニATMの最初の画面、じっくり見た事ある?裕子ちゃん」

「えー? ああ、そう言えばどの銀行は何日は使えません。て書いてある画面ですよね」

「ウフフ、普通はそのぐらいしか見てないわよね? あの画面に提携先の銀行一覧表とかが表示されてるのよ。見たことあるかしら」

そう言いながら、オペレーションセンターに置いてある実習用ATMの前に岩寺裕子さんを連れて行きます。

オペレーションセンターには、お金こそ入っていませんが、実際にコンビニにあるのと同じATMが置いてあるのです。

お客様からの問い合わせに、直接このATMで操作を確認するためです。

プログラム仕様書に書いてある事と、本当のATMと動きが違うこともあるそうなんです。プログラムを書く人は、それを『バグ』と読んでいるそうです。

プログラムの中に小さな虫が入り込んで悪さをしていると言うことなんでしょうね。

リーダーの小田さんは、その操作確認用のATMの前まで来て、画面を触ります。

――― ピポッ! ―――

軽やかな音と共にATMが起動します。普段はスリープモードとかになっているらしいです。

その画面には「いらっしゃいませ」の文字の下の方に、小さく「提携銀行一覧」という見慣れない文字があります。
リーダーの小田さんはその文字の部分を軽く触ります。

――― ポン! ―――

軽やかな動作音と同時に画面が変わります。そこには、細かい文字が綺麗に並んでいました。
それは、色々な銀行の名前とその銀行のキャラクター達でした。小田裕子さんも知らない地方銀行や信用金庫の名前もあります。

「へぇー、私も知らない銀行が沢山あるのですね!これらの銀行のカードを使えば余計な手数料は取られないんだ」

「そうよ!裕子ちゃん。東京の人たちは殆ど都市銀行のカードだから気が付かないけどね、ウフフ」

「そうかー、所長さんも大変なんですね。ナイスミドルのおじ様だけじゃぁなかったんだ……」

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