異世界の管理人

街を歩く

それから四人と一匹は、何とか街のある駅に着いた。

「ここは、大きなお店が沢山あるのです。だから休日になると沢山の人が買い物に来ます」
「今日は、平日なのであまり人が居ないのです。ですから、今日は買い物をするのには適しています」

そういいながら、男の子は女の子の手を引いて、駅前からつらなる商店街を歩き始めた。
女の子は、もう完全に男の子に手を引いてもらうのが普通になってしまっていた。

「おお、それでも多くの人々が街中を歩いているではないか。休日とかになると、もっと多くの人が出て来るのか」
「人間というものは、こんなに沢山生活しているのだな。それに、こんなに狭いところでも、多くの人間がお互いにブツカラナイで歩けるか。なんてすばらしい反射神経なのだ」

「そうですね、お互いにぶつからないで歩けるのは、異国の人から見たら不思議かもしれませんね」

「これは、何かの魔法で、お互いに当たらないようにしているのでしょうか？」

「いえ、これは慣れだと思います。小さい頃から集団生活をしているようなものなので、周りにいる人間がどのように動くか体が覚えているのですね」

「なんと、この国の人間は小さい頃から集団で戦う訓練をしているのか！」

「いえいえ、戦闘訓練ではありませんよ。社会にでて働くために集団の生活が出来るように教育を受けているのです」


「しかし、個々人の性格や能力を無視しているという事だろう。個性よりも集団で行動する訓練ではないか？」

「まあ、確かに日本では集団行動から外れる者は、忌み嫌われますね。確かに、異国から見たら不思議な光景ですね。いままで気にしていなかったですけど、よく考えたら変ですね」

「あら、あそこは何を売っているのかしら。美味しそうな匂いがしますわ」

「うむ、確かに旨そうだな。ちょっと入っていくか？」

「そうですね、大分歩き疲れたでしょう。一度休憩にしましょうか。マリアさんもお疲れになったでしょう。」

「はい、神宮司様、私もなれないことが多くて、大分疲れてしまいました。皆様、歩く速度が速いのですね。なぜだか、さかさかと歩いているように感じましたわ。もうすこしゆっくりと歩けばいいのに」

「そうですね、時間がが限られている事が多いので、みんな早歩きですよね。少しでも早く移動して、その分色々な場所に行きたいのでしょう」

「やはり歩くスピードも訓練した結果か？老若男女とも、恐ろしいスピードで歩いておるのう」

「確かに、みんな歩くの早いですね。具体的な目標があるのでしょうけど、周りを見回す余裕が無い歩き方ですね。ハデスさんやマリアさんに言われて、気がつきました」

「まるで何かに追い立てられるような歩き方ですわね。ほら、あの方なんか、ほとんど走っている様に見えますわ。そこまで急いで何処に行くのかしら？まさか御手洗いに行きたくて焦っているのかしら？」

マリアさんは、御手洗い、という言葉を言ってから、隣に男の人が居るのに気がついて、恥ずかしそうに顔を外らせた。ホホが赤くなっているのが男の子にも分かった。

「僕も今まで普通だと思っていた事が、何故だか不思議に思えて来ましたよ。ハデスさん達の様に別の角度から見る事も大事ですね」

「それじゃあ、そこのレストランに入って休憩しましょうか」


そう言うと、男の子は、受付の女の子の手をしっかりと握りながら女の子をレストランの中に連れて行った。
男の子の動きに、さっきから女の子は振り回された状態だった。
その為に、女の子のポシェットにぶら下がっているドラゴンはさっきからすごい勢いで揺れている。

「うーん、今晩はドラゴンさん、アレそうだなあ」
「帰りに風呂とかに寄って疲れを癒した方が良いだろう」

「でも、ハデスさん。私達はほぼ人間の姿をしているのでバレないと思いますが、ドラゴンさんは私の魔法では人間に変化させられませんよ。如何いたしましょう？」

「大丈夫だよ、サリーさん」
「どうもドラゴンさんは、自分の体を見えなくする技をお持ちの様じゃないか。それを使ってカラダを透明にして湯船に浸かれば良いのでは無いか？」
「ただし、湯船に浸かる人間が多いとバレてしまうだろうから、人間がお風呂に沢山くる前に入った方が良いだろう」

「そうですね。私達も今日は疲れてしまいそうですものね。ユックリとお湯に浸かりたいですわ」

主任と西の魔女は、そう言う会話をしながら、若い二人の後について、レストランに入って行った。