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第三章
【第十三話】天神様の花嫁⑦
しおりを挟む貴女なら、夫(仮)と同じ姿の者であれば夜を共に出来る?私は——否だ!
柊華はいくら目の前に居るセフィルが過去のセフィルであっても、無理なものは無理だと考え、彼の“夜伽要求”を拒否した。
見た目がどうとかでは無く、あくまでも柊華が好きなのは“今現在のセフィル”であって、こんな意地の悪そうな噛んでばかりくる男では無いのだ。
「無理なものか。我はお前を抱くのはもう決定事項だ。此処へ来たのだからな、お雪と同じ経験をお前に与えてやろうぞ」
柊華の拒否はアッサリと却下された。暗い笑みを浮かべられながらだったせいか、柊華にはどうしたって死刑宣告にしか聞こえない。
「そうだな…… 『お前の心は誰に捧げたのだ?』」
妙に演技めいた声でそう言い、セフィルが柊華へと躙り寄る。両手を前につき、その姿と眼差しはまるで獲物に近づく肉食獣だ。
「え?な、何を言って——」
訳が分からず言葉が詰まる。
眦に軽く涙を溜め、柊華が首を軽く横に振った。怖いとかいう感情よりも、ただどうするべきなのかわからない。セフィル以外になど抱かれたく無い。でも、彼も確かにセフィルなのだ。最前の答えなど、そう簡単に見付かる訳が無い。
体は否応無しに疼いてセフィルを求めるが、心は過去の彼に抱かれる事への抵抗が拭えず、柊華はまた後ろへゆっくりさがりながらも、返事をしない訳にもいかず、声を張り上げた。
「セフィルさんですっ!」
半泣きになりながらも、柊華が断言する。
黙ったままでいてはまた怒りを買うかもしれない。でも彼のしたい事がいまいち読めないので、もう本心をそのままセフィルにぶつけるしか無かった。
「ほぉ…… 。そう面と向かって言われると流石に照れるな」
顔を軽く逸らし、セフィルが頰を赤らめた。なかなか見れぬ反応を前にして、柊華の口元が少し緩む。夜伽は断固抵抗の意思が、いとも簡単に少しだけ揺らいだ。
「我のお雪も…… そのくらい一心にこちらを見てくれたなら、こうも腹立たしい気持ちにならんのだがなぁ」
セフィルの瞳が切なげな色を秘め、顔色が曇る。どうやらお雪さんはここに至るまでの経緯で随分と彼の事を傷付けていたみたいだ。
「柊華…… 。お前には悪いが、我は怒りが治らん」
外していた面を手に取り、セフィルが烏天狗の面で顔を覆った。途端、銀色だった垂髪が黒色へと戻り、柊華にとって馴染み深い雰囲気が一気に消えてしまった。
「『お前は天神の嫁だ。幼馴染とかいう、ぽっと出の輩に渡すと思うか⁈』」
演技地味た声をあげ、仕切り直したかの様にセフィルが柊華の胸に噛り付く。だが今回は肌を食い破る様な痛みは無く、甘噛み程度に留めてくれる。“お雪”への怒りはあれど、“柊華”に対しては微塵も無いおかげだろう。
「んあぁっ」
背が逸れてしまい、柊華が後ろ側に手をついて咄嗟に体を支えた。
「か、彼とは…… な、何もっ」
吐息が乱れながらも、必死に柊華が弁解する。だがセフィルは御構い無しに胸の膨らみを噛みながらも舐め、露わになっている桜色の尖りを指先で愛撫しだした。
「あぁ、知ってる。柊華は、何度も何度も奴から距離を取っていたからな」
「み、見てぃっ、んっ!」
尖りまで甘噛みされ、まともに話せない。
「当然であろう?その為の烏達だ。嫁の全てを見て、全てを手にする権利が夫にはあろうて」
「無いですよ⁈」
「我の言葉を否定するのか。——ふむ。やはり、お前の夫となる時の我は随分と丸くなったフリをしておるようだな。お前の人生を支配し、その身を喰い尽くすだけでは飽き足らず、心まで絡めとり、甘い蜜に叩き落としてしっかり一括管理しておるのだろうなぁ。“記憶”でしか無い我では参考にも出来んのが残念だ」
くっくっくと笑いながら、セフィルが胸から口を離し、白無垢の帯に手をかけた。
「だ、だめですぅ…… 」
拒否の意を示したが、もう体が溶け始めたせいで己の身だというのに言うことをきかない。全身に力が入らず、投げ出した脚はガクガクと震え、肌が薄っすらと汗ばむせいで着物が張り付く。
「まあ…… 我も、お雪があの糞餓鬼と駆け落ちじみたやり取りをしなければ、優しく愛してやったのだがなぁ」
やり場の無い怒りがジワリと心に湧き出てしまい、セフィルの右目が狐火の様に燃えて始めた。熱くはないが、可視化された嫉妬心が柊華の心に不安を与える。今から何が起きるのかと、考えるもの怖い。
なのに…… 体は心とは相反してぞくりと震え、陰部からとろりと蜜が溢れ出した。胸の先はピンと花咲き、もっと愛して欲しいと懇願している。
「中身が違えば体も随分と素直になる様だ、いやらしい香りをさせおって」
面の奥に見える瞳が、楽しげに弧を描く。息が少し乱れ、セフィルも興奮している様だ。
「で、でも…… 彼女も駆け落ちは断って、ここへ…… 来たのでは?」
息も絶え絶えに、柊華が疑問を口にする。体に力が入らず、今にも布団へと崩れそうだ。
「あぁ、来たな。だがそれは、我の怒りを恐れたからというだけの事。愛しての行為では無い。やはり…… 体が熟すまで見守るというのは考えものだな。次からは側でしっかりと見張らねば、嫉妬で気が狂うわ」
そう言うが同時に、セフィルは柊華の両膝に手を置いて、無理に脚を広げさせた。開脚させられたせいで白く細い脚が彼の前に晒され、恥ずかしさから柊華が視線を逸らす。だが、その羞恥がまた刺激となり、呼び水となって、陰部から零れ出た蜜が太ももへと流れ落ちてしまった。
開き切った体はもう『彼は私のセフィルさんじゃない』という想いを打ち消してしまう。早く早くと次を期待して、心音がやたらと騒がしい。
「セフィルさぁ…… ん」
「…… 随分と艶のある声で鳴くなぁ、お前は」
烏天狗の面をした顔を柊華に近づけ、セフィルが軽く口付けを交わす。そして、舌先で彼女の唇の輪郭を舐めつつ、彼は体温の無い手を柊華の太腿の根元へと入り込ませた。
「白無垢姿のままというのがまた興奮するな。…… 柊華、お前もそうなのであろう?ん?」
柊華の鼻先に面の尖った嘴を擦り付け、セフィルが陰部の恥丘をそっと撫でる。蜜が指先に絡み、撫でるたびに卑猥な音が寝殿造風の室内に響いた。
「ち、ちが…… 」
快楽に震える身では上手く言葉にならず、最後まで言えない。
反射的に否定してしまったが、内心は同意してしまいたい気持ちで一杯だった。上に羽織る打掛も、頭に被ったままである綿帽子もかなり邪魔なのに、邪魔が故の拘束感と、婚礼衣装のままという背徳感が快楽へと移行してしまう。
「本来なら微塵も濡れておらぬココへ、無理に捩じ込み、破瓜の痛みと切なさに泣き噦るお前を強引に抱き続けた流れなのだが…… 柊華がコレでは、すんなりと房事を営めそうだ」
「…… ぼうじ?」
上がる息のまま、柊華がボソッと呟いた。
「ん?房事も知らぬのか?閨房で夫婦がおこう事と言えば一つだろうて。なぁ」
恥丘をそっと撫でていた指を離し、セフィルが着ている陰陽師の衣装にも似た下衣の結びを解く。
陰部中への刺激を多少なりとも期待してしまっていた柊華が、口元を引き結んで消えた悦楽を求める声をあげぬ様に耐えている間に、セフィルが着物をほぼ脱ぎ捨て、中に着ていた単一枚だけの姿になった。
羽織る黒衣の単の隙間から覗く、男らしく盛り上がった胸筋と、見事に割れて引き締まった腹筋とに薄っすらと汗が伝って色っぽい。下腹部に見える怒張はもう今にも弾けんばかりな状態で、ソレから与えられる淫猥な快楽を骨の髄まで知る柊華は、眼前の存在にごくりと喉を鳴らしてしまった。
「ほう?随分と淫乱な反応をしてくれるなぁ、柊華は」
些細な反応にも目敏く気が付き、セフィルが楽しそうにニヤリと笑う。面のせいで口元しか見えずともその事が柊華にはわかり、それさえもがもう体に甘い痺れ与える材料となった。
セフィルが柊華の着る打掛を脱がせ、帯などを緩める。だが、全てを脱がす様な真似はせぬまま、半端に乱れた彼女の体を敷かれた布団へと押し倒した。
「今この瞬間を覗き見たからには、このままその身を解さずに破瓜を味わってもらうが…… 我を恨むなよ?」
横たえた柊華へと覆い被さり、しっかり目を見詰めてセフィルが告げる。強引には挑まぬだけ有難いと思えと、鮮やかに狐火が灯る瞳が物語っていた。
はいとも、いやだとも言えず、柊華が黙り込む。
こんな事をしては駄目だという気持ちを一瞬取り戻したが時既に遅く、柊華の陰部へとセフィルが怒張の切っ先を当てがい、互いの蜜を軽く馴染ませ始めた。
ぬるり異物が擦れる感触を下腹部に感じ、火照る体から汗が吹き出す。柊華の愛らしい口元からは愛らしい嬌声が溢れでて、セフィルの加虐心をおおいに擽った。
「あれだけ『駄目だ』と言っておったのが嘘の様な従順さだな。自画自賛したくなる程の調教っぷりだぞ?くっくっく…… 」
楽しそうに笑う顔に向け、柊華がゆっくり腕を伸ばす。その仕草が『早くきて』という意思表示だと受け取ったセフィルは、下腹部の奥に感じる本能的な衝動を抑えぬまま、今は柊華でもある“お雪”の身を、思いっ切り引き裂いた。
「あぁぁぁっ!」
刀の一撃でも受けたかの様な声を柊華があげた。小柄な“お雪”の体には荷が重過ぎる怒張の一突きはまさに凶器で、破瓜の痛みに体が強張る。背にする布団をギュッと必死に掴み、柊華が何度も何度も浅い呼吸を繰り返して痛みを逃した。
柊華の感じる快楽に反応し、大量に溢れ出してしまった蜜が潤滑剤となってしまったせいで、一気に奥まで突き上げれてしまったのが、裏目に出てしまったようだ。
「…… 柊華」
心配そうな声で名を呼ばれ、柊華の心がきゅんと掴まれる。聞き慣れた声のトーンと雰囲気が耳に入り、とても心地いい。
「セフィ…… ルさ…… 」
柊華が頑張って呼び掛けに応えようとすると、セフィルの口元が一瞬強張った。“柊華”には優しくしたい気持ちと、“お雪”に対しての苛立ちとが胸の中でせめぎ合い、心を掻き乱す。怒りを叩き込みたいが、痛みを感じているであろう箇所を癒して、甘やかし、『この我をも愛してる』と言わせてみたい衝動に駆られる。
全てが欲しい、お雪の体も、柊華の心も——
「う、うごぃ…… ても、へい…… き、ですよ?」
明らかに強がっているのが見て取れたが、そんな柊華の虚勢がまたセフィルの琴線に触れてしまい、張っていた糸が見事に切れた。
「そうか…… くっくっく——」
苛立ちと嫉妬心と、可愛くて可愛くてしょうがない気持ちとが入り交じった心を胸に抱えたまま、セフィルが暗い笑みをうかべる。
「好きにしていいというのならば、もう貪るしかあるまいなぁ」
その一言を聞いて、柊華はちょっとだけ後悔したのだった…… 。
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