古書店の精霊

月咲やまな

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第三章

【第三話】把握出来ない状況③

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 “お雪”という女性の幼馴染だという男に背を押されながら、柊華が家々の並ぶ方向へと歩いて行く。
 陽はどんどんと落ちていき、寄り添う様に田舎道を歩いて行く二人を夕陽が照らす。春先を思わせる空気はまだ少しこの時間だと冷たくて、前から吹く風のせいで柊華が体を震わせた。
「大丈夫か?お雪。何か羽織るもんでも持ってきてやったらよかったな…… すまねぇ」
「平気です。えっと…… 」
 名前がわからず、言葉が詰まる。すると、その事を察したのか、男は「三郎だよ。もう忘れんなよ?」とはにかみながら柊華に教えた。
「あの、三郎さん。結局ここは一体何処なんですか?」
「白鷺村だけど、んな事まで忘れるかぁ?あはは」
(いや、だから忘れる以前の問題なんだけど…… この人全然話し通じないし、困ったなぁ)
 柊華は軽く額を押さえながら、ふぅと息を吐き出した。
 やっと地名と彼の名前を聞き出せはしたが、全然知らない村の名前だ。これではさっきまでと何も進展がない。もっと状況を把握する為には情報があまりに足りない。どうしたもんだろうかと柊華が困り果てている間に村の中までたどり着き、三郎が声をかけてきた。
「おばさん、心配してたぞ。…… 村から、逃げたんじゃねぇかって」
「逃げる?えっと、何からですか?そう言えばさっきも、『生贄』がどうだって——」
 柊華が三郎の顔を見上げながら疑問点を訊こうとした時、年配の女性が「お雪ぃぃぃ!アンタ何処に行ってたのよ!」と悲鳴に近い声をあげて柊華の言葉を遮った。
「探したのよぉ!村中の人にまで迷惑かけて、何考えてんの。こんな大事な時に…… 」
 頭を白い頭巾で包み、くすんだ色をした着物姿の年配の女性がそう大声で言いながら、柊華達の方へとズカズカと近づいて来る。白頭巾を被る女は彼女の前に立つと、バシンッと激しい音をたてながら柊華の頰をひっぱ叩いた。
「おばさん!やめろよ!こいつの気持ち、アンタだってわかんだろ⁈」
 口元を震わせ涙ぐむ女から、三郎が柊華をかばい、逞しい胸の中に抱く。知らない男性の腕にその身を包まれ、柊華が反射的に腕を突っ撥ねて距離を取った。
「ご、ごめんなさい。何かご迷惑をおかけしたみたいで」
 何に対し叱られているのかもわかぬまま、柊華が謝った。理由もわからぬまま謝るのは最善では無いが、この状況を丸く納めたい気持ちで一杯だった。

「おぉ、やっぱ三郎が見付けたかぁ」
「早よ準備せぇ。明日には出発だぞ?」
「今夜はご馳走だ。そっちの用意もあと少しで終わるそうだから、もう行きや」

 騒ぎに気が付いた他の村人がやって来て、好き勝手に言葉を口にする。
「今向かわせますんで。ほら、行くわよ、お雪!」
 白頭巾の女はそう言うと、柊華の手を掴んで引っ張り、一軒の家の方向へと歩き出した。
「お雪、俺も後で…… そっち行くから」
(いや、だから私はお雪じゃ無いってば)
 そう思いながらも、唯一の知り合いとなった三郎へ、柊華は頷いて返したのだった。
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