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本編
【第8話】偶然
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あれからというもの、その次の週も、また次も——先週と似たような流れで、みどりは宗一郎に家まで送ってもらった。初めて遅刻し、彼に会った日から、かれこれ半年近く経ったが、今ではもう送ってもらう事が当たり前の事となったのだから、みどりはにやけ顔が止まらない日々を過ごしている。
今日の授業が終わり、みどりが家庭教師とは別の、もう一つのバイト先に行く為に電車に揺られている。目指す先は古い商店街に去年できたアイスクリームのお店で、彼女は開店当時からバイトをしている。毎朝天気や湿度など色々チェックしたうえで店長が作る手作りアイスは好評で、雑誌やテレビで紹介された事も数回ではない。その為、常に混んでいるので、こちらも遅刻は厳禁だ。
電車を降りて、商店街の方へと通い慣れた道を歩く。近道となる公園に入り、噴水の横をみどりが通った。
浅めの噴水の中には、子供達が楽しそうに遊んでいる。
夕方になっているとはいえ、真夏のこの時期はまだまだ暑く、親に見守られながら楽しそうに遊ぶ子供達がみどりはちょっと羨ましいなと思った。
(脚だけでもいいから、噴水に入れられたら気持ちいいだろうなぁ…… )
子供達を横目に見つつ、先へと進む。
「…… みどりさん?」
不意に聞こえる聴き慣れた声に、みどりが歩みを止めた。
声の方を振り返るとそこには、とても驚いたといった表情の宗一郎が立っていた。
「…… こんな所で会うなんて、ビックリしたよ」
「宗一郎さんこそ、どうして公園に?」
お互いに驚きを隠せないまま、みどりも訊く。
「ああ、ちょっと仕事で近所までね。また会社に戻らないといけないんだけど、ちょっとだけ休憩をしていたんだ。なかなかこんな場に来る機会なんかないから、たまには寄るかって思ってね」
「そうだったんですか」
嬉しさにみどりの頬が緩む。心なしか頬も少し赤くなっていた。
(偶然とはいえ、金曜以外にも会えるだなんて…… すごく運がいいかも!今日の占い、もしかして私の星座一位⁈)
「みどりさんは、これから家に帰るのかい?」
「いえ、バイトに行くところだったんです」
「そうか。ごめん、じゃあ急がないといけないね。呼び止めちゃって悪い事したかな?」
宗一郎がそう言って、すまなそうな顔をした。
「いえ!時間には余裕をもって行動してたんで問題ないですよ。『遅刻はダメ!』ですからね」
両手を軽くふりながらみどりがそう言うと、ちょっとホッとしたといった表情で宗一郎が安堵した。
「そうか、ならよかった」
それでも長くは話せないな、と宗一郎は考えたが、それでもこうやって少しでもみどりに会えた喜びで胸がいっぱいだ。
生活圏がかぶっている事の幸せを、二人はこっそりと噛み締めたのだった。
今日の授業が終わり、みどりが家庭教師とは別の、もう一つのバイト先に行く為に電車に揺られている。目指す先は古い商店街に去年できたアイスクリームのお店で、彼女は開店当時からバイトをしている。毎朝天気や湿度など色々チェックしたうえで店長が作る手作りアイスは好評で、雑誌やテレビで紹介された事も数回ではない。その為、常に混んでいるので、こちらも遅刻は厳禁だ。
電車を降りて、商店街の方へと通い慣れた道を歩く。近道となる公園に入り、噴水の横をみどりが通った。
浅めの噴水の中には、子供達が楽しそうに遊んでいる。
夕方になっているとはいえ、真夏のこの時期はまだまだ暑く、親に見守られながら楽しそうに遊ぶ子供達がみどりはちょっと羨ましいなと思った。
(脚だけでもいいから、噴水に入れられたら気持ちいいだろうなぁ…… )
子供達を横目に見つつ、先へと進む。
「…… みどりさん?」
不意に聞こえる聴き慣れた声に、みどりが歩みを止めた。
声の方を振り返るとそこには、とても驚いたといった表情の宗一郎が立っていた。
「…… こんな所で会うなんて、ビックリしたよ」
「宗一郎さんこそ、どうして公園に?」
お互いに驚きを隠せないまま、みどりも訊く。
「ああ、ちょっと仕事で近所までね。また会社に戻らないといけないんだけど、ちょっとだけ休憩をしていたんだ。なかなかこんな場に来る機会なんかないから、たまには寄るかって思ってね」
「そうだったんですか」
嬉しさにみどりの頬が緩む。心なしか頬も少し赤くなっていた。
(偶然とはいえ、金曜以外にも会えるだなんて…… すごく運がいいかも!今日の占い、もしかして私の星座一位⁈)
「みどりさんは、これから家に帰るのかい?」
「いえ、バイトに行くところだったんです」
「そうか。ごめん、じゃあ急がないといけないね。呼び止めちゃって悪い事したかな?」
宗一郎がそう言って、すまなそうな顔をした。
「いえ!時間には余裕をもって行動してたんで問題ないですよ。『遅刻はダメ!』ですからね」
両手を軽くふりながらみどりがそう言うと、ちょっとホッとしたといった表情で宗一郎が安堵した。
「そうか、ならよかった」
それでも長くは話せないな、と宗一郎は考えたが、それでもこうやって少しでもみどりに会えた喜びで胸がいっぱいだ。
生活圏がかぶっている事の幸せを、二人はこっそりと噛み締めたのだった。
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