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本編
【第12話】伝えたい気持ち③
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いつもの椅子に座ったまま、みどりは今後はどうしようかと考えている。
宗太の気持ちを知ってしまったというのに、何食わぬ顔でアルバイトを続けてもいいものなんだろうか?
だが、このバイトを辞めてしまっては宗一郎に会うことが出来なくなる。
——その事が引っかかり、なかなか先の事への結論が出せない。
どうするべきか迷い、みどりが深いため息をついた時、ノックする音も無く部屋のドアが開き、宗一郎が宗太の部屋へと入って来た。
「今いいかい?」
宗一郎が出来るだけ穏やかな声でみどりへ訊く。
無言で頷くみどりの側に行き、机の上へ出しっぱなしのまま放置されていた彼女の荷物をまとめ、彼がその鞄を手渡した。
「今日はもう送ってあげてくれって」
「……あ。わかりました」
暗い声で返事をし、受け取った鞄をじっと見詰める。椅子から立とうとはせず、ぼうっとしているままだ。
そんなみどりを見かね、宗一郎がそっと彼女の頬へ手を添えた。すると、そんな些細な事なのに、ドクンッと心臓が跳ね上がり、頬が赤みを持ち始めた。脚が軽く震え、じわりと体の奥に疼きを感じる。ちょっとした“パブロフの犬”状態だ。
「まるで、みどりさんの方がふられたみたいに見えるよ?」
俯きながら何と返事をしていいのか思い付かず黙っていると、頬に触れる手が顎に移り、くっと上を向かされた。
近い位置で視線が重なり、みどりの頬が更に赤くなる。口元を引き絞り、彼女は必至に震えてしまうのを堪えた。
「元気を出せとは言わないが、君が落ち込む事はないよ。好きでもないのに付き合う方が、相手に失礼だろう?」
宗太が宗一郎に話した事に少し驚いたが、それ以上にみどりは彼の言葉が気になった。
(それってつまり、自分は好きでもない子とは付き合えないって事だよね…… 。お試しでとか、お友達の延長みたいなお付き合いは無理って高難易度だあぁ)
みどりは切ない気持ちが顔に出てしまい、それを間近で見る宗一郎の心も苦しさを感じた。
「くっ」と短い声をもらし、みどりの顔から宗一郎が手を離す。
膝に置かれたままのみどりの鞄を宗一郎が持つと、彼女に背を向けて、ドアの方へ数歩歩き、「送っていくから」と呟いた。
◇
階段をゆっくり降りながら宗一郎が思い出すのは、当然先程のみどりの表情だ。
自分以外の人間が彼女の心を掻き乱しているのだと思っている彼は、その事が気に入らなくて仕方がない。それがたとえ自分の血の繋がった弟であっても、みどりの心にあるのは自分だけでいい、自分だけでなくては駄目だ…… 。
黒い感情が心を占め、宗一郎は宗太に対して嫉妬心さえ感じた。
無言のまま宗一郎の後にみどりが続く。
(このまま、もうここには来られないんだろうなぁ…… )
そんな事をぼんやりと考えながら階段を降りていると、公園での出来事をふと思い出してしまった。自分に背を向け、公園から立ち去った宗一郎の後姿が、階段を降りていく今の姿に被ったせいだろう。
(そういえば、彼女とは何かあの後あったんだろうか?宗太君の言ってた、泣かされた人達っていうのは何の事だろう?)
ぐたぐたと色々考えながら、みどりが玄関で靴を履いていると、宗太が居間から顔を出してきた。にこっと笑い、「来週またね」と言って、みどりへと手を振る。
その笑顔に対してどう返して良いのかわからず少し戸惑ったが、またここへ来ても良いんだと思うと、みどりは少しだけ気分が楽になった。
「……おじゃましました」
ちょっと困った顔でそう言い、宗一郎の開けていてくれている玄関ドアからみどりは外へ出たのだった。
宗太の気持ちを知ってしまったというのに、何食わぬ顔でアルバイトを続けてもいいものなんだろうか?
だが、このバイトを辞めてしまっては宗一郎に会うことが出来なくなる。
——その事が引っかかり、なかなか先の事への結論が出せない。
どうするべきか迷い、みどりが深いため息をついた時、ノックする音も無く部屋のドアが開き、宗一郎が宗太の部屋へと入って来た。
「今いいかい?」
宗一郎が出来るだけ穏やかな声でみどりへ訊く。
無言で頷くみどりの側に行き、机の上へ出しっぱなしのまま放置されていた彼女の荷物をまとめ、彼がその鞄を手渡した。
「今日はもう送ってあげてくれって」
「……あ。わかりました」
暗い声で返事をし、受け取った鞄をじっと見詰める。椅子から立とうとはせず、ぼうっとしているままだ。
そんなみどりを見かね、宗一郎がそっと彼女の頬へ手を添えた。すると、そんな些細な事なのに、ドクンッと心臓が跳ね上がり、頬が赤みを持ち始めた。脚が軽く震え、じわりと体の奥に疼きを感じる。ちょっとした“パブロフの犬”状態だ。
「まるで、みどりさんの方がふられたみたいに見えるよ?」
俯きながら何と返事をしていいのか思い付かず黙っていると、頬に触れる手が顎に移り、くっと上を向かされた。
近い位置で視線が重なり、みどりの頬が更に赤くなる。口元を引き絞り、彼女は必至に震えてしまうのを堪えた。
「元気を出せとは言わないが、君が落ち込む事はないよ。好きでもないのに付き合う方が、相手に失礼だろう?」
宗太が宗一郎に話した事に少し驚いたが、それ以上にみどりは彼の言葉が気になった。
(それってつまり、自分は好きでもない子とは付き合えないって事だよね…… 。お試しでとか、お友達の延長みたいなお付き合いは無理って高難易度だあぁ)
みどりは切ない気持ちが顔に出てしまい、それを間近で見る宗一郎の心も苦しさを感じた。
「くっ」と短い声をもらし、みどりの顔から宗一郎が手を離す。
膝に置かれたままのみどりの鞄を宗一郎が持つと、彼女に背を向けて、ドアの方へ数歩歩き、「送っていくから」と呟いた。
◇
階段をゆっくり降りながら宗一郎が思い出すのは、当然先程のみどりの表情だ。
自分以外の人間が彼女の心を掻き乱しているのだと思っている彼は、その事が気に入らなくて仕方がない。それがたとえ自分の血の繋がった弟であっても、みどりの心にあるのは自分だけでいい、自分だけでなくては駄目だ…… 。
黒い感情が心を占め、宗一郎は宗太に対して嫉妬心さえ感じた。
無言のまま宗一郎の後にみどりが続く。
(このまま、もうここには来られないんだろうなぁ…… )
そんな事をぼんやりと考えながら階段を降りていると、公園での出来事をふと思い出してしまった。自分に背を向け、公園から立ち去った宗一郎の後姿が、階段を降りていく今の姿に被ったせいだろう。
(そういえば、彼女とは何かあの後あったんだろうか?宗太君の言ってた、泣かされた人達っていうのは何の事だろう?)
ぐたぐたと色々考えながら、みどりが玄関で靴を履いていると、宗太が居間から顔を出してきた。にこっと笑い、「来週またね」と言って、みどりへと手を振る。
その笑顔に対してどう返して良いのかわからず少し戸惑ったが、またここへ来ても良いんだと思うと、みどりは少しだけ気分が楽になった。
「……おじゃましました」
ちょっと困った顔でそう言い、宗一郎の開けていてくれている玄関ドアからみどりは外へ出たのだった。
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