オセロな関係

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
8 / 31

《8》

しおりを挟む


初めて飲んだ夏川さんオススメのお酒のあまりの美味しさに、ついついペース配分を気にせず飲み進めてしまった。

日本酒は糖分とアルコール度数が高い。

それを完全に忘れてた。


「朝比奈さん、実は日本酒も結構イケる口なんじゃないですか?」

「いやいや……このお酒、本当に飲み易いね」

「他のも試してみます?」

「うん、折角だから飲んでみようかな」


こんな会話をする頃には、すっかりほろ酔い状態になっていた。


「日本酒を楽しめるなんて、大人になった気分」

「えぇー?朝比奈さん、年齢的には立派な大人じゃないですか」

「そういう意味じゃなくて……って、夏川さん、先輩に向かってちょっと失礼じゃない?」


美味しいお酒とそれを引き立てる美味しい料理で心地好い気分に浸っていると、帆貴さんが見知らぬ男性を率いて現れた。


「コイツがさっき話していた友達です」


爽やかな笑顔を携える帆貴さんの後ろから男性が控えめに顔を覗かせる。


「……こんばんは」


すかさず夏川さんが席を立った。


「初めまして!お呼び立てして申し訳ございません。私、歌代製菓の夏川と申します。こちらは朝比奈です」


夏川さんの紹介に合わせて私も席を立つ。


「初めまして、同じく歌代製菓の朝比奈です」


バッグから取り出した名刺を男性に向かって差し出す。


「ご丁寧に………ありがとうございます」


その人は、私と視線が絡んだ瞬間、困ったように眉を下げながら微笑んだ。


「歌代製菓の夏川 泉さんと朝比奈……沙羽さん…ですか…」


名刺を受け取った彼は、名刺をポケットに仕舞い、代わりに革の名刺入れを取り出す。


「初めまして、親跡 旺亮ちかあと おうすけです」


名刺に記載された名前を見て思わず「へぇ…」と声が出た。


「“ちかあと”って、こういう漢字なんですね」


珍しい漢字の並びに驚いていると、隣にいる夏川さんも大きく頷く。


「私、教養がないもので、最初読み方分からなくて“しんせき”かと思ってました」


自虐的に言って笑う夏川さん。


「はは、初めて会う方に読み方を必ず聞かれますよ」


きっとこんなやり取りはもう慣れているのだろう。

親跡と名乗った男性は、嫌味のない穏やかな笑みを浮かべながら夏川さんの自虐を軽く流し、椅子を引いた。


「お話を聞かせて下さい。お隣、良いですか?」

「はい、勿論です」


夏川さんの隣に腰を降ろした親跡さんの前に、いつの間にかカウンターに回っていた帆貴さんがお絞りを置いた。


「チカ、いつもので良いだろ?」

「あぁ……頼む」


いつものというのは、彼がこの店の常連という事を示している。

まぁ、帆貴さんと友達というのだから、当然といったら当然か。


「朝比奈さん…」


小声で私の名を呼んだ夏川さんが、上目遣いでアイコンタクトをしてきた。

そして、にんまりと不敵な笑みを浮かべる。

その仕草の意味を瞬時に理解した私は、夏川さんを挟んだ先に居る彼の横顔を眺めながら黙って頷く。


………なるほど、確かにイケメンだ。


夏川さんは、自分好みの男性を見付けると、上目遣いのアイコンタクトで必ず私に知らせてくる。

今回のもそれだ。

彼女の好みは何となく理解している。

幾度とないアイコンタクトから、どうやら奥二重の少し垂れ気味の目をした男性がお好みらしい。

濃くも薄くもない醤油顔で、猫顔犬顔と分けるなら、犬っぽい感じというか。

今回の親跡さんも正にそんな感じで。

サイドがスッキリとしたツーブロックのヘアスタイルが良く似合う、優しげな目元が印象的な男性……

どちらかといえば、私も嫌いじゃないタイプだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...