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side:透也―9

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「いやいや、本当に似合ってますよ」

「ありがとうございます。嘘でも嬉しい…」


水川さんは、赤らんだ頬を隠すように両手で包んだ。

俺の見え透いたお世辞に彼女が全力で照れるもんだから、こちらまで何だか照れてしまう。


「あ、何か……少し自信出たかも。人から褒められる事ってないもんだから…」


心底嬉しそうに微笑む水川さん。


「そう………なんですか…」


俺みたいな赤の他人から褒められただけでここまで喜ぶなんて……

きっと、この人は普段旦那から褒められたりする事はないんだろうなって思った。


「足止めしてしまってすみません。お先に失礼します」

「あ……あぁ、お疲れ様でした」


一礼して俺に背を向けて歩き出した丸い背中。

心なしか彼女の足取りが弾んでいるように見える。

彼女の背中を見送りながら、何だか可哀想な女性ひとだな……と一方的に憐れんだ。




それから少しして


「親睦会………?マジですか…?」


角山さんから聞いた情報が、一気に俺からヤル気を奪った。


「んな露骨に嫌な顔してんなって。しょうがねーだろ、またババアのいつもの思い付きなんだからよ」


ウチの会社の従業員は皆、常務をババアと呼ぶ。

本当はクソを付けたいくらいだけど。


「つっても、いつも急なんすよね」

「本当にな。従業員の都合なんてのは、二の次三の次のなんだろ。自分達がルールな会社だもんなぁ、ウチの会社は」

「だから従業員に馬鹿会社なんて陰口叩かれてんでしょうね。俺はパスしたいな」


端から参加する気すらない俺に角山さんが苦笑混じりに言う。


「どうせ強制だ。諦めろ」



ウチの会社は、定期的に親睦会という名の飲み会が開催される。

時期は不定。

決まって常務が思い付きで言い出す。


「またあの大して旨くない店行くんすかね?」

「だろーな。まぁ、タダ酒飲めるから、俺はそんなに嫌じゃないけどな」


いくら費用は会社持ちでも、それ程仲良くもない人間との飲みは気が進まない。

これといった話題もないし、会社の飲み会である以上、下手に愚痴も言えないし。


「綺麗所が居ればもっといいけどな」

「ははっ、いるのは70近いババアと小太りのオバハンだけですからね」


セメントを練りながら、どうにか参加しなくてもいいような理由を必死に探してた。

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