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おまけエピソード3―⑤side:帯刀
しおりを挟む何故かビビったように目を泳がせた男達に、施設の奥まった位置にある団体客用の部屋まで案内して貰った。
楽しそうな声と手拍子が漏れ出ている部屋のドアを勢い良く開ける。
「カーモンベイビーアメリカ!ドリームの見方を―――…えっ………何?何なの?」
一時ブームになった曲を振り付きでノリ良く大熱唱していた男が歌うのを止めたと同時に手拍子が止んだ。
忽ち部屋の入り口に立つ俺に中に居た全員の視線が集中する。
静まり返った部屋の中で曲だけが虚しく流れ続けている。
「え………誰?このイケメンは…」
「……部屋間違えてんじゃない?」
戸惑う声を無視して凪を探すと、部屋の奥の方で男に凭れ掛かりながら眠っている彼女の姿があった。
「あ……もしかして凪の…?」
一人の女が立ち上がる。
「そう、迎えに来た………キミが真央ちゃん?」
頷く女に「連絡ありがとね」とだけ言って、狭い間を通って凪の元まで足を進める。
「うっそ、凪の彼氏?!」
「へぇ………凪ってばやるじゃん」
何やら色めき立つ凪の友達とおぼしき女達とは反対に決まり悪そうに口を閉ざす野郎達。
こんな酒と煙草の匂いの充満したうるさい部屋でよく眠っていられるもんだ。
「凪ちゃん」
まるで自分の女だと言わんばかりに凪を抱き抱えていた男は、俺の出現に泡を食ったような間抜け面を晒す。
男の汚い手を払いのけて、その場に屈んだ。
「凪ちゃん………凪、起きて」
優しく凪の体を揺する。
「………ん…?」
重そうに瞼を持ち上げた凪は、暫くボーっと俺を見詰める。
認識に時間を掛けた後、ふにゃりと表情を緩めた。
「あ………遼くんだぁ……」
俺を見て嬉しそうに笑う凪に、説教する気で用意していた言葉が全部飛んだ。
「…………遅くなってごめん、この辺信号多いし一通ばっかだし…」
言い訳しながら凪の頬を撫でると、熱でもあるかのように熱い。
「こんなにべろべろになっちゃって………あんまり心配させないでよ…」
辛うじて開かれている目は、焦点が合っていない。
「家まで送ってくから帰ろ?」
すると、凪が首を左右に振る。
「………やだ。遼くん家がいい…」
甘えた声を出して俺に抱き付いてくる凪。
普段人前じゃ絶対こんな事しない彼女が人目を気にせずここまで甘えてくるなんて………酒の力は恐ろしい。
「………そんな我が儘言わないの。また俺が凪のパパに叱られんじゃん」
叱られる………というか、罵声を浴びせられるといった表現の方が正しい。
「やだぁ……遼くん家に泊まる。遼くんと一緒に居たい」
「分かったから、そういう甘えた声出すのは二人っきりの時だけにして」
凪の我が儘は嬉しいけど、他の男に凪の可愛い声を聞かれるのは耐えられない。
脇に落ちてたバッグを拾う。
「荷物これだけ?」
「うん…」
それからジャケットを脱いで凪の肩に掛けた。
「外寒いからこれ着て。立てる?」
「ん……力入んない…」
「んじゃ、しっかりつかまって」
ぐったりしている凪の体を支える。
「手伝います」
「ありがと」
凪の友達二人の助けを借りて、ゆっくり立ち上がる。
そのついでに、凪をベタベタ触っていた男の足を思いっ切り踏んでやった。
男は「いっ……」と短く呻いたけど、素知らぬ振り。
こんな事言ったらアレだけど、凪は着痩せするタイプで見た目の割りに結構重い。
凪を抱えながら部屋の入り口まで向かい、そこで一度振り返る。
「ごめんねぇ~お楽しみの所邪魔しちゃって。どうぞ続き楽しんで」
心にもない台詞を吐いて、おまけに愛想良く手まで振ってやってからドアを閉めた。
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