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おまけエピソード2―①

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清々しい秋晴れの日、友達の輝子の結婚式に招待された。


「良い天気になって良かったね」

「ホント、二人の門出にピッタリな空模様」


大きな窓から差し込む光は、優しくて仄かに暖かい。


「あの輝子が結婚かぁ……何だか想像つかないや」

「そうだね、きっとユニークな奥さんになるだろうね」


新婦側の受付業務の合間に千紗と話を弾ませる。


「私も結婚した~い!」

「輝子に続け……って感じ?」

「続きたいけど、相手いないし~!」


新郎側受付に立つ男性二人にアピールするかのようにわざと大きめな声を出す千紗。

うっかり男性二人の内の一人と目が合ってしまい気まずい。


「千紗ならすぐ彼氏出来るって」

「気休めは結構ですぅ!凪はラブラブな歳上彼氏がいるから余裕だもんね~」

「いや、そんな……」


千紗の嫌味を受け、口元が引きつった。


「凪の一番上のお兄さんてまだ独身でしょ?」

「ん?禅兄ちゃん?まだ独り者だよ」


千紗が顔の前で両手を合わせる。


「お願いっ!紹介して!」

「え……えぇー…」

「この通り!」


千紗の様子からふざけてる訳じゃなく切実である事は分かる。

けど………


「………禅兄ちゃん、かなり気難しいよ?」


それは妹の私でも理解に苦しむ程。

基本優しいけどひねくれた面もあり、加えて結構細かい性格で。


「今まで彼女が出来てもまともに続かなかった人だよ?」

「全然いい!あの美貌さえあれば何でも許せる!」

「え………そういうもんなの?」


とはいえ、千紗にあの兄の相手が務まるかどうかは微妙な所。


「取り敢えず、聞いてはみるけど………期待しないでね」


忽ち千紗の目が輝く。


「期待してるから!」


だから期待しないでってば…




集まった祝儀を式場のスタッフに渡して役割終了。

そのままチャペルへと移動する。


「私、ちょっと御手洗い寄るから先行ってて」

「あ、うん……分かった」


トイレに寄ると言う千紗と別れ、一人でチャペルに向かっていると


「チャペル、そっちじゃないですよ」


不意に呼び止められ、足を止めた。

振り返った先に居たのは、先程新郎側の受付係をしていた男性。

彼は私と目が合った瞬間、ニコッと笑顔を作る。


「チャペルは向こうみたいですよ」


男性が指差したのは、私が向かおうとしていたのとは真逆の方向だった。


「す、すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。良かったらご一緒しませんか?」


親切に教えて貰っておいて断るのも不自然で…


「あ……そうですね、じゃあ一緒に…」


なんて、愛想笑いしながら承諾した。


「新婦のご友人ですか?」

「え、あ……はい、高校からの付き合いで…」

「そうなんですね。自分は新郎の学生時代の後輩で更科さらしなと申します」

「それはそれはご丁寧に……羽鳥です」

「羽鳥さんか………よっし、覚えた」

「え……?」


人見知りしない性格なのか、初対面の私相手にグイグイ来る。

人懐っこいタイプらしい。


「あの、もう一人の方は?」


新郎側で受付をしていたもう一人の姿が見当たらないのを不思議に思って聞いてみた。


「トイレに寄るそうなんで、自分だけ先に」

「私と一緒ですね。私の連れも御手洗いで…」

「そっか」


更科さんという彼は、何故か嬉しそうに「一緒ですね」と復唱した。



彼の妙な態度にモヤモヤしていると、目の前に大きな扉が現れた。

扉の前に立つ式場スタッフが私と更科さんに気付いて「どうぞ」と扉を押し開ける。

薄暗い空間には、式の開始を今か今かと待つ出席者が沢山で、その中から見知った顔を懸命に探す。


「あ、凪!こっちこっち!」


大きく手を上げて呼ぶのは、薄暗い中でも目立つ真っ赤なドレスの真央。

その隣には濃いブルーのドレスを纏った凛香も居る。


「お友達の方ですか?」


更科さんに問われて「はい」と頷く。


「おっ、斗真!おせーよ!こっちだ、こっち」


真央達の反対側で新郎側の招待客と思われる男性が更科さんに向かって手招きしている。


「えっと……ご一緒して下さり、ありがとうございました。それじゃ……」


軽く頭を下げる私に、彼も会釈を返す。


「こちらこそ。この後の披露宴でゆっくりお話出来れば……と思います」

「え?あ………ですね」


彼の社交辞令に社交辞令で返してから、私は真央達の元へと向かった。

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