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前に不意打ちでされた時のように、軽く吸われて離れた。

名残惜しさを感じて、彼の唇を一点見詰めする。


「何だか物足りない顔してない?」

「………」


帯刀さんは私の反応を試すように言いながら角度を変えてもう一度。

今度は深い。


「……ん…………はぁ…」

「んな声出したら止まんないよ?」


欲に満ちた目で私を見詰める帯刀さんに、もっと……とねだるように、彼の袖口を強く掴む。


「ヤバいね……」


息継ぎのタイミングで帯刀さんが呟いた。


「ん……」


青柳さんとしたヤケクソのキスとは全然違う。

桁違いに気持ち良い。

狭い部屋に響く艶かしい水音が興奮を煽る。

力が抜けそうになって、思わずしがみつくように帯刀さんの首に手を回した。

キスの合間に帯刀さんと視線が絡む。

と、突然、帯刀さんは私の体を近くの壁に押し付けた。


「帯な………んぅ…」


逃げられないよう縫い付けられ、再度重ねられた唇。

淫らに舌を絡め合っていると、服の裾から帯刀さんの手が滑り込んで来た。

驚いて咄嗟に唇を離す。


「帯刀さん、駄目………ここ会社…」

「分かってる。でも、だから?」

「だからじゃなくって………これ以上の事はまずいです」


インナーの中で私の体のラインをなぞるいやらしい手を追い出そうと身を捩る。

けれども、その効果は薄い。


「………会社の中でイチャついてる馬鹿達の気持ち、今ならよく分かる」

「や………帯刀さん…」

「好きな子と気持ちが通じ合ってんの分かったら、理性も何もなくなるよね。我慢がきかない」


抵抗虚しく、ブラのホックが外された。


「今すぐ凪ちゃんが欲しいわけよ」

「駄目………っ、」

「凪ちゃんのそれ、駄目って顔じゃないけど?」


帯刀さんからのキスを受けながら、悪さを働く手と必死の攻防。

それに夢中になり過ぎてて、部屋のドアの開閉音が耳に入らなかった。

だから、佐伯さんの年甲斐のない「きゃーっ!!」という絹を裂くような悲鳴に心臓が飛び出そうになった。

弾かれたように離れる帯刀さんと私。


「あ………あわわ……」

「さ、佐伯さん…」


佐伯さんが顔を真っ赤にして硬直しているもんだから、私まで恥ずかしさで固まってしまう。

場の空気を察した帯刀さんがいつものニコニコ笑顔で言う。


「おばちゃんごめんねぇ~、ちょっと取り込み中」


我に返ったらしい佐伯さんは、半分怒り気味で…


「年寄りを驚かさないで頂戴!ちゃんと鍵を掛けときなさいっ!!」


早口で捲し立てた。
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