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「ったく………心臓に悪いったらないわ!」


佐伯さんは一旦部屋を出たものの、すぐに戻って来る。


「凪ちゃん、まだ仕事が残ってるんだから、気が済んだら仕事再開して頂戴!それから帯ちゃん、主任さんから伝言で今日は早く帰って休みなさいって!」


乱暴に閉められたドアを見て、私と帯刀さんは同時に吹き出した。


「おばちゃんのあの顔………笑える」

「真っ赤でしたもんね」


佐伯さんを驚かせておきながら、私と帯刀さんは反省の色なし。


「続きする?するなら鍵閉めないと」


帯刀さんなんか、こんな事まで言っちゃってるし。


「仕事しないとまた佐伯さんに叱られます」

「だね。俺も荷物取りに戻らないとなぁ」


各々大きく伸びをした。


「アイツ………帰ったかなぁ~?」

「あぁ、田代さん?もう居ないんじゃないですか?」

「だといいけどねぇ~」


流石にあれから結構な時間が経過しているし、彼の姿はないと思う。

というか、帯刀さんの精神安定の為にも、二度とこの会社に立ち入らないで欲しい所だ。


「あの人って、いくつ位なんですか?結構歳いってそうだけど、精神面は幼い感じですよね」


見た目からして、30代後半辺り?


「んー……確か、俺の3つか4つ上だし……32か33だと思う」

「へぇ……思ったより若いんですね…………ん?」

「アイツ老け顔だから、もっと歳いってるように見えるけど、意外だよねぇ」


32から3を引く………もしくは33から4……あれ?


「え……帯刀さん…?」


簡単な計算なのに脳の働きが悪いのか、答えを出すのに時間を要した。


「凪ちゃんどしたー?」


不思議そうに顔を覗き込んでくる帯刀さん。

だけど、それ以上に私は狐につままれた気分だ。


「………お、帯刀さんって29歳……?」

「ん、そだよ」

「え………」

「えっ?」


衝撃的過ぎて、一瞬声の出し方を忘れた。


「う、嘘でしょ?!」


信じられない事実にやっと出せた声が裏返った。


「わ、私と同じ位だと思ってた…」

「えぇ?凪ちゃんて、いくつだっけ?」

「25です」

「じゃあそんなに変わらないよ」


いや、そんなに所か、大分違うと思う。

てっきり同い年か精々1つ上くらいかと思ってた。

だって見た目からして30歳一歩手前には見えないし。

下手したら、20代前半にも見える。


「あの青柳さんより歳上……?」

「青柳さんっていくつ?」

「私の2つ上……」

「じゃあ27?あっはは、彼って老けてるねぇ~」


そうじゃなくて、帯刀さんが若く見えるだけ……

青柳さんも帯刀さんの事を年下だと思っていたに違いない。


「と、というか………帯刀さん、精神年齢低くない…?」


これには帯刀さんも目を丸くした。

そして、すぐにニッコリと笑顔を作る。


「あのねぇ凪ちゃん、俺は引き込もってた分、人より2年ブランクあんのよ?精神的に未熟でも仕方ないでしょ?」

「だからって……」


開き直る事じゃないと思う。

帯刀さんは笑顔で「それに…」と続ける。


「泣き虫な凪ちゃんに言われたくないけど?」


悔しい事に、ぐうの音も出なかった。

反論出来ない私に満足したのか、帯刀さんは「じゃあ、またね」と部屋を出て行った。

かと思えば、すぐに戻って来て


「ちょっと見にくいかもだけど、これ俺の番号ね。仕事終わったら電話して」


テーブルに無造作に置いた使い捨てマスクに11桁の数字を記した。

帯刀さんが去った後、普段ならぞんざいに扱い、用が済めばゴミ箱に放るそれを宝物のように大事に握り締める。





そして、その日

私は人生初の無断外泊をする事になった。
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