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しおりを挟む「何を迷う事があるの?」
驚いたように目を見開いて言われた言葉は、逆に私を驚かせた。
「な、何をって……言われても…」
久し振りに学生時代の友達と集まって五人で女子会の最中、最近どうよ?的なお互いの近況報告の流れから、お約束の恋愛トークに発展。
「凪は何かないのー?」と振られて、青柳さんとの間にあった事を話した結果が冒頭の言葉だ。
「だって、将来性のあるイケメンに惚れられてんでしょ?」
「や、惚れられてるっていうか……」
「気に入られてるのは確かなんでしょ?」
「う、うーん………多分…」
曖昧に受け流してみると、私以外の四人はどこか渋い顔。
「親の肩書きに恋した訳じゃない………って痺れるわ~私ならキュン死にしちゃう」
「仮に、本当は凪のパパの権力に魅力を感じているんだとしても、悪い話じゃないんじゃない?」
「そうそう、ハイスペ男子なんでしょ?私だったら、親の肩書き目当てでも全然目を瞑れるけど」
矢継ぎ早に浴びせられる女友達の意見に耳を傾けながら苦笑いするしか出来なくて。
「羨ましいっ!!凪ちゃん、私と代わって!」
何故か挙手しながら立ち上がる暴走系女子の輝子。
「アンタは彼氏居んでしょ?アンタが入ると話がおかしな方向に行くから黙って座ってな」
輝子を冷たくあしらうクールビューティーな凛香。
「えぇー……だってあの人ってばさ、限りなくブラックに近い微糖なんだよ。甘さ控えめ過ぎて時々悲しくなる」
「良いじゃん、ベタベタされるよりは。私のオトコなんか、すぐ擦り寄ってくるし」
恐らく二人の彼氏についての愚痴なんだろうけど、ノロケっぽく聞こえて、これまた苦笑い。
「はいはい、あんたらのノロケは後で聞いてあげるから、今は凪の話ちゃんと聞いてやんな」
仕切り屋の理系女子、真央が輝子と凛香を黙らせる。
「いや、私の話はもういいよ」
皆から責められているような気がして、早々に自分の話題を切り上げたい私は、料理を楽しむ振りしてやり過ごそうと試みるけど……
「いやいやいや!、まだ話は終わってない。てゆーか、何で凪がイケメン、ハイスペから言い寄られるの?!」
昔から地味に私をディスってくる天然デリカシーなしガール千紗が話題転換を許さない。
「そういや、結構凪って昔からイイ男に言い寄られる事多いよね?」
「え………そうかな?」
「凛香や真央みたいな綺麗系ならともかく、割りと普通な感じの凪がモテるのが不思議で仕方ないんだけど」
「…………」
天然の千紗に悪気はないんだろうけど、彼女の言葉は結構グサグサくる。
実は悪意に満ちてたりするのだろうか?
「それは、凪がお嬢様育ちだからじゃない?」
「黙っていても要所要所で育ちの良さが出てるからね。それに控えめで従順そうな所が男心を擽るんじゃないの?」
すかさず真央と凛香がフォローに回ってくれる。
「私だって、自分が男なら、この中のメンバーだったら凪と付き合いたいし」
ここでまたまた輝子が立ち上がった。
「凛ちゃん酷い!小学校からの長くて深い付き合いの私を差し置いて凪ちゃんを選ぶなんて!!」
「アンタと付き合ったら毎日疲労困憊だわ。いいから話をややこしくするな、座れ」
輝子と凛香のやり取りは最早コントの域だ。
「で、話を戻すけど………凪はどうしてイケメンからの求愛に対して悩んでるわけ?」
「凪だって、その人の事良いと思ってたんでしょ?受け入れればいいじゃない」
詰め寄る真央と凛香の隣で腑に落ちない顔の千紗と、変顔をしている輝子。
困りながらも、怒りたいやら笑いたいやら……
どんな表情でやり過ごせば良いのか悩む。
『俺と付き合って欲しい』
あの後、青柳さんに言われた言葉。
嫌な奴に絡まれていたのを助けて貰った日から、ずっと憧れて続けてきた人からの交際の申し込み。
凄く嬉しかった。
彼の言葉に嘘はないと思うし、そう信じたい。
だけど、どうしてだか快く返事が出来なかった。
『………今すぐ返事は出来ないだろうから急かしたりしないけど……なるべく早く良い返事を聞かせて欲しいな。あまり気が長い方じゃないんだ』
考え込む私に青柳さんは優しく言ってくれた。
私なんかに勿体ないくらい素敵な人だ。
格好良くて優しくてスマートで、申し分ない事この上ない。
そんな青柳さんと恋人同士になるのを夢見てた筈なのに、胸の辺りがざわざわして、モヤモヤと落ち着かない感じがする。
自分でもこの感情が何なのかよく分からないし、説明がつかないから尚の事質が悪い。
皆が言う通り、何を悩む必要があるのだろう?
分からない………全然分からない…
「凪ちゃん、眉間に深い皺が……」
輝子が心配そうに見てくる。
「相当悩んでるんですな……」
すると、真央が何気なく言う。
「そんだけ悩むって事は、他に気になる男が居るとか?」
真央の指摘に、私以外の全員が顔を見合わせた。
「それだ!!」
「え………」
凛香がビシッと人差し指を私に向ける。
「思い当たる節は?」
問われてすぐに思い浮かんだのは、例のチャラついた人で。
「いや、ないないない!」
首を左右に振って皆に否定しながら、自分でも“有り得ない!”と思い浮かんだ顔を打ち消した。
ある意味気にはなるけど、彼はそういう対象じゃない。
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