売名恋愛

江上蒼羽

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計画始動⑪

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「え………そうなんですか?」

「そっ、字を読むのが好きでさ……超インドア派。家にありとあらゆるジャンルの本が山積み状態であんの」


そう言って、得意気な表情をする忍足さん。


「へぇ………なんか、意外……スポーツとか好きそうなイメージ持ってました」

「あー……何故か知らないけどよく言われる。スポーツやってるの?って。何でも運動神経良さそうに見えるらしいよ。実際は十人並みなんだけどね」

「へぇ……本当に意外…」


てっきり「サッカーやってました」とか「バスケが趣味です」ってサラリと明言するような、キラキラ男子かと思っていた。

いや、こっちが勝手に“イケメン=スポーツが得意”というイメージを持っていて、忍足さんもきっとそうなのかなって思っていただけなんだけれども…

意外だよなぁ……と、思わずにはいられないというのは、偏見なのだろうか?


「だから別に気に止む必要ないと思う。ここまでどっぷりだとは思わなかったけど……何かに夢中になるのは良い事だよ」


てっきり、露骨に嫌悪感剥き出しにされるとばかり思っていたのに……


「子供向けのショーに付き合わされるのには少々抵抗を感じたけど……子供向けとはいえ、役者として学べる事が少なからずあったから結果的に良かったし…」

「う、すみません……」

「謝らなくていいって。良かったって言ってるんだから。寧ろ、それをキャラとして売れば良かったんじゃない?○○好き芸人~のトーク番組だってあるんだし」


オタクな私を、皆が馬鹿にして笑った。

キモいという言葉を何度も浴びてきた。

でも、忍足さんは、私を気持ち悪いなんて言わない。

それどころか、親にさえ呆れられた趣味をサラッと肯定してくれて……

間宮以外に私を分かってくれる人なんて居ないだろうと思っていたから、彼の言葉が嬉しかった。

忍足さんとしては、何気なく軽い気持ちで言ったのだろうけれど……


私の胸に大きく響いた。

人間という生き物は、他人から肯定される事に喜びを感じる生き物らしい。

一口サイズより少し大きい位まで小さくしたホットドッグ。

それを一気に口に詰め込み、頬を目一杯膨らませながら咀嚼する。


「次は何乗ろっか?…………と、その前に、口の周り拭かないとね」

「………むぐっ…」


咄嗟にティッシュで口元を拭うと、べったりケチャップが付着していた。


「前回はビールの泡で、今回はケチャップ……口に何か付けるの好きなの?」


目を細めて笑う忍足さんに、私は恥ずかしさを堪えながら、ややしつこめにゴシゴシ拭った。




少し物足りなさを感じながらも、取り敢えずは腹拵えを済ませ、再びアトラクション巡り。

巨大迷路を探索したり、トロッコみたいなやつに乗ってみたり。


「このスペース何ちゃらってやつ、面白そう!乗りません?」

「いいね。あ、その次はあの回るブランコみたいなやつ行かない?」

「え………高い所でクルクル回ってるやつですか?」

「そうそう、行こうよ。怖かったら下見ないようにすればいいんだし」

「………そういう問題じゃない気が…」


散々拒んだジェットコースターに、ホラーハウスもクリアした。

ぎゃーぎゃー悲鳴を挙げ過ぎて、酒焼けしたみたいに喉がガラガラ。

其々のアトラクションに乗れるまでの待ち時間は長いけれど、忍足さんとのお喋りでそれも苦にならない。




「ちょっとこれは……パスしない?」

「いいじゃないですか。折角なんで乗りましょうよ」

「いやいやいや……こういうのキャラじゃないし」

「えぇ?来た時にアトラクション全制覇って言ってたじゃないですか」

「だからって……」


忍足さんが全力で拒否ったのはメリーゴーランド。

私の苦手な乗り物には無理矢理乗せた癖して、自分だけ逃げようったってそうはさせない。

引き摺るような形で白い馬に乗せた。


「これ、マジで恥ずかし……」

「あはは、よく似合ってますよ~」


頬を染めながらポールにしがみつく忍足さんの姿は、今日一番の思い出。




そして、遊園地デートの締めといえば、やっぱり……

遊園地の敷地の中でその存在を大きく主張している大観覧車。

徐々に上昇していくゴンドラ。

外界から隔離された空間に、ホッと力が抜けたと同時に、小さな溜め息が漏れ出た。


「……疲れました?」


忍足さんからの問いに「いえ……」と返してからすぐに「あ、やっぱり少し……」と言い直す。


「はしゃぎ過ぎちゃったみたいで……それに、人に見られていると思うと気も抜けないし…」


常に誰かからの視線を感じながらの行動は肩が凝って仕方ない。

何だか見張られているみたいだし、一応は芸能人という肩書き故に悪いイメージが付かないよう行動しなければならない。

それに併せて、人生初の異性とのデート。

緊張も相まって、心的疲労がピークに達しつつある。

それでも……


「疲れたけど楽しかったです、凄く」


ビジネス上のデートの筈が、途中からそれを忘れ、本気で楽しんでしまっていた。
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