その声は媚薬.2

江上蒼羽

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未来の為に⑪

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私と同じ年頃の女性なら、付き合っている彼から結婚したいと言われたら涙を流すなり、しおらしく照れて見せながらも喜ぶのだろう。

そんな可愛らしい反応が出来ないような湿気た自分は、何かしらの感情が欠けているのかもしれない。

こんな女、結婚相手としては今一つかもよ?と言いたい。


「私も竜生とずっと一緒にいたいって思ってるから、一緒に暮らそうって言ってくれて嬉しかったよ」


ここでほんのり竜生の固い表情が緩む。

彼のこういった分かり易い部分も私としてはツボ。


「竜生が私との未来を真剣に考えてくれてるなら、私もそれにしっかりと応えたい」


同棲している内に、結婚したい欲が湧き出てきたりするのだろうか。

彼の子供を産みたいとか思うのだろうか?

現段階じゃ、どれも考えられない事柄だけれど、竜生と一緒に暮らす内に自然と望めるようになればいいなと思う。


「取り敢えずは、いつから竜生の家にお世話になっていいのかな?」


竜生の表情がパアッと明るくなった。


「いつでも。何ならこの旅行の後すぐでも構わないよ」

「あはは、それは性急過ぎ」

「俺あんまり有休使わないから結構溜まってて。いつでも休むから早く引っ越しておいでよ」


満面の笑みで楽しそうに言う竜生につられて私の表情も緩む。


「一緒に暮らしたら、おはようからおやすみまで竜生のフルボイスを独り占め出来ちゃうね」

「俺は瑞希に行ってらっしゃいとお帰りを言ってもらいたい。てか、毎日一緒だと耳が慣れちゃうと思うよ」

「そんな事ないよ。竜生の声程心地好い声ないから」


朝はイケボで目覚め、夜はイケボで眠りに落ちる………想像の時点で既に楽しい。

一日の終わりが大好きな声で締められると思うと最高じゃないか。

締まりのない顔で妄想に耽っている私に竜生が言う。


「結婚については、一緒に暮らしていく内に追々二人で考えていこう」


竜生の期待に満ちたキラキラと輝く眼差しが子犬のように愛らしく、喜びが全身から滲み出ている。

そんな彼を微笑ましく思いながら「そうだね」と返事をして、すっかり温くなったお茶で喉を潤した。

湯呑みを置いたとほぼ同時くらいに、竜生が静かに立ち上がる。

トイレにでも行くのだろうと気にも留めずに、テレビでもつけようかとテーブルの隅のリモコンに手を伸ばしかけた所で部屋の明かりが消えた。


「え……停電?」


にしては、部屋の隅の小さな明かりは点いている。

真っ暗という程でもない。

意図的に電気が消されたのだと気付いた時、背後から腕を引っ張られる。


「竜生?」


よろけながら立ち上がった私の耳元に艶っぽい声が響く。


「瑞希、そろそろ布団に行こう」

「っ?!」


全身が電流が走ったみたいに痺れた。

  
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