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未来の為に⑦
しおりを挟む露天風呂で汗を流し、本館に用意された食事を楽しんだ。
豪華絢爛な食事と美味しい地酒にほろ酔い気分で離れの客室へと戻る道中、ふと「瑞希、見て」と竜生が立ち止まる。
彼の視線の先に目をやると、暗闇にいくつもの淡い橙色の光が浮かんでいた。
離れ小島になっている客室の明かりが、沢山の灯籠みたく神秘的な光を放っている。
「綺麗だね」
「うん、異世界に迷い込んだみたい」
目の前の光景に圧倒されていると、指先に竜生の手が触れる。
何やら遠慮がちにチョイチョイと当たる彼の手が何をしたいのかすぐに分かって吹き出しそうになったものの、それを堪えながら、あまりのもどかしさに逆に自分から彼の手をぎゅっと握った。
どうやら私の動きが予想外だったらしい。
ビクッと大きく体を震わせる竜生の様子に堪えきれずに「あはは」と声が出てしまった。
「今日1日ずっと手を繋ぐタイミング窺ってたでしょ?何となくソワソワしてる感じがした」
「…………恥ずかしながら」
小声で「情けない……」と項垂れる竜生はウブな思春期男子みたいだ。
手を繋ぐよりもっと凄い事してるのに何を今更……と言いたい所を我慢し、代わりに
「竜生とここに来れて良かったな。連れてきてくれてありがとう」
と、しおらしく言ってみた。
すると、繋いだ竜生の手に力が入る。
心なしか汗ばんでいるようにも思えた。
「お、俺も……瑞希と一緒に来れて良かった」
「はは、何か緊張してる?」
私が茶化すように言うと、竜生が暫し黙る。
それから深呼吸を一度。
不思議に思っていると、彼はわざとらしい咳払いをしてから意を決したように「あ、あのさ」と切り出す。
と、同時に体がブルッと震え、私の鼻がむずついた。
「瑞希―――…」
「は………くしゅっ」
咄嗟に口元を覆う。
我ながら可愛らしいくしゃみだと思う。
「あ、ごめ………何?」
改めて竜生に向き直ると、彼は困ったように眉を下げて「はは……」と笑う。
「少し肌寒いね」
「ん?うん、少しね」
「ずっとここにいたら折角温泉で温まった体が冷えちゃうね。部屋に戻ろう」
「え、あ……うん」
竜生が何を言おうとしたのか気になりつつも、言われるがまま彼に手を引かれて部屋へと戻った。
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